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5戦目
第三回鍛冶屋杯
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猫人族のクヌーが仕事を手伝ってくれるようになってからは、自分で歩き回る必要もなく、本を読んで考察する時間が多くなったし、むしろ余った時間で剣術の訓練もできるほどに時間的余裕ができた。
クヌーは憑依以外にも猫を召喚したりその辺の野良猫を使役したりできて、ミーレーの街を事細かく把握するのにそこまで時間がかからなかった。人海戦術ならぬ猫海戦術だった。
「にゃーのにゃーの子分たちの活躍を見たかにゃ! 褒めても良いしご褒美があっても良いにゃ!」
もっと粗雑で乱暴なイメージがあったけど、仕事を与えたら思った以上に丁寧に仕上げていて驚かされるばかりだった。加えてご褒美が欲しいと言ってきたのでとりあえず頭を撫でてみたらそれでも大満足といった笑みを浮かべて気持ちよさそうな声を上げていた。
――これで良いのなら、かなり安上がりな部下だな。
正直エリアスさんよりも役立ってくれそうだと思いながら、今後勢い余って襲われる展開にならないように寝る時だけは警戒しておかないとなと気を引き締め直した。
――確かに良い仕事をするけど、そういう事をするつもりはないからな。
そんなこんなで一週間以上ミーレーに滞在し、徐々に鍛冶屋杯の参加者やら見学者やらも増えて、大通りの人だかりはいつも以上に多くなっていくのを確信しつつ、第三回の鍛冶屋杯に向けて準備を整えていった。
「それではこれより、第三回鍛冶屋杯を開催します! 司会兼実況は私、雪が積もってなくて割と快適な天候に恵まれてテンションマックスなマインです!」
前回までと違って今回は解説席に師匠がいない他、エレアもヒリューの姿も見受けられない。
――エレアたちはともかく、ヒリューは何してんだ?
第二回も第三回も不参加という事は、どこかで野垂れ死にしている可能性もあるのではと思いつつ、あのうるさい大声を思い出してそれは無いかと結論付けて、目の前の試合に集中する事にした。
次々とフィールドに剣闘士が集まっては散り、集まっては散り、それを七回ほど繰り返した後にセキヤの出番が回ってきた。
「それでは第八組目の剣闘士の方はフィールドに集まってください!」
実況者の声に従ってセキヤはフィールドに上る。パッと見まわしても特に見知った顔もいなければ、本選出場経験のある名の知れた剣闘士もいなかった。
――今回も楽に行けるかな?
自分の運の無さを警戒しつつ、今日のために用意しておいた魔力剣に魔素を集中させる。
「それでは、開始!」
――先手必勝!
セキヤがフィールドの中心に向けた魔力剣には、『空』と『猫』と『数』の魔力が付与されていた。その三つの魔力が光輝くと、フィールド上は一転カオスな状態へと変化していた。
まずフィールド中心には突風を巻き起こす小規模の竜巻が起こり、それに吹き飛ばされる猫の大群が誕生していた。フィールド上の剣闘士たちは風に飛ばされないように身をかがめるが、そこに猫が飛んできてバランスを崩す。何とか踏ん張ってみても猫に引っかかれたり噛みつかれたりしてダメージを負ってまともに戦える状態にはならなかった。
剣闘士たちが風と猫に気を取られている内にセキヤが次々と剣闘士たちに必殺の一撃を与えていった。開始から程なくして、セキヤの勝利が確定した。
――ふう、強い人がいなくて良かった良かった。
勝利が決まって一息付いていると、客席からブーイングが聞こえてきた。
「猫をそんな風に扱うんじゃねぇ!」
「あんた猫を何だと思ってるの!?」
「猫の可愛さを盾にするとは。貴様それでも人間か!?」
客席だけでなく剣闘士たちからもブーイングが起こっていた。セキヤはちょっと傷つきながらも、別にこれ本物の猫じゃなくて魔力体の猫なんだけどなと心の中で反論しつつフィールドを後にした。
ミーレーの鍛冶屋杯で手に入ったスロ三の剣は全くの空っぽ状態なので、これに付与する魔力は厳選しないとなと思いつつ、客席で見ていた二人の元に戻る事にした。
「にゃー! さっすがセキヤなのにゃ! あっさり勝ったにゃ! カッコいいにゃ!」
隣のクヌーちゃんのテンションの高い歓声を尻目に、私は勝者にのみ与えられる剣を手にしてこちらに向かってくる男の子をよく観察した。
「まさかブーイングされるとは思わなかった。ま、とりあえず勝ってきました」
苦笑いしながらも勝てて嬉しそうな声色で話しかけてきたセキヤ君の顔をじっくりと見つめる。
「うんうん。私が乱暴に扱って良いと言ったのにゃから問題ないにゃ。むしろ私の事も乱暴に扱って良いのにゃ!」
「それは遠慮しとく」
「遠慮しなくていいにゃ! 遠慮しなくていいにゃ!」
「二回言っても聞きません」
クヌーちゃんともすっかり打ち解けて砕けた感じで話しているセキヤ君は、エレアちゃんやリリィちゃんと話している時とはまた違った印象になっているけど、別段ドキドキする事もない。
――やっぱりあれはクヌーちゃんに憑依されてたせいだったのね。
クヌーからそういった副作用やら影響が出てた可能性はあると言われていたが、やはり研究者としての嵯峨が実際のデータと照らし合わせないと気が済まないと訴えていたのである。なのでクヌーが憑依から離れて一週間経った今、それが確信できる話だとようやく結論付けたのである。
――クヌーちゃんがこれだけテンション上がってるのに、私は特に感じてないもんなぁ。
はしゃいでいるクヌーと自分を照らし合わせて、自分の気持ちがどこにあるのかをしっかりと再確認したエリアスは、二人の会話に混じって今日のご飯をどこで食べるか決める事にした。
クヌーは憑依以外にも猫を召喚したりその辺の野良猫を使役したりできて、ミーレーの街を事細かく把握するのにそこまで時間がかからなかった。人海戦術ならぬ猫海戦術だった。
「にゃーのにゃーの子分たちの活躍を見たかにゃ! 褒めても良いしご褒美があっても良いにゃ!」
もっと粗雑で乱暴なイメージがあったけど、仕事を与えたら思った以上に丁寧に仕上げていて驚かされるばかりだった。加えてご褒美が欲しいと言ってきたのでとりあえず頭を撫でてみたらそれでも大満足といった笑みを浮かべて気持ちよさそうな声を上げていた。
――これで良いのなら、かなり安上がりな部下だな。
正直エリアスさんよりも役立ってくれそうだと思いながら、今後勢い余って襲われる展開にならないように寝る時だけは警戒しておかないとなと気を引き締め直した。
――確かに良い仕事をするけど、そういう事をするつもりはないからな。
そんなこんなで一週間以上ミーレーに滞在し、徐々に鍛冶屋杯の参加者やら見学者やらも増えて、大通りの人だかりはいつも以上に多くなっていくのを確信しつつ、第三回の鍛冶屋杯に向けて準備を整えていった。
「それではこれより、第三回鍛冶屋杯を開催します! 司会兼実況は私、雪が積もってなくて割と快適な天候に恵まれてテンションマックスなマインです!」
前回までと違って今回は解説席に師匠がいない他、エレアもヒリューの姿も見受けられない。
――エレアたちはともかく、ヒリューは何してんだ?
第二回も第三回も不参加という事は、どこかで野垂れ死にしている可能性もあるのではと思いつつ、あのうるさい大声を思い出してそれは無いかと結論付けて、目の前の試合に集中する事にした。
次々とフィールドに剣闘士が集まっては散り、集まっては散り、それを七回ほど繰り返した後にセキヤの出番が回ってきた。
「それでは第八組目の剣闘士の方はフィールドに集まってください!」
実況者の声に従ってセキヤはフィールドに上る。パッと見まわしても特に見知った顔もいなければ、本選出場経験のある名の知れた剣闘士もいなかった。
――今回も楽に行けるかな?
自分の運の無さを警戒しつつ、今日のために用意しておいた魔力剣に魔素を集中させる。
「それでは、開始!」
――先手必勝!
セキヤがフィールドの中心に向けた魔力剣には、『空』と『猫』と『数』の魔力が付与されていた。その三つの魔力が光輝くと、フィールド上は一転カオスな状態へと変化していた。
まずフィールド中心には突風を巻き起こす小規模の竜巻が起こり、それに吹き飛ばされる猫の大群が誕生していた。フィールド上の剣闘士たちは風に飛ばされないように身をかがめるが、そこに猫が飛んできてバランスを崩す。何とか踏ん張ってみても猫に引っかかれたり噛みつかれたりしてダメージを負ってまともに戦える状態にはならなかった。
剣闘士たちが風と猫に気を取られている内にセキヤが次々と剣闘士たちに必殺の一撃を与えていった。開始から程なくして、セキヤの勝利が確定した。
――ふう、強い人がいなくて良かった良かった。
勝利が決まって一息付いていると、客席からブーイングが聞こえてきた。
「猫をそんな風に扱うんじゃねぇ!」
「あんた猫を何だと思ってるの!?」
「猫の可愛さを盾にするとは。貴様それでも人間か!?」
客席だけでなく剣闘士たちからもブーイングが起こっていた。セキヤはちょっと傷つきながらも、別にこれ本物の猫じゃなくて魔力体の猫なんだけどなと心の中で反論しつつフィールドを後にした。
ミーレーの鍛冶屋杯で手に入ったスロ三の剣は全くの空っぽ状態なので、これに付与する魔力は厳選しないとなと思いつつ、客席で見ていた二人の元に戻る事にした。
「にゃー! さっすがセキヤなのにゃ! あっさり勝ったにゃ! カッコいいにゃ!」
隣のクヌーちゃんのテンションの高い歓声を尻目に、私は勝者にのみ与えられる剣を手にしてこちらに向かってくる男の子をよく観察した。
「まさかブーイングされるとは思わなかった。ま、とりあえず勝ってきました」
苦笑いしながらも勝てて嬉しそうな声色で話しかけてきたセキヤ君の顔をじっくりと見つめる。
「うんうん。私が乱暴に扱って良いと言ったのにゃから問題ないにゃ。むしろ私の事も乱暴に扱って良いのにゃ!」
「それは遠慮しとく」
「遠慮しなくていいにゃ! 遠慮しなくていいにゃ!」
「二回言っても聞きません」
クヌーちゃんともすっかり打ち解けて砕けた感じで話しているセキヤ君は、エレアちゃんやリリィちゃんと話している時とはまた違った印象になっているけど、別段ドキドキする事もない。
――やっぱりあれはクヌーちゃんに憑依されてたせいだったのね。
クヌーからそういった副作用やら影響が出てた可能性はあると言われていたが、やはり研究者としての嵯峨が実際のデータと照らし合わせないと気が済まないと訴えていたのである。なのでクヌーが憑依から離れて一週間経った今、それが確信できる話だとようやく結論付けたのである。
――クヌーちゃんがこれだけテンション上がってるのに、私は特に感じてないもんなぁ。
はしゃいでいるクヌーと自分を照らし合わせて、自分の気持ちがどこにあるのかをしっかりと再確認したエリアスは、二人の会話に混じって今日のご飯をどこで食べるか決める事にした。
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