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三日目2
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芹から『終わりました』と連絡がきたのは、社用スマホの方だった。あえて距離を詰め過ぎないように、気を使ってくれたのかもしれない。
俺はすでに帰宅途中だったので、駅前で落ち合うことになった。
背の高い芹は、すぐにわかった。
改札のそばの壁際で、俯いてスマホを見ている姿に、やっぱり見た目はいいんだよなと思う。普段使っている駅に芹がいるのは、不思議な感覚でちょっとドキドキした。
「何か食べますか? おすすめの店教えてください」
チェーンの定食屋か居酒屋しかないような駅前だから、おすすめもクソもないが、この辺りでは有名なおでん屋に連れて行った。
「和さんって、こういう店好きですよね」
昼間に行った大東楼もそうだが、この店も古くて狭くて薄汚れている(不潔というわけじゃない)。
深く考えずに連れてきたけど、デート? なんだから、もっとおしゃれな店の方がよかったのかもしれないと反省した。
店のチョイスを間違ったかと思ったけど、芹は、旨いですね、と本当に美味しそうにたくさん食べた。
俺たちが席に着いたすぐ後くらいから、店の外に行列ができ始めた。座席数の少ない人気店なので、食べ終わったら即、店を出ないといけない。そして、店を出たら三分で駅に着く。
やっぱり店選びを間違ったかもしれないと後悔した。
「芹」
俺は駅とは逆の方を指差して、名前を呼んだ。
「うち、こっち……ちょっと歩くけど、来る?」
芹は戸惑うような表情で俺を見た。
「……いいの?」
「散らかってるけど」
セックスする仲の男を自分の家に呼ぶのは、芹が初めてだ。ドキドキはするけど、思ったより抵抗がなくて、自分でもちょっとびっくりした。
「マジで散らかってますね」
芹の部屋は、意外とちゃんと片付けられていた。俺の部屋は散らかってはいるけど、汚くはない。一人暮らしなんてこんなもんだろう。
「飲む?」
冷蔵庫を開けてビールを差し出すと、ソファに座った芹はちょっと躊躇した。
「飲んだら帰りたくなくなっちゃうんで」
俺は芹の隣に座って、ビールを開けた。
「……泊まってもいいけど」
芹は困ったように笑ってから、ビールを一口飲んだ。
肩を抱かれて、顔がすぐそばに迫ってくる。キスされるかと思ったけど、芹はもう一方の手で俺の頬を撫でた。
「今日たまたま聞いたんですけど、男で右目に泣きぼくろがある人って、流されやすいらしいですよ」
俺の右の目尻を、芹は親指の腹で撫でた。
「裏切るつもりはないけど、誘惑に弱くて浮気しちゃうらしいです」
身に覚えのありすぎる指摘に、ぎくっと体を揺らす。
熱心に誘われると、つい絆されてしまうのは自覚してる。特定の相手と付き合ったことはないから、浮気ってわけじゃないけど。
思わずふいっと視線を外すと、肩を抱く芹の手に力がこもった。
「俺に流されるのはいいけど、浮気しないでね」
芹が俺の顎を摘んで顔を覗き込む。今度こそ唇が重なった。
ビールの苦味のある舌が、ゆっくりと歯列をなぞって上顎を撫でる。芹の腕を掴んだ手に力が入って、シャツをギュッと握りしめた。
初めてした時からキス上手いな、とは思ってたけど、俺の感じるところを学習してるのか、前よりももっと気持ちよかった。ディープラーニングの精度が高い。
夢中になって芹の舌を追いかけながら、腰が揺れる。俺のも芹のも、がちがちに硬くなっていた。下半身を擦り付けるように芹の上に跨がると、嗜めるように舌を軽く噛まれた。
「体辛くないですか?」
「……セックスした次の日って感じ」
「そのままじゃん」
キスをせがむように芹の首に腕を回すと、芹は焦らすように軽く触れるだけのキスをして、腰を撫でた。
「ケツ洗ってきて」
耳元で囁かれて体温が上がった俺を、芹はからかうように笑った。
俺はすでに帰宅途中だったので、駅前で落ち合うことになった。
背の高い芹は、すぐにわかった。
改札のそばの壁際で、俯いてスマホを見ている姿に、やっぱり見た目はいいんだよなと思う。普段使っている駅に芹がいるのは、不思議な感覚でちょっとドキドキした。
「何か食べますか? おすすめの店教えてください」
チェーンの定食屋か居酒屋しかないような駅前だから、おすすめもクソもないが、この辺りでは有名なおでん屋に連れて行った。
「和さんって、こういう店好きですよね」
昼間に行った大東楼もそうだが、この店も古くて狭くて薄汚れている(不潔というわけじゃない)。
深く考えずに連れてきたけど、デート? なんだから、もっとおしゃれな店の方がよかったのかもしれないと反省した。
店のチョイスを間違ったかと思ったけど、芹は、旨いですね、と本当に美味しそうにたくさん食べた。
俺たちが席に着いたすぐ後くらいから、店の外に行列ができ始めた。座席数の少ない人気店なので、食べ終わったら即、店を出ないといけない。そして、店を出たら三分で駅に着く。
やっぱり店選びを間違ったかもしれないと後悔した。
「芹」
俺は駅とは逆の方を指差して、名前を呼んだ。
「うち、こっち……ちょっと歩くけど、来る?」
芹は戸惑うような表情で俺を見た。
「……いいの?」
「散らかってるけど」
セックスする仲の男を自分の家に呼ぶのは、芹が初めてだ。ドキドキはするけど、思ったより抵抗がなくて、自分でもちょっとびっくりした。
「マジで散らかってますね」
芹の部屋は、意外とちゃんと片付けられていた。俺の部屋は散らかってはいるけど、汚くはない。一人暮らしなんてこんなもんだろう。
「飲む?」
冷蔵庫を開けてビールを差し出すと、ソファに座った芹はちょっと躊躇した。
「飲んだら帰りたくなくなっちゃうんで」
俺は芹の隣に座って、ビールを開けた。
「……泊まってもいいけど」
芹は困ったように笑ってから、ビールを一口飲んだ。
肩を抱かれて、顔がすぐそばに迫ってくる。キスされるかと思ったけど、芹はもう一方の手で俺の頬を撫でた。
「今日たまたま聞いたんですけど、男で右目に泣きぼくろがある人って、流されやすいらしいですよ」
俺の右の目尻を、芹は親指の腹で撫でた。
「裏切るつもりはないけど、誘惑に弱くて浮気しちゃうらしいです」
身に覚えのありすぎる指摘に、ぎくっと体を揺らす。
熱心に誘われると、つい絆されてしまうのは自覚してる。特定の相手と付き合ったことはないから、浮気ってわけじゃないけど。
思わずふいっと視線を外すと、肩を抱く芹の手に力がこもった。
「俺に流されるのはいいけど、浮気しないでね」
芹が俺の顎を摘んで顔を覗き込む。今度こそ唇が重なった。
ビールの苦味のある舌が、ゆっくりと歯列をなぞって上顎を撫でる。芹の腕を掴んだ手に力が入って、シャツをギュッと握りしめた。
初めてした時からキス上手いな、とは思ってたけど、俺の感じるところを学習してるのか、前よりももっと気持ちよかった。ディープラーニングの精度が高い。
夢中になって芹の舌を追いかけながら、腰が揺れる。俺のも芹のも、がちがちに硬くなっていた。下半身を擦り付けるように芹の上に跨がると、嗜めるように舌を軽く噛まれた。
「体辛くないですか?」
「……セックスした次の日って感じ」
「そのままじゃん」
キスをせがむように芹の首に腕を回すと、芹は焦らすように軽く触れるだけのキスをして、腰を撫でた。
「ケツ洗ってきて」
耳元で囁かれて体温が上がった俺を、芹はからかうように笑った。
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