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6戦目
火種
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「ふぅ、やっと帰ってこれたわね」
マチカゼ道場のある村の入り口が見えてきて、私はホッと一息ついた。
道中にこれと言った障害があったわけではないけれど、さすがに連日移動し続けてきた疲れもあってか、ミーレーから道場に帰ってくるだけの道筋に対して妙な達成感を感じていた。
――道場まで行けばきっともっと……。
マチカゼ道場に辿り着いた時に、スギヤさんの元へと辿り着いた時にその達成感はさらなる喜びに変わるのを確信して顔がにやける。
第二回は邪魔な女剣士がいたけど、第三回は自分も含めて計八人のメンバーが勝利した。十六組中の八本となれば好成績として十分褒められて良い成果だと自信を持てる。
――それを私が引率したわけなんだし、十分に褒められても良いはずよね。
きっとこれだけの成果を挙げたらスギヤさんもいつも以上に褒めてくれるに違いない。最近はあの女剣士のせいで叱られる事の方が多かったし、まともに話す事も少なくなっていたから、これを機にスギヤさんの目を覚まさせる。
――あの女なんか間違ってるって、スギヤさんは元々間違ってなかったって、絶対に言い切ってやる。
「……今帰る予定は無いはずだ……?」
私と同じくスギヤさんの信頼を得ているモリから質問される。ミーレーの街での第三回鍛冶屋杯が終わった次の日の事だ。私が旅支度を済ませて道場に戻ると言ったら、その必要はないと止められた。
「……第四回はここからすぐ北東の街。三日もかかる道場に一々戻るのは非効率と話したはずだ……」
低く小さな声だけど、しっかりと私に聞こえる力強さを持っている。怒っているわけではないのだが、高身長でガタイも良いからどうしても怒られているように感じる。まあ今回の事に関しては私自身負い目を感じる部分が全く無いわけではなかったからかもしれない。
「皆で行動する分にはでしょ。私一人なら別に一旦戻って報告しても良いでしょ?」
「……報告はもう終わってる。わざわざ顔を出す必要はない……」
「私が会いたいんだから、止めないでくれる?」
扉の前で通せんぼしているモリに真っ向から迫っていく。決して視線を逸らさず、道場に戻る決意を変えるつもりはない事を強調する。
「……確かに個人で戻る分には俺も止めない。問題はその荷物だ……」
私が右手に下げている剣の束を指差す。そこには私が獲得した魔力剣以外にも、他のメンバーが手に入れた魔力剣もある。
「報告しに帰るんだから、ついでに魔力も付与してくるだけよ」
道場にいるメンバーの中には魔力を付与するためのメンバーもいる。ミーレーの街にいる魔法使いに注文しない分お金もかからないし、より自分の理想の魔力の付与が簡単にできる。
「すでに他のメンバーにも許可を取ったわよ。どんな魔力が欲しいかも教えてもらったし」
「……それは予定外の事だ。魔力剣に付与する魔力は、スギヤとの相談の上、決める話だったはずだ……」
忌々しいあの女が来たせいで、魔力剣の扱いが大きく変化した。これまではとにかく複数人でチャンピオンに勝つためにコンビネーションを重視した魔力を付与するようにしていた。しかしあいつが来てからは、仮想チャンピオン訓練をするためにも付与する魔力をいくつか変更する事になった。チャンピオンの持つ『分裂』に近しい魔力、『猫』などの召喚系と呼ばれる別の魔力体を生み出す魔力を優先的に付与するようにしたのだ。
ただ『ワンアタック』のメンバーの中には元々自分の魔力剣は自分で扱いたいという人間もいるため、魔力剣の管理はかなりシビアに行う必要があるので、基本的にスギヤに一度話をしてから付与する決まりになっている。『ワンアタック』のメンバー内で似たような魔力剣が複数作られないようにするための確認作業である。
「スギヤさんにはちゃんと説明するわよ。メンバーの要望通りにできるかどうかがスギヤさん次第なのは、ちゃんと私もメンバーも分かってるわよ」
あいつのおかげで今までとは違った魔力を付与する事もできるようになったと喜ぶメンバーも少なくない。だからこそ私が先にメンバーから要望を聞いておいただけだ。ちゃんと帰ったらスギヤさんに説明するし、許可が出たらそのまま付与する。別に私はただ個人的な我儘を通すためだけに、道場に魔力剣を持っていこうとしているわけではない。
「……分かっているのならいいが。次の鍛冶屋杯に間に合うのか……?」
「往復一週間、二日くらい休んでからでも間に合うわよ。問題ないでしょ」
「……なら良い……」
扉の前から自分の部屋に戻るように去っていく。
――全く心配性なんだから。私がこれ持って逃げだすとでも思ったのかしら?
魔力剣をまとめて八本も持つのは確かに中々ない事だから、いつもよりも慎重になるのは分かるけど、さすがに第二回剣闘大会から一緒に戦ってきた仲間をもう少し信頼して欲しいものだ。
「さて、とにかく急ぎますか。待っててくださいね、スギヤさん」
八本の剣の重みを両手に感じつつ、村を駆け抜けていく。もうすぐスギヤさんに褒めてもらえる。たった一週間程度しか離れていなかったのに、とてつもなくスギヤさんの笑顔が待ち遠しく感じていた。褒めてもらえたら自分でもどれだけテンションが上がるか分からないくらいに気分が高まっていた。
その笑顔が忌々しい女に向けられているのを見るまでは。
マチカゼ道場のある村の入り口が見えてきて、私はホッと一息ついた。
道中にこれと言った障害があったわけではないけれど、さすがに連日移動し続けてきた疲れもあってか、ミーレーから道場に帰ってくるだけの道筋に対して妙な達成感を感じていた。
――道場まで行けばきっともっと……。
マチカゼ道場に辿り着いた時に、スギヤさんの元へと辿り着いた時にその達成感はさらなる喜びに変わるのを確信して顔がにやける。
第二回は邪魔な女剣士がいたけど、第三回は自分も含めて計八人のメンバーが勝利した。十六組中の八本となれば好成績として十分褒められて良い成果だと自信を持てる。
――それを私が引率したわけなんだし、十分に褒められても良いはずよね。
きっとこれだけの成果を挙げたらスギヤさんもいつも以上に褒めてくれるに違いない。最近はあの女剣士のせいで叱られる事の方が多かったし、まともに話す事も少なくなっていたから、これを機にスギヤさんの目を覚まさせる。
――あの女なんか間違ってるって、スギヤさんは元々間違ってなかったって、絶対に言い切ってやる。
「……今帰る予定は無いはずだ……?」
私と同じくスギヤさんの信頼を得ているモリから質問される。ミーレーの街での第三回鍛冶屋杯が終わった次の日の事だ。私が旅支度を済ませて道場に戻ると言ったら、その必要はないと止められた。
「……第四回はここからすぐ北東の街。三日もかかる道場に一々戻るのは非効率と話したはずだ……」
低く小さな声だけど、しっかりと私に聞こえる力強さを持っている。怒っているわけではないのだが、高身長でガタイも良いからどうしても怒られているように感じる。まあ今回の事に関しては私自身負い目を感じる部分が全く無いわけではなかったからかもしれない。
「皆で行動する分にはでしょ。私一人なら別に一旦戻って報告しても良いでしょ?」
「……報告はもう終わってる。わざわざ顔を出す必要はない……」
「私が会いたいんだから、止めないでくれる?」
扉の前で通せんぼしているモリに真っ向から迫っていく。決して視線を逸らさず、道場に戻る決意を変えるつもりはない事を強調する。
「……確かに個人で戻る分には俺も止めない。問題はその荷物だ……」
私が右手に下げている剣の束を指差す。そこには私が獲得した魔力剣以外にも、他のメンバーが手に入れた魔力剣もある。
「報告しに帰るんだから、ついでに魔力も付与してくるだけよ」
道場にいるメンバーの中には魔力を付与するためのメンバーもいる。ミーレーの街にいる魔法使いに注文しない分お金もかからないし、より自分の理想の魔力の付与が簡単にできる。
「すでに他のメンバーにも許可を取ったわよ。どんな魔力が欲しいかも教えてもらったし」
「……それは予定外の事だ。魔力剣に付与する魔力は、スギヤとの相談の上、決める話だったはずだ……」
忌々しいあの女が来たせいで、魔力剣の扱いが大きく変化した。これまではとにかく複数人でチャンピオンに勝つためにコンビネーションを重視した魔力を付与するようにしていた。しかしあいつが来てからは、仮想チャンピオン訓練をするためにも付与する魔力をいくつか変更する事になった。チャンピオンの持つ『分裂』に近しい魔力、『猫』などの召喚系と呼ばれる別の魔力体を生み出す魔力を優先的に付与するようにしたのだ。
ただ『ワンアタック』のメンバーの中には元々自分の魔力剣は自分で扱いたいという人間もいるため、魔力剣の管理はかなりシビアに行う必要があるので、基本的にスギヤに一度話をしてから付与する決まりになっている。『ワンアタック』のメンバー内で似たような魔力剣が複数作られないようにするための確認作業である。
「スギヤさんにはちゃんと説明するわよ。メンバーの要望通りにできるかどうかがスギヤさん次第なのは、ちゃんと私もメンバーも分かってるわよ」
あいつのおかげで今までとは違った魔力を付与する事もできるようになったと喜ぶメンバーも少なくない。だからこそ私が先にメンバーから要望を聞いておいただけだ。ちゃんと帰ったらスギヤさんに説明するし、許可が出たらそのまま付与する。別に私はただ個人的な我儘を通すためだけに、道場に魔力剣を持っていこうとしているわけではない。
「……分かっているのならいいが。次の鍛冶屋杯に間に合うのか……?」
「往復一週間、二日くらい休んでからでも間に合うわよ。問題ないでしょ」
「……なら良い……」
扉の前から自分の部屋に戻るように去っていく。
――全く心配性なんだから。私がこれ持って逃げだすとでも思ったのかしら?
魔力剣をまとめて八本も持つのは確かに中々ない事だから、いつもよりも慎重になるのは分かるけど、さすがに第二回剣闘大会から一緒に戦ってきた仲間をもう少し信頼して欲しいものだ。
「さて、とにかく急ぎますか。待っててくださいね、スギヤさん」
八本の剣の重みを両手に感じつつ、村を駆け抜けていく。もうすぐスギヤさんに褒めてもらえる。たった一週間程度しか離れていなかったのに、とてつもなくスギヤさんの笑顔が待ち遠しく感じていた。褒めてもらえたら自分でもどれだけテンションが上がるか分からないくらいに気分が高まっていた。
その笑顔が忌々しい女に向けられているのを見るまでは。
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