剣闘大会

tabuchimidori

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2戦目

温泉街カドキ:前編

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「エレアちゃん、見て見て」
 馬車に揺られてうとうととしていると、馬車の持ち主である夫婦に起こされた。奥さんの声に従って荷台を覆っている布を開けて外の景色を窺う。
「わぁ……。これはすごい景色」
 最後に見た景色は緑一面の草原だったが、今はその影もなく至る所から湯煙が上がっていた。気温もいくらか高く蒸し暑さも感じられるほどだった。
 温泉街カドキに着いた証拠だった。

「ここまでありがとうございました!」
 カドキまでエレアが護衛する代わりに馬車に乗せてもらっていた行商人の夫婦に満面の笑顔でお礼を言う。
「こっちこそありがとうね。剣闘大会ガンバってね!」
「何かあったらぜひうちの商品を買って行ってくれ」
 お互いに握手をして気持ちの良い別れを済ませて、エレアは長い時間同じ姿勢だった身体をほぐすように伸びをする。
 そんな彼女の姿に道行く人は目を奪われる。彼女の身長が女性にしては高いからとか、黒いポニーテールの髪型が腰まで長く目立っていたとか、すらりと伸びた手足がモデルの様だからという人も中にはいるが、大半は彼女の服装が気になっていた。
 右手と左足の肌は露出しているのに、左腕と右足はつま先までしっかりと衣類に守られていたのである。非常にアンバランスでアシンメトリーな服装だったのである。
 ――さて、とりあえず支部に行きますかね。
 そんな周りの視線はいつも通りと、特に気にすることなくエレアは近くにいた人に剣闘大会支部の位置を聞くことにした。馬車を降りたのは街の入り口で、剣闘大会支部の建物は街の中央で歩くと十数分かかると教えてもらう。
 街の人に言われた通りの道を歩いている途中で、エレアは燃える様に赤い手羽先を売っている店を見つける。
 ――わぁ辛そう……、絶対ヒリューが好きだろうな。
 エレアは相変わらずの自分の思考回路におかしくなって笑いそうになるのを堪えて街を歩く。
 カドキに来るまでの工程は長く、途中で馬車に乗せてもらったおかげでここまで五日で来れたが、その道中でもふとヒリューとセキヤのことを考えている自分がいて意外に感じていた。
 ――旅に出る前は大丈夫だと思ってたのになぁ。
 ヒリューとは二つ上、セキヤとは一つ年上で三人の中で一番の年長者として、お姉ちゃんとしての自覚があったエレアはここ数日の自分を思い返してまた笑いそうになるのを抑える。一人って結構寂しいんだなと痛感していた。
 そんな寂しさを客観視して、笑ってごまかそうとしてしまう自分にも驚いていた。現実を直視できない甘えん坊な子供みたいだと思ったからだ。
 ――気を引き締めないと、こんなんじゃあの二人に笑われちゃうよ。
 結局また二人の事を考えているのだが、自分とあの二人を切り離すのは無理だと悟って、むしろ元気の源に作り変えようと切り替える。
 ――そうだ、あれを買って食べよう。そして今度会ったらおいしかったと思いっきり自慢してやろう。
 その時のヒリューの悔しそうな表情を想像して、エレアは笑いながら店の人に注文した。

「らっしゃい……、ってこないだの鍛冶屋杯に出てた子じゃねぇか!」
 剣闘大会支部に入ると髭面で気前の良さそうな笑顔を向けてきたおじさんが出迎えてくれた。私のこないだの戦いを知ってるのはちょっと嬉しく思えた。
「あ、見てくれてたんですか。覚えてもらえて嬉しいです」
「いやぁ、あれを見てたら大抵の人は覚えるよ。普段からその恰好なんだ?」
 剣闘大会は基本的に魔導テレビで全国各地に放送されている。と言っても鍛冶屋杯は予選も予選で、見ている人は剣闘大会関係者かよっぽどの物好きである。普段のクラブリーグのサッカーを見る人は少なく、ワールドカップだと見る人が多いというのと同じである。その髭面のおじさんは支部に務めている関係者だからチェックしていたのである。
「うん、これがお気に入り。やっぱり目立つよね」
 おじさんに言われて改めて自分の恰好を見返す。自分としてはもう小さい時からこのスタイルで過ごしているから違和感はなかったけど、やはり会う人会う人全員からこの恰好の事を言われると少し直そうかという気にもなる。まあ気になるだけだけど。
「ま、服装なんて自由で良いじゃねぇか。裸じゃあるまいし」
「……セクハラ?」
「ちげぇよ。一般的な倫理の話をしただけだ。……ここに来たって事は宿舎の手続きか」
「うん、空いてる?」
 剣闘大会支部は宿舎も用意されていて、剣闘大会参加者は格安でそこで寝泊まりできるのである。剣に宿す魔力は各地を回って探した方が様々な種類の魔力を手に入れられる。しかし国内をあちこち旅するにはそれだけお金が必要となる。貧富の差が剣闘大会における差にならない様に大会側が街に支部を置いているのである。
「もちろん空きはあるが、他の街の支部は利用したか?」
 何でその質問をするのか疑問だったが、エレアはもちろんあると答える。するとおじさんはニッと口角を上げる。
「この街の宿舎はちょっと他とは違うんだよ」
 おじさんが自慢げに話し出す。
「ここは温泉宿がそのまま宿舎として利用できるんだよ。温泉も入り放題だぜ」
「ホント!?」
 机に身を乗り出して驚きを表現する。正直温泉は1回だけ入れれば良いなというつもりだったから、入りたい放題と聞いてテンションが上がった。やはりヒリューとセキヤとも一緒の方が楽しかっただろうなと思った。おじさんはその反応に満足してさらににやけ顔を強調した。
「ああ、それで今空いてる旅館がだな……」
 おじさんが旅館のリストを後ろの棚から取り出した時に、新しい来訪者が支部にやってきた。
「こんにち……あっ、こないだの鍛冶屋杯に出てた人だ!」
 ついさっきも似たような挨拶を聞いたなと思いながら、エレアは背後にいるその来訪者の方に振り向く。そこには髪を左右に二つに縛っているかわいらしい髪型をした、しかし背中には不釣り合いな大剣を担いだ少女が立っていた。
 エレアが挨拶を返そうとするよりも先におじさんが不機嫌そうに少女に声をかける。
「なんだ嬢ちゃんか、迷惑だから帰れ」
 エレアは取り付く島もない態度のおじさんに少し違和感を感じたが、そんなことをつゆ知らずその少女はおじさんに噛みつく。
「リリィって名前があるって何度も言ってるでしょ!」
「フジミヤさんのところのお嬢さんだろ。知ってるって」
「ちゃんと名前を憶えてよ!」
 喚きながらエレアのすぐ横まで来ておじさんに怒鳴る。エレアは元気な子だなと思いながら、ヒリューに比べたらさすがに声が小さいなとも思っていた。
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