剣闘大会

tabuchimidori

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8戦目

エレアとミスト

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 まだ誰もいない静寂の道場に一人で足を運ぶ。午前六時過ぎのまだ日も登り切っていない時間帯だと見慣れた景色のはずの道場もいつもと違って見えた。
 少し心持ちを改めつつ道場へと入り、攻撃目標代わりのカカシを一体用意する。大分手に馴染んできた『火炎』入りの魔力剣を右手に持ち、そしてまだまだ『分裂』の扱いが上手くいかないもう一つの剣を左手に持つ。左で剣を持つ事はあまりないためか、重さに違いがないはずの魔力剣が少しだけ重く感じた。
 ――筋力バランスには気を付けてたつもりだったけど、やっぱり剣を振ってると自然と右に偏るわね。
 今後の基礎訓練のメニューを考えなおす事を決めつつ、とりあえず二本の剣を持って構えようとする。
 ――二刀流ってどう構えるのかしら?
 新しい訓練をしようと意気揚々とここまできたは良いが、取っ掛かりからどうしたものかと悩んでしまった。
 ――まあ試しに何回か振ってみれば何となく分かるかも。
 カカシに向けていつものように袈裟切りや足払い、上段からの振り下ろしなど何度か剣を振ってみる。しかし右手で振るのは無意識でもできるが、左手で攻撃しようとするとやっぱり違和感が出る。何より左手で攻撃をする時に右手が完全に忘れ去られているため、二刀流として機能していない。
 ――いっそ一辺に振ってみるか?
 右手と左手を交互に振るのではなく同時に振って攻撃を仕掛けてみるが、右手と左手で振る速さに違いがあるためか、左手の剣で攻撃している感触がほとんどない。カカシが柔らかいというのもあるとは思うが、それでも右手と左手で感触に違いがあるのは、間違いなく振りの問題だと思った。
 ――二刀流って案外難しいのね。
 当たり前の事を今更改めて実感し、とにかくもう少し素振りをして感覚を掴んでいく事にした。
 ――『分裂』に比べればまだやり様はあるわね。
 一ヶ月散々思い悩まされている『分裂』の事を少し思い出して、それは後々と意識を二刀流へと切り替える。そうして誰もいない中での自主練を一時間ほど続けた。

「……何やってんの?」
 両手で同時に攻撃するタイミングが段々合ってきた時に、道場に女性が一人やってきた。正直一番見られたくなかった相手であるミストだ。
「見て分からない? 剣を二個持ってるんだから分かりそうなものだと思うけど?」
「私が聞いているのは何で二刀流の練習をしているのかって事よ?」
 ただの質問のはずなんだけど、ミストはもうすでに不機嫌になっているかのような語気の強さで問いかけてきた。
 ――やっぱりそうよね。『分裂』の練習してたはずの人間がいきなり二刀流の練習してたらそうなるわよね。
「『分裂』を上手く扱う糸口が見つからないから、とりあえず別の戦い方を練習しようと思っただけよ」
 説明したら怒られるだろうなと思って見つからない時間帯にわざわざ早起きしてきたというのに、よりにもよってミストに見つかるとは思わなかった。
 ――こういう運の悪い展開はどっちかというとセキヤの特性だと思うのにな。
 見つかってしまった以上は仕方ないのでしっかりと事情を説明する。
「つまり『分裂』とは違っても、体を左右別々に動かすような戦い方を練習すれば『分裂』を扱うヒントが手に入ると思ったから二刀流を練習しているってわけ?」
「そういう事よ。良いから『分裂』に集中しなさいって怒られると思ったから、とりあえず一人でバレないように練習したかっただけよ」
 こんな時間に一人で練習している理由も付け足して須らくミストに説明した。その説明を聞いてミストが怒るのかなと思ったけど、予想外に普通の対応をしてくれた。
「そう、相変わらず研究熱心で練習熱心ね。日中の訓練や指導に支障が出ない様にしなさいよ」
「えっ?」
 あまりにも普通の対応だったので思わず疑問が声になって出てしまった。
「何よその顔は。確かに『分裂』に集中しろって言いたい気持ちもあるけど、ここんとこあまり『分裂』の練習に進展がないのも知ってるから。気分転換のつもりで別の事をやるのはそこまで悪くないと思うわよ」
「ミストがまともな事言ってる……」
「私はまともな事しか言いません! それより二刀流の練習はどんな感じなのよ?」
 ちょっとは知ってるからアドバイスできるわよと、いつもと違って優しいミストにちょっと引いた。
「大丈夫、熱でもあるんじゃない?」
「少しは歩み寄ろうとしてんだから、素直に聞きなさいよ……!」
 ――そんな苦虫噛み潰した表情で言われても……。
 ミストにしてもまだ葛藤している部分があるんだろう。でもまあそれには触れないようにしよう。折角教えてくれると言うんだから、二刀流の事を色々教えてもらおう。
「ミストが知ってるんなら教えてもらうわ。何せ一時間振ってみたけど二刀流の意味がまるで分からないくらい困ってたから」
「……見切り発車にも程があるでしょ。じゃあ二刀流の戦い方が大きく分けて三つある事も?」
「初耳」
「一旦そこに剣を置きなさい。まずはちゃんと知識を蓄えてからにします」
「はい、先生!」
 ミストの言うとおりに従って剣を置いて正座をして聞く姿勢を整える。あまりにも素直に言う事を聞いたので、ミストも驚いた表情をしていた。
「そんなに素直に言う事聞くなんて、あんた熱でもあるんじゃない?」
「歩み寄りってさっき言ったのミストでしょ!?」
 静寂だった道場はいつの間にか姿を消していた。
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