剣闘大会

tabuchimidori

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6戦目

宣戦布告:後編

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「何で二人で魔力の検討をしてるんですか!? 私やモリとはしてなかったのに!?」
 いきなりやってきたミストさんはリリィの事が視界に入っていないのか、私とスギヤさんが二人っきりであれこれ話し合っているものとして怒っていた。今ちらっとリリィの方を見たらいつの間にか寝ていたので、多分元から会議に参加していないものと思われたのだろう。
 ――というかこれだけ大声出してるのに起きないなぁ。
 よっぽど疲れていたんだろうと思い、今日の所はどうせもう会議にならない可能性がこの女のせいで高いからとっととベッドまで運んであげようかと考えていた。
「エレアさんはゴウを一人で倒そうと本気で考えています。その視点から見てどんな魔力剣を集めておくべきか、対策しておくべきか意見を聞いていただけです。基本的な方針は前に二人に言った通りですよ」
 スギヤさんは相変わらず冷静で、怒り狂っているミストさんと対面しても普段通りの口調で話す。
「ただ一つはゴウと全く同じように『分裂』を入れる点は変更しますけど、ゴウの戦い方を研究する意味合いは変わりませんよ」
 その変更点を説明した途端にミストはまた激しく捲し立てた。
「『分裂』はまともに扱える人がいません! そして『意志』や『操作』などの魔力を加えたらチャンピオンと同じ土俵には上がれません! それでは魔力剣を一本犠牲にするようなものですよ!?」
 『分裂』を入れる時の問題点に関してはミストさんも同意見だったのにはちょっと感心したけど、扱えるようになる訓練をする考えが無い点がやはり気になった。
 ――まあ私が口を挟むと余計にうるさくなるから言わないけど。
「我々はチームとして一人の男に挑戦しようとしているのです。なればこそ一人では中々難しい、こういった挑戦的な部分を作れる利点を活かすべきではないでしょうか? もしも誰かが将来に『分裂』を扱えるようになれば、私たちにとって大きなメリットになるでしょう」
 一本の魔力剣が仮に大会でまともに使えない物になったとしても、『ワンアタック』の共有財産としての剣を使えばいい。リスクが実質ないようなものだからこそ、挑戦すべきだとスギヤさんが反論する。
 これにはミストさんも納得しないわけにはいかないようで、その反撃の言葉が中々出てこなかった。しかし次のスギヤさんの言葉にはすぐに反抗した。
「第三回では八本もの魔力剣を手に入ったのですから、早速一本には『分裂』を入れようと思うのですが、よろしいですか?」
「な、何でですか!?」
「エレアさんが『分裂』を扱えるようになると仰ってますので、ぜひ訓練に使ってほしいのですよ」
「そ、そんな事させませんよ! 何でメンバーでもないこいつに魔力剣を一本プレゼントするんですか!?」
「エレアさんは正式に『ワンアタック』に加入しました。こいつ呼ばわりはいい加減止めなさい。もう同じ仲間なんですよ」
 そのスギヤさんの発言を聞いてさっきよりも、そして今までよりも怒気の籠った表情で私を睨み付けてきた。
 ――こんなやつを仲間だなんて呼びたくないって言いたげだなぁ。
 私はせっかくだし、スギヤさんを見習って大人の対応をしようと試みた。
「正式に『ワンアタック』に加入させて頂きました、エレア・ラスティアです。若輩者ですが剣闘大会優勝を本気で目指していますので、これからよろしくお願いします」
 席を立ってミストさんの近くまで行ってからお辞儀をする。そして友好の握手でもしようと手を伸ばすが、すぐにそれを否定された。
「ミスト!」
「スギヤさんはちょっと黙っててください!」
 さっきまでの怒り散らした声とは違う、強い意思を感じる声だった。私は払いのけられた手の痛みを取ろうとぶらぶらさせながら質問する。
「これはどういうつもりですか?」
「スギヤさんが認めても私はあんたを認めない」
 覚悟を決めたような、というよりもいつかはこんな時が来ると思って準備していたかのように、淡々と着々と話を続ける。
「決闘です。私に勝ったら加入を認めてあげる」
 思ったよりも簡潔で分かりやすい提案だった。剣闘大会に参加するんだから武闘派なのは分かるけど、こういった問題に対する解決策として決闘を出すとはちょっと意外だった。
「ただし、私が勝ったらここから出ていきなさい。その女の子も一緒にです」
 リリィも一緒という提案はさすがに看過できなかったので口を出す。
「私とリリィが一緒に出ていくっていうなら、私が勝った時の条件が小さすぎるわ。その条件を外すか、あなたも自分以外の何かを賭けなさい」
 すでにリリィはここのメンバーとも仲良しだし、最悪負けたとしてもリリィは十分な訓練をここで積めるはずなので、それだけは絶対に認められなかった。
「なら私の魔力剣を勝手に使えばいいわ。『分裂』でも何でも好きな魔力を入れたらいい」
 会議室に入った直後に床に投げ捨てていた荷物の中から一本の長剣を取り出してテーブルに置く。確かにまだ何も入っていない、真っ新なスロ三の剣だった。
 私としてはリリィをここに残す選択肢を作っておきたかったのだが、どうやらリリィを担保にして私を本気にさせたいらしい。そこまでの事をこの一瞬で考えたとは思いにくいが、とにかく決闘しないと気が済まない事は良く分かった。
「それで良いわ。決闘はいつ?」
「明日の午前十時。勝敗が決まったら必ずこの事に関してぶり返さない事も約束しなさい」
「それはこっちが言いたいくらいだわ。負けてからそれでもお前は認めないなんて言わないでよね?」
「バカにするな! 剣闘士である以上勝敗にケチを付ける事はしない!」
 決闘の話がまとまってこれ以上は話す事はないと言い切らんばかりに勢いよく会議室を出て行った。その時のドアを閉める大きな音で、さすがにリリィが目を覚ました。
「ふぇ……、今何時ですか?」
「まだ九時よ。部屋には私が運んであげるからゆっくり休みなさい」
「ありがとう、ございます……。寝ます……」
 目を覚ましてもさすがに疲れには勝てなかったようですぐにまた規則正しい寝息を立て始める。私はリリィを背負いながら、ここまで口を出せずにいたスギヤさんに断っておいた。
「明日ミストさんをボコボコにするつもりですけど、構いませんよね?」
 その発言にスギヤさんは目を見開いて驚いていたし、色々と言いたい事があるように口をパクパクさせたけど、最後には諦めた様子でお休みとだけ言ってきた。
「大丈夫ですよ。これくらい喧嘩の内に入りませんから」
 セキヤやヒリューとの日々を思い出して、私はちょっと笑顔になりながら会議室を出た。
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