45 / 61
6戦目
火種
しおりを挟む
「ふぅ、やっと帰ってこれたわね」
マチカゼ道場のある村の入り口が見えてきて、私はホッと一息ついた。
道中にこれと言った障害があったわけではないけれど、さすがに連日移動し続けてきた疲れもあってか、ミーレーから道場に帰ってくるだけの道筋に対して妙な達成感を感じていた。
――道場まで行けばきっともっと……。
マチカゼ道場に辿り着いた時に、スギヤさんの元へと辿り着いた時にその達成感はさらなる喜びに変わるのを確信して顔がにやける。
第二回は邪魔な女剣士がいたけど、第三回は自分も含めて計八人のメンバーが勝利した。十六組中の八本となれば好成績として十分褒められて良い成果だと自信を持てる。
――それを私が引率したわけなんだし、十分に褒められても良いはずよね。
きっとこれだけの成果を挙げたらスギヤさんもいつも以上に褒めてくれるに違いない。最近はあの女剣士のせいで叱られる事の方が多かったし、まともに話す事も少なくなっていたから、これを機にスギヤさんの目を覚まさせる。
――あの女なんか間違ってるって、スギヤさんは元々間違ってなかったって、絶対に言い切ってやる。
「……今帰る予定は無いはずだ……?」
私と同じくスギヤさんの信頼を得ているモリから質問される。ミーレーの街での第三回鍛冶屋杯が終わった次の日の事だ。私が旅支度を済ませて道場に戻ると言ったら、その必要はないと止められた。
「……第四回はここからすぐ北東の街。三日もかかる道場に一々戻るのは非効率と話したはずだ……」
低く小さな声だけど、しっかりと私に聞こえる力強さを持っている。怒っているわけではないのだが、高身長でガタイも良いからどうしても怒られているように感じる。まあ今回の事に関しては私自身負い目を感じる部分が全く無いわけではなかったからかもしれない。
「皆で行動する分にはでしょ。私一人なら別に一旦戻って報告しても良いでしょ?」
「……報告はもう終わってる。わざわざ顔を出す必要はない……」
「私が会いたいんだから、止めないでくれる?」
扉の前で通せんぼしているモリに真っ向から迫っていく。決して視線を逸らさず、道場に戻る決意を変えるつもりはない事を強調する。
「……確かに個人で戻る分には俺も止めない。問題はその荷物だ……」
私が右手に下げている剣の束を指差す。そこには私が獲得した魔力剣以外にも、他のメンバーが手に入れた魔力剣もある。
「報告しに帰るんだから、ついでに魔力も付与してくるだけよ」
道場にいるメンバーの中には魔力を付与するためのメンバーもいる。ミーレーの街にいる魔法使いに注文しない分お金もかからないし、より自分の理想の魔力の付与が簡単にできる。
「すでに他のメンバーにも許可を取ったわよ。どんな魔力が欲しいかも教えてもらったし」
「……それは予定外の事だ。魔力剣に付与する魔力は、スギヤとの相談の上、決める話だったはずだ……」
忌々しいあの女が来たせいで、魔力剣の扱いが大きく変化した。これまではとにかく複数人でチャンピオンに勝つためにコンビネーションを重視した魔力を付与するようにしていた。しかしあいつが来てからは、仮想チャンピオン訓練をするためにも付与する魔力をいくつか変更する事になった。チャンピオンの持つ『分裂』に近しい魔力、『猫』などの召喚系と呼ばれる別の魔力体を生み出す魔力を優先的に付与するようにしたのだ。
ただ『ワンアタック』のメンバーの中には元々自分の魔力剣は自分で扱いたいという人間もいるため、魔力剣の管理はかなりシビアに行う必要があるので、基本的にスギヤに一度話をしてから付与する決まりになっている。『ワンアタック』のメンバー内で似たような魔力剣が複数作られないようにするための確認作業である。
「スギヤさんにはちゃんと説明するわよ。メンバーの要望通りにできるかどうかがスギヤさん次第なのは、ちゃんと私もメンバーも分かってるわよ」
あいつのおかげで今までとは違った魔力を付与する事もできるようになったと喜ぶメンバーも少なくない。だからこそ私が先にメンバーから要望を聞いておいただけだ。ちゃんと帰ったらスギヤさんに説明するし、許可が出たらそのまま付与する。別に私はただ個人的な我儘を通すためだけに、道場に魔力剣を持っていこうとしているわけではない。
「……分かっているのならいいが。次の鍛冶屋杯に間に合うのか……?」
「往復一週間、二日くらい休んでからでも間に合うわよ。問題ないでしょ」
「……なら良い……」
扉の前から自分の部屋に戻るように去っていく。
――全く心配性なんだから。私がこれ持って逃げだすとでも思ったのかしら?
魔力剣をまとめて八本も持つのは確かに中々ない事だから、いつもよりも慎重になるのは分かるけど、さすがに第二回剣闘大会から一緒に戦ってきた仲間をもう少し信頼して欲しいものだ。
「さて、とにかく急ぎますか。待っててくださいね、スギヤさん」
八本の剣の重みを両手に感じつつ、村を駆け抜けていく。もうすぐスギヤさんに褒めてもらえる。たった一週間程度しか離れていなかったのに、とてつもなくスギヤさんの笑顔が待ち遠しく感じていた。褒めてもらえたら自分でもどれだけテンションが上がるか分からないくらいに気分が高まっていた。
その笑顔が忌々しい女に向けられているのを見るまでは。
マチカゼ道場のある村の入り口が見えてきて、私はホッと一息ついた。
道中にこれと言った障害があったわけではないけれど、さすがに連日移動し続けてきた疲れもあってか、ミーレーから道場に帰ってくるだけの道筋に対して妙な達成感を感じていた。
――道場まで行けばきっともっと……。
マチカゼ道場に辿り着いた時に、スギヤさんの元へと辿り着いた時にその達成感はさらなる喜びに変わるのを確信して顔がにやける。
第二回は邪魔な女剣士がいたけど、第三回は自分も含めて計八人のメンバーが勝利した。十六組中の八本となれば好成績として十分褒められて良い成果だと自信を持てる。
――それを私が引率したわけなんだし、十分に褒められても良いはずよね。
きっとこれだけの成果を挙げたらスギヤさんもいつも以上に褒めてくれるに違いない。最近はあの女剣士のせいで叱られる事の方が多かったし、まともに話す事も少なくなっていたから、これを機にスギヤさんの目を覚まさせる。
――あの女なんか間違ってるって、スギヤさんは元々間違ってなかったって、絶対に言い切ってやる。
「……今帰る予定は無いはずだ……?」
私と同じくスギヤさんの信頼を得ているモリから質問される。ミーレーの街での第三回鍛冶屋杯が終わった次の日の事だ。私が旅支度を済ませて道場に戻ると言ったら、その必要はないと止められた。
「……第四回はここからすぐ北東の街。三日もかかる道場に一々戻るのは非効率と話したはずだ……」
低く小さな声だけど、しっかりと私に聞こえる力強さを持っている。怒っているわけではないのだが、高身長でガタイも良いからどうしても怒られているように感じる。まあ今回の事に関しては私自身負い目を感じる部分が全く無いわけではなかったからかもしれない。
「皆で行動する分にはでしょ。私一人なら別に一旦戻って報告しても良いでしょ?」
「……報告はもう終わってる。わざわざ顔を出す必要はない……」
「私が会いたいんだから、止めないでくれる?」
扉の前で通せんぼしているモリに真っ向から迫っていく。決して視線を逸らさず、道場に戻る決意を変えるつもりはない事を強調する。
「……確かに個人で戻る分には俺も止めない。問題はその荷物だ……」
私が右手に下げている剣の束を指差す。そこには私が獲得した魔力剣以外にも、他のメンバーが手に入れた魔力剣もある。
「報告しに帰るんだから、ついでに魔力も付与してくるだけよ」
道場にいるメンバーの中には魔力を付与するためのメンバーもいる。ミーレーの街にいる魔法使いに注文しない分お金もかからないし、より自分の理想の魔力の付与が簡単にできる。
「すでに他のメンバーにも許可を取ったわよ。どんな魔力が欲しいかも教えてもらったし」
「……それは予定外の事だ。魔力剣に付与する魔力は、スギヤとの相談の上、決める話だったはずだ……」
忌々しいあの女が来たせいで、魔力剣の扱いが大きく変化した。これまではとにかく複数人でチャンピオンに勝つためにコンビネーションを重視した魔力を付与するようにしていた。しかしあいつが来てからは、仮想チャンピオン訓練をするためにも付与する魔力をいくつか変更する事になった。チャンピオンの持つ『分裂』に近しい魔力、『猫』などの召喚系と呼ばれる別の魔力体を生み出す魔力を優先的に付与するようにしたのだ。
ただ『ワンアタック』のメンバーの中には元々自分の魔力剣は自分で扱いたいという人間もいるため、魔力剣の管理はかなりシビアに行う必要があるので、基本的にスギヤに一度話をしてから付与する決まりになっている。『ワンアタック』のメンバー内で似たような魔力剣が複数作られないようにするための確認作業である。
「スギヤさんにはちゃんと説明するわよ。メンバーの要望通りにできるかどうかがスギヤさん次第なのは、ちゃんと私もメンバーも分かってるわよ」
あいつのおかげで今までとは違った魔力を付与する事もできるようになったと喜ぶメンバーも少なくない。だからこそ私が先にメンバーから要望を聞いておいただけだ。ちゃんと帰ったらスギヤさんに説明するし、許可が出たらそのまま付与する。別に私はただ個人的な我儘を通すためだけに、道場に魔力剣を持っていこうとしているわけではない。
「……分かっているのならいいが。次の鍛冶屋杯に間に合うのか……?」
「往復一週間、二日くらい休んでからでも間に合うわよ。問題ないでしょ」
「……なら良い……」
扉の前から自分の部屋に戻るように去っていく。
――全く心配性なんだから。私がこれ持って逃げだすとでも思ったのかしら?
魔力剣をまとめて八本も持つのは確かに中々ない事だから、いつもよりも慎重になるのは分かるけど、さすがに第二回剣闘大会から一緒に戦ってきた仲間をもう少し信頼して欲しいものだ。
「さて、とにかく急ぎますか。待っててくださいね、スギヤさん」
八本の剣の重みを両手に感じつつ、村を駆け抜けていく。もうすぐスギヤさんに褒めてもらえる。たった一週間程度しか離れていなかったのに、とてつもなくスギヤさんの笑顔が待ち遠しく感じていた。褒めてもらえたら自分でもどれだけテンションが上がるか分からないくらいに気分が高まっていた。
その笑顔が忌々しい女に向けられているのを見るまでは。
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『追放された底辺付与術師、実は【全自動化】のチートスキル持ちでした〜ブラックギルドを追い出されたので、辺境で商会を立ち上げたら勝手に世界規
NagiKurou
ファンタジー
「お前のような、一日中デスクに座って何もしない無能はクビだ!」
国内最大のギルド『栄光の剣』で、底辺の付与術師として働いていたアルスは、ある日突然、強欲なギルドマスターから追放を言い渡される。
しかし、彼らは知らなかった。ギルドの武器の自動修復、物流の最適化、資金管理に至るまで、すべてアルスの固有スキル【全自動化(ワークフロー構築)】によって完璧にシステム化され、回っていたことを。
「俺がいなくなったら、あの自動化システム、全部止まるけど……まあいいか」
管理権限を解除し、辺境へと旅立ったアルス。彼は自身のスキルを使って、圧倒的な耐久力を誇る銀色の四輪型重装ゴーレムを作り出し、気ままな行商を始める。
一度構築すれば無限に富を生み出す「全自動」のチートスキルで、アルスの商会は瞬く間に世界規模へとスケールしていく!
一方、すべてを失ったギルドは、生産ラインが崩壊し、絶望のどん底へと突き落とされていくのだった……。
華夏の煌き~麗しき男装の乙女軍師~
はぎわら歓
恋愛
国家占い師である胡晶鈴は、この中華・曹王朝の王となる曹隆明と結ばれる。子を宿した晶鈴は占術の能力を失い都を去ることになった。
国境付近の町で異民族の若い陶工夫婦と知り合う。同じく母になる朱京湖とは、気が合い親友となった。
友人になった夫婦と穏やかな生活を送るはずだったが、事情のある朱京湖と間違えられ、晶鈴は異国へと連れ去られてしまった。京湖と家族の身を案じ、晶鈴はそのまま身代わりとなる。
朱彰浩と京湖は、晶鈴の友人である、陸慶明に助けを求めるべく都へ行く。晶鈴の行方はずっと掴めないままではあるが、朱家は穏やかな生活を営むことができた。
12年たち、晶鈴の娘、星羅は才覚を現し始める。それと同時に、双子のように育った兄・朱京樹、胡晶鈴との恋に破れた医局長・陸慶明とその息子・陸明樹、そして実の娘と知らない王・曹隆明が星羅に魅了されていく。
回帰した貴公子はやり直し人生で勇者に覚醒する
真義あさひ
ファンタジー
名門貴族家に生まれながらも、妾の子として虐げられ、優秀な兄の下僕扱いだった貴公子ケイは正妻の陰謀によりすべてを奪われ追放されて、貴族からスラム街の最下層まで落ちぶれてしまう。
絶望と貧しさの中で母と共に海に捨てられた彼は、死の寸前、海の底で出会った謎のサラマンダーの魔法により過去へと回帰する。
回帰の目的は二つ。
一つ、母を二度と惨めに死なせない。
二つ、海の底で発現させた勇者の力を覚醒させ、サラマンダーの望む海底神殿の浄化を行うこと。
回帰魔法を使って時を巻き戻したサラマンダー・ピアディを相棒として、今度こそ、不幸の連鎖を断ち切るために──
そして母を救い、今度こそ自分自身の人生を生きるために、ケイは人生をやり直す。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる