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7戦目
『憑依』の実験
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「よし、それじゃあ早速『憑依』してみてくれ!」
カナイに戻ってきた当日、荷物を置いて休憩もほどほどに、僕たちハシモト研究所のメンバーは研究所の前の広場に集まっていた。
ハシモトさんが『憑依』を使って実験したかった事というのは、記憶の共有との事だった。何でも資料では『憑依』を使った魔法使いが、『憑依』先の人間の記憶や知識を共有する事があると言われているらしい。その部分に関する情報が少なかったので、できるなら自分である程度情報を集めておきたかったと、先ほどハシモトさんに熱く語ってもらった。
「でもにゃーはエリアスに『憑依』を使ったにゃ?」
クヌーと出会うきっかけになったのは、そもそもエリアスさんに『憑依』を使ったからだ。そうなるとエリアスさんの知識なり記憶なりを共有できていて良いはずだが、クヌーは特に新しい知識を得た感じはないと否定していた。
「普通は共有できないんだよ。俺が読んだ『まだ解明されていない魔力の謎一覧』でもつい半年前くらいにそういう影響が出ている時もあるっていう実例が見つかったっていうだけの話だからな」
意識しないと共有できないのか、『憑依』の対象者側が何かする必要があるのかというのを突き詰めるためにも実験をやるぞとハシモトさんは一人テンションが高まっている。
まあ僕としても確かにメリットがある実験なのは確かだった。もしも『憑依』にそんな副産物が存在するなら、一々勉強させるまでもなく、僕の知識をそのままクヌーに渡せば良いだけだから。
「にゃーは準備できたけど、セキヤも良いかにゃ?」
「いつでもいいぞ。『憑依』されるのは初めてだから、どんな感じか楽しみだ」
「セキヤの初めてをもらえるなんて……、興奮するにゃ」
「変な事したらまた尻尾炙るぞ」
「止めてにゃ!」
クヌーが尻尾を隠して後ずさる。
――尻尾はかなり弱点っぽいな。覚えておこう。
「……もういいか。早速やってみてくれ」
「はいにゃ!」
威勢のいい返事と共に右手に溜めた魔力を僕に向けると、その手の先の魔力が目を覆うほどに発光する。その光が収まると、クヌーの姿は跡形もなく消えていた。
『憑依』する瞬間を見るのは初めてだから、実際に姿が消えるのを見ると少しドキッとした。
――これが『憑依』か。そう言えば体が丸々消えるのもまだ不明瞭なんだっけ。
『憑依』に関する自分が持っている知識を整理しようかと思っていると、頭の中から声が聞こえてきた。
【いやー、これがセキヤの中にゃー。何だか変な気分にゃー】
「頭の中でもそういう事言うなよ……」
クヌーの声が頭の中から聞こえてきたせいか、いつもよりも少し呼吸が乱れている感じになった。
――そう言えば、エリアスさんが『憑依』されている時に感情の部分では共有させられている部分があったって言ってたな。
クヌーから影響を受けて僕に対して好感というか、男性的魅力みたいなのを感じていたって聞いた。多分今心拍数が乱れているのは、冗談抜きでクヌーが興奮しているせいだと納得する。
――この実験が終わったら一発炙る。
【にゃー! これは不可抗力というか恋する乙女心としてさすがに許容して欲しいにゃ! 実際に何かしているわけじゃにゃいし!】
僕の頭の中の言葉をそのまま聞き取っているみたいで、何も言っていないはずの僕の言葉にもリアクションを返してきた。
――なるほど、『憑依』状態ってこんなに嫌な状態なのか。
家に土足で踏み込まれているぐらいに気持ちが悪いな。
「『憑依』はできたな。それじゃあとりあえずすぐに出てきてくれ」
【ホントにすぐに戻るのにゃー? 『憑依』って結構疲れるのにゃー】
「一回普通にやっても記憶の共有ができないのを確認するためだ。早く出ろ」
【仕方にゃいなー】
またパアッと光が辺りを包んだかと思うと、その光が収束する地点にクヌーが現れた。
「何にも新しい知識も記憶もにゃいにゃー。セキヤがドキドキしている心音だけでも興奮してしまうって分かった事くらいにゃー」
「『火』」
「にゃー!」
「いい加減そういうのを迂闊に発言するのはダメだって気付け」
「ううう……」
「とりあえず、さっきと同じこれやってみろ」
ハシモトさんは僕たちのやり取りを気にもかけず、マイペースに実験を淡々と続ける。ハシモトさんがクヌーに渡したのはさっき僕が作った簡単な人間言語の問題だ。と言ってもクヌーはそもそも人間言語の文字を全く知らない。つまり解ける解けないの前に読めないのだ。問題が何かも分からないのだ。だから作った側としては労力が無駄になったなと思わないでもないが、それでもすぐに『憑依』の影響が出ているかどうかの区別を付けられるので使い道はあった。
「にゃにゃにゃ……」
ハシモトさんから紙を手渡されたクヌーが、さっきと同じような苦悶の表情を浮かべた。
「聞くまでもない感じだな」
「普通に『憑依』してだけではダメー……っと」
クヌーの反応から知識の共有はできていないとエリアスさんが記録を取る。
「良し、じゃあ次は『憑依』を一時間くらいに伸ばすか」
「それよりもー、セキヤ君から何かしらアクション起こした方がー……」
二人が次の実験をどうするかあれこれ議論し始めて、しかも結構な長時間の議論をしていたせいで、その間にクヌーは疲れからか眠っていた。
「そういやお前らは今日帰ってきたばっかりだったな。すまん、実験は明日からにすべきだったな」
「僕は大丈夫ですけど、クヌーは荷物運びも少なからずやってくれてましたし、やっぱり疲れが溜まってたんでしょう」
「それじゃー、続きは明日ですねー」
眠ってしまったクヌーは僕が部屋まで運び、その日の実験はそれでお開きとなった。
カナイに戻ってきた当日、荷物を置いて休憩もほどほどに、僕たちハシモト研究所のメンバーは研究所の前の広場に集まっていた。
ハシモトさんが『憑依』を使って実験したかった事というのは、記憶の共有との事だった。何でも資料では『憑依』を使った魔法使いが、『憑依』先の人間の記憶や知識を共有する事があると言われているらしい。その部分に関する情報が少なかったので、できるなら自分である程度情報を集めておきたかったと、先ほどハシモトさんに熱く語ってもらった。
「でもにゃーはエリアスに『憑依』を使ったにゃ?」
クヌーと出会うきっかけになったのは、そもそもエリアスさんに『憑依』を使ったからだ。そうなるとエリアスさんの知識なり記憶なりを共有できていて良いはずだが、クヌーは特に新しい知識を得た感じはないと否定していた。
「普通は共有できないんだよ。俺が読んだ『まだ解明されていない魔力の謎一覧』でもつい半年前くらいにそういう影響が出ている時もあるっていう実例が見つかったっていうだけの話だからな」
意識しないと共有できないのか、『憑依』の対象者側が何かする必要があるのかというのを突き詰めるためにも実験をやるぞとハシモトさんは一人テンションが高まっている。
まあ僕としても確かにメリットがある実験なのは確かだった。もしも『憑依』にそんな副産物が存在するなら、一々勉強させるまでもなく、僕の知識をそのままクヌーに渡せば良いだけだから。
「にゃーは準備できたけど、セキヤも良いかにゃ?」
「いつでもいいぞ。『憑依』されるのは初めてだから、どんな感じか楽しみだ」
「セキヤの初めてをもらえるなんて……、興奮するにゃ」
「変な事したらまた尻尾炙るぞ」
「止めてにゃ!」
クヌーが尻尾を隠して後ずさる。
――尻尾はかなり弱点っぽいな。覚えておこう。
「……もういいか。早速やってみてくれ」
「はいにゃ!」
威勢のいい返事と共に右手に溜めた魔力を僕に向けると、その手の先の魔力が目を覆うほどに発光する。その光が収まると、クヌーの姿は跡形もなく消えていた。
『憑依』する瞬間を見るのは初めてだから、実際に姿が消えるのを見ると少しドキッとした。
――これが『憑依』か。そう言えば体が丸々消えるのもまだ不明瞭なんだっけ。
『憑依』に関する自分が持っている知識を整理しようかと思っていると、頭の中から声が聞こえてきた。
【いやー、これがセキヤの中にゃー。何だか変な気分にゃー】
「頭の中でもそういう事言うなよ……」
クヌーの声が頭の中から聞こえてきたせいか、いつもよりも少し呼吸が乱れている感じになった。
――そう言えば、エリアスさんが『憑依』されている時に感情の部分では共有させられている部分があったって言ってたな。
クヌーから影響を受けて僕に対して好感というか、男性的魅力みたいなのを感じていたって聞いた。多分今心拍数が乱れているのは、冗談抜きでクヌーが興奮しているせいだと納得する。
――この実験が終わったら一発炙る。
【にゃー! これは不可抗力というか恋する乙女心としてさすがに許容して欲しいにゃ! 実際に何かしているわけじゃにゃいし!】
僕の頭の中の言葉をそのまま聞き取っているみたいで、何も言っていないはずの僕の言葉にもリアクションを返してきた。
――なるほど、『憑依』状態ってこんなに嫌な状態なのか。
家に土足で踏み込まれているぐらいに気持ちが悪いな。
「『憑依』はできたな。それじゃあとりあえずすぐに出てきてくれ」
【ホントにすぐに戻るのにゃー? 『憑依』って結構疲れるのにゃー】
「一回普通にやっても記憶の共有ができないのを確認するためだ。早く出ろ」
【仕方にゃいなー】
またパアッと光が辺りを包んだかと思うと、その光が収束する地点にクヌーが現れた。
「何にも新しい知識も記憶もにゃいにゃー。セキヤがドキドキしている心音だけでも興奮してしまうって分かった事くらいにゃー」
「『火』」
「にゃー!」
「いい加減そういうのを迂闊に発言するのはダメだって気付け」
「ううう……」
「とりあえず、さっきと同じこれやってみろ」
ハシモトさんは僕たちのやり取りを気にもかけず、マイペースに実験を淡々と続ける。ハシモトさんがクヌーに渡したのはさっき僕が作った簡単な人間言語の問題だ。と言ってもクヌーはそもそも人間言語の文字を全く知らない。つまり解ける解けないの前に読めないのだ。問題が何かも分からないのだ。だから作った側としては労力が無駄になったなと思わないでもないが、それでもすぐに『憑依』の影響が出ているかどうかの区別を付けられるので使い道はあった。
「にゃにゃにゃ……」
ハシモトさんから紙を手渡されたクヌーが、さっきと同じような苦悶の表情を浮かべた。
「聞くまでもない感じだな」
「普通に『憑依』してだけではダメー……っと」
クヌーの反応から知識の共有はできていないとエリアスさんが記録を取る。
「良し、じゃあ次は『憑依』を一時間くらいに伸ばすか」
「それよりもー、セキヤ君から何かしらアクション起こした方がー……」
二人が次の実験をどうするかあれこれ議論し始めて、しかも結構な長時間の議論をしていたせいで、その間にクヌーは疲れからか眠っていた。
「そういやお前らは今日帰ってきたばっかりだったな。すまん、実験は明日からにすべきだったな」
「僕は大丈夫ですけど、クヌーは荷物運びも少なからずやってくれてましたし、やっぱり疲れが溜まってたんでしょう」
「それじゃー、続きは明日ですねー」
眠ってしまったクヌーは僕が部屋まで運び、その日の実験はそれでお開きとなった。
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