剣闘大会

tabuchimidori

文字の大きさ
57 / 61
7戦目

試行錯誤

しおりを挟む
 クヌーと共にカナイに戻ってきてからは毎日のように実験と勉強を繰り返す事になった。
「やっぱり記憶とかは脳内会話で知った物をそのまま覚えているだけだと思いますよ」
「そういう情報は間違いなさそうだな。『憑依』中に相手と脳内で会話できるっていうのも明言化されている資料は無かったし、新情報は新情報だな」
「まあ普通は会話なんてしませんもんねー。大抵は勝手に憑依して好き勝手やっちゃいますよねー」
 今はクヌーの魔力が回復する待ち時間を使って、『憑依』の魔力が具体的にどんな効果をもたらすのか整理している所だった。ちなみにクヌーには幼児用の絵本を渡して読ませている。
「ぼくは、とても、かなしく……かなしかった」
 最初は僕がみっちり読み方を教えようと思ったけど、そもそも根本的に人間言語を知らない人間に文字を教えるやり方がいまいち分からず、最初は教えられないのではと思った。ただエリアスさんに絵本とか絵と文字が一緒になっている本なら直感的に覚えやすいと教わってそれ以来ひたすら色んな絵本を読ませている。
 先週はただの絵と単語の本だったが、今ではとりあえず物語のある文章形式の絵本も読めるようになってきていた。
「エリアスさんのおかげです。僕一人だとあのレベルにするのも遅かったかもしれないです」
「一応これでもここに来る前は子供に勉強教えてたからねー。これくらいはできないとー」
 エリアスさんがここに来る前に何をしていたのか少し気にはなったけど、そこで深く聞き出す事はなく、また『憑依』の話に戻す。
「感情がリンクしているんだから、記憶をリンクさせるのも不可能ではないはずなんだがな」
「まるっきり別の個体として認識されているわけではないんですよね。どこかしらは僕と繋がっている部分があるはずです」
「そもそも何で体の本来の所有者のセキヤ君じゃなくてー、『憑依』しているクヌーちゃんにリンクするんでしょうねー?」
「『憑依』って体を乗っ取るのがそもそもの効果だったような……」
「体を乗っ取るだったらセキヤが体を動かせなくなるだろ。つまり神経系はセキヤに依存しているはずだが……」
「ぼくは、これから、たのしく、いきようと、おもった」

「やっぱりこれ止めません? 時間で変化するならエリアスさんの知識を持っていておかしくないはずですし」
「あの時が大体三日くらいだろ。一週間『憑依』され続ければ何か違った結果になるかもしれないだろ?」
 すでにクヌーが僕に『憑依』して二日。二日でも正直気苦労というか精神的な疲労度が溜まりに溜まって、これ以上続けたくないとまで思っている。
【にゃー、セキヤの中は居心地がいいにゃー】
「お前にとっては誰の体の中でも居心地良いだろ。疲れを感じないんだから」
 『憑依』の魔力は発動時に全ての動作が完了する。『憑依』中の持続に必要な魔素は対象者から借りパクできるので、『憑依』を止めるか対象者から拒絶の魔法を使われない限りずっと『憑依』し続けられる。
【セキヤは特別な感じがするにゃ】
「だったらせめて興奮するのを止めろ。こっちはずっとドキドキしっぱなしなんだぞ!」
「それもチェックしてんだよ。普通に考えて一日中脈拍が高かったらもっと体に影響出るはずだ。本当に体にリンクしているのかをチェックするためにも耐えろ」
 ハシモトさんが強い口調で実験の続行を宣言する。それを聞いてクヌーがほくそ笑んだように感じた。
【もっとにゃーに対してドキドキすると良いにゃ!】
「五日後覚えておけよ……」
【これはにゃーのせいじゃないにゃ! ハシモトに言われているから仕方なくにゃ!】
「セキヤ、ちょっとくらいは寛容になれ。実験なんだからどんなに苦痛だろうと耐えるのが研究者だろう」
「ぐぬぬぬ……」
「おおー、セキヤ君でもそんな苦悶の表情になるんだー」
 こんな感じでクヌーを中心とした生活がしばらく続いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜

黒城白爵
ファンタジー
 異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。  魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。  そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。  自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。  後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。  そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。  自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...