剣闘大会

tabuchimidori

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4戦目

前途多難

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「うっそだろ……」
 第一回鍛冶屋杯が終わった後、ヒリューはエレアたちと別れてから途方に暮れていた。
 というのもまず剣の師匠であるクガに勧められたノンリの場所の情報が全く得られなかったからである。このノンリに関する情報収集を他の二人に手伝ってもらう事もクガに禁止されていたから効率が悪かったというのも関係しているが、そもそも様々な地域の情報を独自のネットワークで開拓している剣闘大会支部にすら載っていない場所なのだから、ヒリューでなくともセキヤやエレアでも簡単に情報は手に入らない場所なのである。
 しかし当然赤毛の少年はそんな事も知らず、一体この先どうやってノンリを目指せば良いのか早速悩んでしまっているのである。
 加えて、彼が現実を直視したくなくなる状況が目の前には広がっていた。
 そう、財布の中身がごっそり無くなっていたのである。
 現在ヒリューはテレランの街を出て北へと向かっていた。彼らの故郷であるバンガーの村は南部に位置する村で、周辺の地理は一応それなりに知っているつもりでいるので、今まで聞いた事のないノンリは北側にあるのではとヒリューなりに考えた結果のアクションだった。
 問題はその北へと進んでいた時、とあるキャラバンと共に花の都市で有名なフリティアの街まで来た時である。護衛を引き受けたキャラバンと別れを告げて、近くの飲食店で昼飯を豪快に食べてお会計を済まそうとして財布の中身が全く無くなっていた事に初めて気づいたのである。
 レジの前でにこやかに代金の支払いを待つ店員がいて、ヒリューはその笑顔に対してひきつった笑いしか起こせなくなっていた。
 ――えっ……、いつから無くなってた?
 財布の中身がいつ無くなったかを探るよりもその状況をどう打破すべきかを考えるべきなのだが、ヒリューは突然の危機的な状況に冷静な判断ができなくなっていた。
「お客さん、どうしました?」
「いえいえいえいえ! 何でもないですよ!」
 店員に声をかけられただけでもテンパっていつも以上に大きな声と大きなリアクションを取ってしまう。当然店員は何かあったのかと疑問の視線を投げかける。
 ――いや今はとにかくこうだ!
 店員と目が合った事で今どうすべきかに気付いたヒリューは、何の躊躇いもなく即座にその場で膝を折って膝を地面に付けて、そして額も地面に付けて、土下座をした。
「すいません! お金がありませんでした!」

 潔い土下座を店長が見届けていたようで、一時間の皿洗いでチャラにしてくれるという話で済む事となった。
 しかしヒリューは家事全般をセキヤとエレアの二人に禁止させられている程に不器用だったため、皿洗いをしても皿を悉く割ってしまう迷惑っぷりを発揮してしまい、結局資材搬入などの力仕事が向いている事に店長が気づいた後から一時間きっちり働く事となった。実際にその飲食店で働いていた時間は三時間ほどだった。
 ヒリューとしては迷惑をかけた分なんとか取り返そうと店長にもっと働くと申し出たが、「これ以上店にマイナスが出ないように君を働かせる方法が見つからない」と却下されて、仕方なくその店を後にするしかできなかった。
 ――くっそ、これも財布の中身を盗んだ奴のせいだ。
 こうなったらお金を取り返した後でちゃんと食事代を支払おうと決めたヒリューは、一緒にここまで来たキャラバンの所へと向かう事にした。

 幸いキャラバンはフリティアの街で出店を開いていたので、すぐに見つける事に成功した。
「おいあんたら! 俺の金を盗んだだろ!」
 問題はヒリューが客のいる前で盗人呼ばわりした点である。再三言うように彼の声は非常に大きく通りやすいので、行商人が多く集まって賑やかな露店通りにおいても、その声は多くの人間に届いてしまった。
「お前さん、何言ってるんだい?」
「とぼけんじゃねぇよ! 昨日まであった金がここに着いた途端に無くなってるんだよ! あんたら以外に犯人がいるか!?」
 ヒリューはどうしてもお金を取り戻したい怒りでさらに声を荒げる。
「あ、ちょっとお客さん!?」
 店主が引き留める間もなく、店先の客がヒリューの大声に怖気づいてそそくさとその場から離れていった。
「お前さん……、今のは立派な営業妨害だって分かってるのか?」
「盗人のくせして偉そうな事言うな!」
 ヒリューは完全にキャラバンの人間が犯人だと決めてかかっているので、これはまともに話すだけ無駄だと店主は諦めた。
「大した証拠もなく怒鳴り散らすバカが一番嫌いなんだよ。おい誰か憲兵呼んで来い」
 店主が裏にいた仲間に声をかける。ヒリューは自分の事を気にも止めていない態度に余計に苛立つ。
「早く金を返せよ!」
「不良品をつかまされたわけでもないのに返金要求するんじゃねぇよ。とりあえず話はあっちでしてこい」
 店主がしっしと手先でヒリューを追い返すようなアクションを取ると同時に、ヒリューの両脇をむんずと抱きかかえる屈強な男が二人いた。先ほど店主が呼んだ憲兵である。
「大声で騒いで営業妨害している少年、間違いないな」
「大丈夫大丈夫、怖くないわよん。とりあえず話は事務所の方で聞くわよん」
「離せ! 下せ! 悪いのはあいつらの方だって!」
「はいはい、そういうのも全部聞いてあげるから焦らないのん」
 全く腕を振りほどけないほどに完璧に両脇を抱えあげられているヒリューは、それでも最大限抵抗しながらもあえなく商店街を後にせざるを得なかった。
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