剣闘大会

4戦目

支部のお姉さん

　ヒリューが事務所で屈強な男二名に事情を説明し終わって、とりあえず注意だけで解放された時にはすでに日が沈んでいた。ヒリューの思い込みの激しさと説明力不足と、途中から完全に関係なく剣闘大会に関する話までしていた結果である。ヒリューも第一回鍛冶屋杯で派手なデビュー戦勝利を飾っていたのと、クガの弟子という事もあって結構な認知度があったからだ。
「あー……、マジどうしよう……」
　さっきまでの勢いはすでに見る影もなく、とにかくお金がないという事と、これからどこで寝泊まりすべきかという事の二つの悩み事がヒリューの脳内を占拠していた。
「とりあえず……、支部に行くか」
　お金がない事に関しては支部に行けばどうにかなると散々三人から聞かされていたのでその言うとおりにフリティアの剣闘大会支部へと向かう事にした。
　――今日はもしかしたら、野宿か。
　それはそれで久しぶりにありかと思いつつ、剣闘大会支部の扉を開く。
「いらっしゃい。あなたがヒリュー君ね」
　中に入ると同時に受付にいた紫色の髪をしたお姉さんに声をかけられる。
「あれ、何で俺の名前知ってるの？」
「憲兵さんから連絡が入ってたからね。お金を盗まれたんでしょ？」
「そう、なんだよなぁ……」
　お金を盗まれた現実とその後に色々と問題を起こした自責の念でテンションがまた下がって肩を落とす。
　――怒るとどうしても止まらなくなっちゃうんだよな。
「ふふ、災難だったわね。とりあえず今日はここの空き部屋を使って。明日からは色々と仕事してもらうから」
「仕事？」
「剣闘大会支部の仕事を手伝ってもらうのよ。お金が無い人でも参加できるようにって決まりでね。ちゃんと給料も出るから安心しなさい」
　もちろん支部の部屋を使う場合には宿泊費を天引きさせてもらうけどとお姉さんが続ける。
　――仕事かぁ……。
　今日の飲食店での自分の役の立たない具合を思い出してまた大きく息を吐きながら肩を落とした。
「あらあら、今日の寝床もお金の心配も無くなったのに。随分と大きなため息ね」
「いや、さっきな……」
　そこからヒリューは今日の出来事を、特に飲食店での手伝いをした時の事を細かく説明した。
「ああ、なるほど。君は細かい作業が苦手なんだね」
「そうなんだよ。だから仕事って言われても上手くできないんじゃないかって……」
「安心しなさい。剣闘大会の仕事って割と幅があるから。君にはボディーガードの仕事を優先的に回す様にしよう」
「そんなのもあるのか？」
　剣闘大会の仕事と言われてヒリューはよく分からない事務作業や、よく分からない会場設営などの仕事を想像していたので、受付のお姉さんの提案に心底驚いていた。
「いつもあるわけじゃないけどね。まあその辺りはお姉さんに任せて、今日はゆっくり休みなさい。はいこれ部屋の鍵」
　お姉さんから笑顔と共にカギを渡されて、ヒリューは今日の疲れがどっと出るのを感じた。それが何故かは分からなかったヒリューだが、その疲れがあまりにも大きかったのでそれ以上考える気力も沸かず、そのまま流されるままに部屋へと向かった。
　荷物を置いてベッドに横たわると同時に、ヒリューはすぐに眠りに落ちた。