剣闘大会

tabuchimidori

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7戦目

『憑依』の効果

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「今の所は悪影響ないですねー。やっぱりドキドキしていると勘違いしている説が濃厚ですねー」
「クヌーの心音が聞こえてるのか? だとすると心臓がセキヤの中に二個あるって事にならないか?」
「『憑依』すると体全部が魔力体に換装されますから、体内にクヌーの心臓があってもおかしくはないですよ」
 クヌーが僕に『憑依』してから四日目。とりあえず興奮作用はクヌーから直接影響を受けているわけではなく、クヌーの心音がより直に感じられるせいで勘違いしている事で落ち着いた。耳元でドクンドクンとと自分以外の心音が聞こえてくるのはそれはそれでストレスになっているが、自分の脈拍は至って正常値の範囲で収まっている事が分かった。
「だとすればむしろ興奮している感情がリンクしていたのはなぜだ? 心臓がバクバクしているからってそんなに勘違いするものか?」
「そこは実体験したエリアスさんの方が参考になるかと」
「勘違いしますよー。吊り橋効果って聞いた事ないんですかー。恋する乙女はちょっとドキドキしただけで恋心と勘違いしちゃうんですよー」
「今聞いてるのは恋心じゃなくて興奮作用の方だ」
「一緒ですよー。気になる異性が近くにいたら興奮しちゃいますってー」
 ――エリアスさんもハシモトさんに詰め寄られている今の状況でドキドキして興奮しているのか?
 表情をよく見ると確かにちょっと紅潮しているようだが、それが本当にハシモトさんに好意を抱いているせいだからかは分からない。まあ十中八九それが原因だとは思うけど。
【セキヤはにゃーといて興奮しないのにゃ?】
「興奮する要素が今までに一個でもあったか? 悪いけどちょっと役立つ助手程度にしか思ってないから」
【にゃー……、相変わらず連れないにゃ。そんなクールな所が良いんにゃけど】
 ――ホントここまで色々言っても諦めない精神だけは凄いと思うけどな。こうやって実験や勉強にもしっかり付いてきてるし。
【お、デレたにゃ? 今は『憑依』中だから筒抜けにゃよ!】
 ――四日も一緒にいれば多少は悪いなって気にもなるっての。調子に乗るなよ。
【照れるにゃ照れるにゃ。これは熱いベーゼを交わす日も近いのかにゃ!?】
「三日後覚えてろ……」
 ――そろそろ火炙り以外の罰を執行しようか。
【止めてにゃー! 一体何をする気にゃー!】

 僕の体にクヌーが『憑依』して六日目。これまでは僕の体に入っている間に新しい知識を仕入れては『憑依』としての副作用かどうかが分からなくなるとして、やってこなかった勉強を実験として行う事にした。つまり今僕が人間言語の本を見たとして、僕の体の中にいるクヌーがそれを読めるかどうかチェックするわけだ。
「どうだ、読めるか?」
 ハシモトさんが渡してきたのは魔力関係の本だ。今までにクヌーが読んでいたような幼児向けの本ではない。漢字も多いし、内容的にも魔力に精通していなければ理解できない本だ。
「クヌー、見えてるか? 読めるか?」
【む、むむむ……!?】
 今までとはちょっと違った反応を見せるクヌー。もしかして『憑依』中なら僕の知識とリンクしているのか?
【いや、多分にゃけど……、読めないにゃ】
「多分読めない?」
 クヌーの返答が非常に曖昧でよく分からない。一体今どうなっているんだ?
【パッと見て読めそうだったんにゃけど、途中から全く分からなくなったにゃ。多分セキヤがちらっと見た部分だけが読めたにゃ】
 クヌーの返答をそのままハシモトさんとエリアスさんにも伝える。つまり知識の部分も結局は頭の中の考えを読めるから、そこに反映されている部分だけを見ているに過ぎないって事か。
「この実験でもその結果って事は、やはり知識や記憶の共有はそのまま引き出せるってわけじゃないんだな」
 あくまでも頭の中で意識した物だけを読み取っている、それを『憑依』後も持ち出せるってだけの話なんだなとハシモトさんが話を締める。
「もしかして実験終了ですかー?」
「とりあえず明日までは『憑依』し続けてもらうが、こりゃ残念な結果と言わざるを得ないな」
 時間取らせたのに対した結果じゃなくて悪かったなとハシモトさんが僕とクヌーに対して謝った。
「いえいえ、こうやって実験したおかげで『憑依』の事とかクヌーの事もよく分かったんで、無駄な時間だとは思ってないですよ」
【そうにゃー。ハシモトのおかげでこれだけ長時間セキヤの中にいられたんにゃから、お礼を言いたいくらいにゃ】
 全文そのまま伝える事は無かったが、とりあえずクヌーも感謝しているとハシモトさんに伝えた。
「そりゃありがとうよ。とりあえず今回の研究結果を整理してまた何か別の実験ができそうだったらその時は頼むな」
「はい、もちろん」
【こちらこそよろしくにゃー】
「それじゃ整理するぞ。エリアス、六日間のデータ全部持ってこい!」
「了解でーす」
 ハシモトさんはエリアスさんを連れて自分の研究室に入っていった。研究所の共同スペースに残された僕は、ここ数日の睡眠スペースになっているソファに横になった。クヌーが『憑依』している内は自然と魔素を消費している事になるので、どうしても一日中活動しづらく頻繁に眠気が襲ってくる。魔素は人間の体力とは別のエネルギーではあるが、集中力や精神的な面でのエネルギー的な効果があるとされている。魔法使いが魔力を短時間で多く使用すると、思考能力が低下する。さらに極端に消費すると意識を失う事もあると言われている。
 クヌーが『憑依』してからは一日の睡眠時間が二倍近くなっている。単純に二人分の睡眠時間を取る必要があるのではと考えている。
 ――そう考えると『憑依』ってやっぱり長期的に行う魔法じゃないよな。
【その通りなのにゃ。こんな実験をやるなんてセキヤたちは変わってるにゃ】
「僕の中に入れるからってノリノリだった奴が、今更それ言うか」
【言うにゃ、普通じゃないって。『憑依』をこんなに突き詰めようと体当たりで実験する人間なんて、普通じゃないって】
「……クヌー?」
 頭の中のクヌーが寂しい気持ちになっているように感じた。ただそれに疑問を持ったと同時に、僕は意識を保てなくなってしまっていた。
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