残酷世界でバカやろう 【ダーク・ファンタジー】

芳乃 美葉子

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第2話 化け物

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「姫様?」

少女は金色の髪がだらりと垂れ、頭からは水色の綺麗な角が生えていた。

ロイは目の前の少女が姫ではないとわかりつつも自然と笑顔を作った。

少女は答える。

「不思議な人ですね。
顔は笑顔なのに悲しみと怒りに溢れている。
なのに心は空っぽで生きているかもわからない。」

少女の目からはツーっと涙が垂れ落ちた。

「なんなんだお前は?
何をして閉じ込められてるんだ?」

ロイは興味半分で質問すると少女はロイの顔をじっと見つめて。

「私は、・・・。
等価交換と人の心が少しだけ読めます。
この角のせいもあり、怖がられていたのですが貴方は怖がらないのですね。」

「・・・。」
ロイは無言で少女の拘束を外し始める。

「この国の王は私を利用したいみたいで、ここに閉じ込められているのですが。」

「拘束は全部外した。 自由だぞ。」

少女は外に出ようとするロイに手を伸ばし「待ってください。」と触れたのは熊のぬいぐるみだった。

「‼︎⁉︎
貴方はなんで? そんなにも大事な、その為になら死んでも⁉︎」

少女はその場に座り込み、すみませんと何度も謝った。

ロイはその声を聞きながらも後ろを振り返らず進んでゆく。

城の中を登り歩いていると周りが騒がしい。

脱獄したのがバレたのだ。

だが、王の部屋は目と鼻の先。

勢いよく扉を開けると目の前には大きな玉座に座るユラビナ国の王と赤い靄がかかったような顔が歪な印の謎の人物がいた。

「あぁ、やはり来たか。来てくれたか。」

「本当にお前がアリエント国を裏切ったのか?」

「裏切る? まぁ、裏切りだな。
でも殺してはいないよ。
皆生きている。
そういう儀式なのだ。」

「訳の分からないことを言うな、お前を斬ってそれで終わりだ。」

「強い魂が欲しいんだ。
君を最後に食らえば私はもっと大きな国の王になることができる。
ほら、皆が待っているぞ!」

ユラビナ国の王が服を脱ぐと腹には見知った顔がびっしりと浮きあがり、「助けて。」「助けて。」と話し始める。

「これを見てもかい? 貴様に私が斬れるかね?
はっはっはっハっハッハっバッバッバババババ。」

黒い人物の顔に大きく映る歪な印と同じ印の上に乗るとユラビナの王は高笑いながら大きく、醜く、どんどん得体の知れない蟲のようになっていく。

「なんだよ、これは!?」

印の人物は答える。
「これは、次の時代の一歩目であり、愚かな王が印に囚われた結果だ。」

「お前は一体なんだ?」

「助言者だ、力を与えられた愚者は生贄を求める。

生贄は時代の変化に必要な物であり、回収するのが我の役目だ。

惜しいな、お前は強い魂を持つが故に戦いを求められ続けるだろう。」

「つまり、お前が裏切れと提案したのか?」

「然り、それは時代の過程に過ぎない。」

瞬間に赤い霧が広がり印の人物は消え、一気に霧が晴れる。

そこには、化け物がそそり立っていた。

ゾウのに似た6本の足からは不規則に繋がる油っぽい何個もの胴体が連なり、胴体から浮き出た膿から数個のカマキリのようなかぎ爪と多くの弾力性のある黒い触手が踊り狂い、発酵した生ゴミの匂いを放つ。

8mはあるであろうその頂上の膨らみからユラビナ国の王の顔が現れるのだ。

「ば、化け物!?」

「さあ、貴様も、貴様も、き様もぉぉぉぉォォォォ。」

四方八方からビュウゥゥゥと空を切るように確実な殺意で触手を飛ばしてくるのだ。

ここは化け物の射程内だ。

ロイは無意識に後ろに飛び剣を構え、前から飛んでくる触手の力を使い距離を大きく離したが、少し遅く、上から振り下ろされたカギ爪に唯一の剣が割られてしまう。

「判断が遅れた、そしてあの触手さえもこの剣では切ることはできない⁉︎」

化け物は笑いながらロイに向けて走り始める。

そのスピードは8mの巨体とは思えぬ程の早く、ロイは目の前からせまる触手の壁に全身を打ちつけられた。

ロイは部屋の壁を突き破り、隣の壁に叩きつけられる。

「脱獄者⁉︎  王の部屋の近くだー!
いたぞー!」

「こんな時に、⁉︎」

ロイは飛び上がり姿勢を低くすると、それに合わせるように何かが音も立てずにすり抜けるのだ。

目の前では、鋭い物に切断された石の壁と隣にいた兵士がガラガラと崩れ落ちる。

「避けるなぁぁぁぁ‼︎」

叫び声と共に上から瓦礫と共に黒い壁が落ちてくる。

ロイは折れた剣を上に立てて触手の一本に突き刺し持ち上げる。

身体はメキメキと音を立てて意識が吹き飛びそうになった瞬間に床が崩れ落ち、どんどんと床を破壊しながら落ちてゆく。

「勝てないのか?
俺は化け物と戦って負けるのか?」

そんなことを考えていると、すぐ隣には角の少女がいた。

「逃げろ、化け物すぐに上から降ってくるぞ。」

「知っています。
あの化け物を倒したいですか?」

「倒せるのか?」

角の少女はぬいぐるみに指を刺すと
「1番大事な物を手放せば、可能性はあります。」

「これは、。」

ロイは角の少女を姫様の姿と重ねて、少女の手を取り顔を下げると
「姫様、ハガル様を私の身勝手に付き合わせて申し訳ありません。
最後の約束も先程まで守れずにいた私を許してください。」

顔を上げたロイは笑顔だった。
痙攣したように顔をピクピクさせたなんとも微妙な笑顔だが、そこには温かみがあったのだ。

それを見た角の少女は困惑した表情をすると深く息を吸って、ロイの口を上に広げて
「ローイ、もっと笑ってー!」
と笑顔で答えた。

手の中で姫が息を引き取った時も流れはしなかった涙がロイの目から、滝のように溢れて出る。


等価交換
その価値は人によって変わる。

ぬいぐるみが消えてゆく。

自分の守るべき物を全て無くしたロイは生きる目的を失ったと同じだ。

魂を供物として捧げ、逃れられぬ戦いの運命世界に自ら飛び込んでいくのだ。

故に今までの人生、これからの平和であっただろう未来の全てが力として身に宿る。

黒い身体は鎧に、青いリボンは大きな剣に変化していた。

「これで、戦えるのか?」

大きな音を立て、人が混じった瓦礫と共に化け物が降ってくる。

「ん!? 装備を整えたか。
圧倒的な力を目にして尚、貴様は立ち向かうのか!」

「人の言葉が上手いな、珍獣もどき。
これ以上悪さしてるとステーキにしちゃうわよ。」

ロイは笑顔で青い大剣を構えるのだ。

「食肉になるのは貴様だ。 その四肢もいで噛み砕いてやろう。」

突き刺すように走り抜ける大量の触手全てを大剣で切り上げ一振りで両断すると、上から振り下ろされたカギ爪と剣の先と先をぶつけてかち割るのだ。

両断した音はゴムのように鈍く、カギ爪は大きな金切り声をあげてガラスのように飛び散る。

切り飛ばした触手は後ろの壁に勢いよく突き刺さり、穴だらけの壁はガラガラと音を立てて崩れる。

「この剣は凄いな、硬いし、軽いし、かっこいいのトリプルKだ。」

「なぜ、だ!?
なんなんだ、その剣は⁉︎」

触手で身体を支えながらぶんぶんと回転させた化け物は、横からゾウの6本の足が遠心力を乗せて振り下ろす。

飛んでくるのはその身に受ければ全身がゼリーになりそうなほどの質量が足。

ロイは恐る気持ちを無くしたように自ら距離を詰めた。

付け根を狙い剣を叩き込むと、2本の足が(グジョァァ‼︎)と吹き飛んでいた。

瞬間に剣の向きを変えて、そのまま胴体をもぶった斬る。

化け物の胴体は花火のように儚くも激しく舞う。

足を失った化け物はロイを近づけまいと触手を振り回すが一本を捕まれ手繰り寄せられていく。

ロイは向かってきた攻撃を斬り落としてながらじりじりと近づく。

最後には顔から下は何もない化け物の姿がその場に転がっていた。

「待て、待ってくれ!!」

化け物は泣き叫ぶ。

先程まであった余裕はどこかへ消え、残ったのは口と表情だけだ。

かつて王だった化け物は自分の顔にアリエント国の姫の顔を増やすとロイを脅し始めた。

「こいつの魂は俺がもっているんだぞ!
俺を殺せばこいつも死ぬぞ‼︎

やめて、ロイ、私を助けて。」

ロイは少し黙ると、無言で化け物の顔面を素手で引き裂いたのだ。

「なん、で⁉︎」

「姫様は俺のことをローイと呼ぶんだ。」

化け物はもう動かない。

気がつくとロイは周りをユラビナ国の兵士に取り囲まれていた。

しかし、戦意は喪失していた。

当たり前だ、目の前の人間は自分の王と同じ声、同じ顔をした化け物をその身一つで倒しきったのだ。

その化け物が自分達の王であった事、目の前にいる男に戦いを挑んで勝てる気がしない事、もしもこの男が化け物を倒せなかった場合、化け物がこの国を支配し、もっと多くの犠牲者がでたであろう事。

だが、この男が怒りに身を任せて襲ってくるかもしれない。

逃げ場もなく武器を捨てた兵士達はただ神に祈るだけであった。

ロイが歩き出すと兵士達に緊張が走る。

ロイは角の少女の前までゆっくりと歩き、しゃがみこむ。

「ありがとう。 
君のおかげでなんとかなった。
俺はろ・・・、ハガルだ君は?」

「私の名前はセチアです。」

「セチアか、俺は、」

「はい、存じております。
その旅に私もお供しますよ。」

ハガルと名を変えたロイはセチアを抱き抱えるとどこかへ消えていった。
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