ガチ恋リアコ厄介古参の不感症クリニック

冲令子

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寝取られ

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 目覚めて最初に思ったのは、怒った顔もかっこいいなあということだった。

「……聞いてんの?」
「すみません、聞いてなかったです」

 瑛の低い声に、慌てて体を起こす。周囲を見回して、瞳は頭を抱えた。寝落ちしたソファの周りは、脱ぎ散らかした服やカップ麺の空き容器、集合ポストから取ってきたDMなどでぐちゃぐちゃの状態だった。

「どうやったら一晩でこんなに散らかせるんだよ」

 瑛はソファに座ると、膝に肘をついて瞳を見た。軽蔑したような、そのうんざりした表情も、たまらなくかっこよかった。ぼーっと見つめていると、おい、と声をかけられて、我に返る。

「すみません! すぐ片付けます!」
「まずパンツ穿けよ」

 床に落ちていたパンツを放られて、ようやく下半身が丸出しなのに気づいた。ソファの前のテーブルには、エイジのDVDパッケージがあり、床にはティッシュが散乱している。
 瞳の顔から血の気が引いた。

「……あのですね」

 瑛は頬杖をついて、蔑むような冷たい目を瞳に向けたまま、何も言わない。
 
「……すみません」

 俯いて、消え入りそうな声をなんとか絞り出す。
 エイジのビデオを観ることを、瑛がよく思っていないことはわかっていた。だからこそ、いないタイミングを狙ったのに、まさかこんな形でバレるとは……。

「なんで謝るんだよ」
「えっと……片付けてなくてすみません……。あのでも、佐久間さん、夕方くらいに帰るって言ってたんで、それまでにはきれいにするつもりで……」
「予定より早く帰ってきて悪かったな。何回か連絡したんだけど」

 瞳は慌ててスマホを探し、床に落ちていたそれを拾い上げる。

「す、すみません、寝ちゃってて……」

 瞳はTシャツだけという薄着だったが、冷や汗が全身を伝った。
 やばい。めちゃくちゃ怒ってる。
 どうしたらいいかわからないけど、機嫌を損ねてしまったことだけはわかる。ていうか不機嫌な顔が良すぎる。写真撮りたい。
 瑛は、テーブルの上のDVDパッケージを手に取って眺めた。

「俺がいなくなった途端に、これ観てシコるくらい欲求不満なんだ?」

 え? 今『シコる』って言った? 嘘、もう一回言って欲しい。あ~たまに口が悪くなるの、最高にかわいい♡

「あの、欲求不満とかではなくてですね、定期的に観ないと体調を崩してしまうので……」
「そんなわけないだろ」
「いや、これはマジです」

 瑛が用事があって実家に帰ると聞いた時、よし! 佐久間さんのいない間にエイジで抜くぞ! とすぐに思ったのは事実だ。
 だが別に、欲求不満というわけではない。ていうか、昨日もしちゃってるからね♡

「これはその、佐久間さんに不満があるとかじゃなくて、アイドルのライブDVD観るみたいな感覚で、推し活というか……」
「は?」

 うわ~機嫌わる……と焦るのと同時に、ため息混じりの低い声にぞくぞくと震えた。股を大きく広げた、柄の悪い座り方もかっこいい。やばい、勃ちそう。

「聞いてんのか」
「すみません、聞いてなかったです」

 瑛はじっとりした目で瞳を見ると、パッケージをテーブルに放った。

「オナニーくらい好きにすればいいけど、付き合ってる奴が他の男にヤラれてるの見て抜くとか、どんな神経してんだよ」
「……だって、好きになったきっかけだし、過去のことだし、お仕事でやってるわけだし、こんなにツンツンしてた佐久間さんが、俺にはエ……エッチな顔見せてくれるんだな~とか、でもツンツンしてるのもかわいいな~とか、あの、マジで何回見ても新たな気づきがあるんで!」

 瑛は相変わらず、冷たい眼差しで瞳を見つめる。いつもならこのくらいで、仕方ないなって感じで許してくれるのに、今日は全然そんな雰囲気じゃない。
 美形の真顔の迫力に、瞳は若干怯んだ。

「俺がほかの男とやっても平気なんだ」

 平気なわけない。
 けど、別の男に抱かれる瑛を想像して、思わず勃起してしまった。そして、瞳はまだパンツを穿いていなかった。
 チラッと股間に目をやった瑛が、呆れ果てた表情で瞳を見る。

「ソファにケツ直置きすんな」

 でも、ここでヤったこととかあるじゃないですか、と言いそうになったが、そういう空気ではないことはさすがにわかる。
 瞳はおとなしく、黙ってパンツを穿いた。

「じゃあ、もし俺がさっきまで別の男とやってたとしても、許してくれる?」
「いや、まさかそんなわけないじゃないですか」

 瞳はヘラヘラ笑ってやり過ごそうとするが、瑛は冷たい表情のまま、瞳をじっと見つめる。
 ……これ、本気で捨てられる感じのやつなのでは?

「え……や、やってないですよね……?」
「さあな」

 瑛は瞳から視線を逸らすと、スマホを眺める。

「待って、冗談ですよね? え……は? ちょっ、マッチングアプリ検索しないで!」

 瑛に縋りついた瞳は、アプリストアでマッチングアプリを探す瑛の手を掴む。

「これヤリモクアプリですよ! やだ! ダメ!!」
「お前も登録して」

 わけがわからないまま、指定されたアプリをインストールする。身長体重と使用言語を入力し、顔がほとんど見えない写真をアップするだけで、登録は完了した。

「位置情報オンにして」

 言われた通りに設定を変更すると、すぐにメッセージが届いた。
 メッセージには、時間と場所しか書いていない。

「じゃあ俺、男と会って来るから」

 そう言って部屋を出て行く瑛を、瞳はポカンと見送った。





 半信半疑で、指定された待ち合わせ場所である、自宅最寄駅前に行くと、瑛はいなかった。まあ、流石に来るわけはないか。
 とりあえず、しばらく待ってから帰ることにするが、この後どうすればいいんだ? 瑛はまともに話できる雰囲気じゃない。ていうか、本気で出て行ったってことないよな……。
 瞳が不安に思っていると、目の前に気配を感じて顔を上げた。
 ポケットに手を突っ込んで立つ瑛に、思わず見惚れる。マッチした相手がこんなイケメンなんて、マルチの勧誘だろ。全財産ぶっ込むわ。

「……アキラさん?」

 名前を呼ばれて、瑛がこくんと小さく頷いた。
 本名で登録するなよ、と思ったが、これはこれで合法的に名前で呼べるチャンスでは?
 とはいえ、これはどういう状況なんだろうか。このまま、マッチングアプリで知り合った初対面という体で進めればいいのか?

「……食事とかしますか? それか、うちすぐそこなんで、よかったら来ますか……?」

 瑛は目を伏せて、また小さく頷いた。心なしか緊張しているように見える……これは、彼氏以外の男と会って、ちょっと後ろめたさを感じている表情なのか?
 佐久間さん合意の上で、寝取りと寝取られを体験できるってこと!? え、めちゃくちゃ興奮する。このシステム思いついた佐久間さん天才!!!!

 待ち合わせ場所の最寄駅からマンションへ向かう間、単に二人で自宅へ帰るだけなのに、瞳はやばいほどムラムラしていた。
 部屋に入るなり、瑛を抱き寄せてキスをする。
 いつもなら素直に抱き返してくれる瑛が、腕の中で小さくもがいて顔を背ける。

「いや?」

 顔を覗き込んで尋ねると、躊躇いながらこちらを向いた。もう一度唇を合わせると、今度はぎこちなく受け入れる。
 舌を絡ませながら、縺れるようにしてベッドへ倒れ込んだ。
 瑛はずっと目を伏せたまま、瞳にされるままになっている。このままやっちゃっていいのか? と思いつつ、特に何も言われないので、瑛の服を脱がせる。
 微妙に嫌がっているけど、完全に拒否するわけでもない感じが堪らない。

「アキラさん、自分でわかってる? ここ、とろとろだよ。最近ヤったばっかりでしょ?」

 柔らかいアナルに指を入れて、吸い付くような感触を味わう。

「……昨日」
「昨日したばっかりなのに、今日もしたくなっちゃったんだ? 相手は?」
「……彼氏」

 はい! しました!! 実家帰って会えなくなるからって、めちゃくちゃ抱きました!! よかった~本当にほかの男とヤってたらどうしようかと思った! 信じてたけど、よかった~~~!!!

「彼氏いるのに、初めて会った男の家でこんなことしていいの?」

 瑛は一瞬真顔になって瞳を見たが、いい……と呟いた。

「彼氏が下手で不満とか?」

 冷静に考えれば、下手ですなんて言われたらショック死してしまうが、この時の瞳はテンションが上がりすぎて、完全にモブ寝取り男の心境だった。
 瑛はジロッと瞳を見たが、すぐに視線を逸らした。

「……わかんない」

 いや、あんたプロとやったこともあるじゃん、とは思ったが、口には出さなかった。

「じゃあ、俺の方が良かったら、俺と付き合ってよ」

 は? と動揺する瑛へキスをすると、最初は少し抵抗したが、すぐに舌を絡ませてきた。やばい。佐久間さんがチョロすぎる。
 乳首をしゃぶると、息を詰めて胸を反らせる。普段から派手に感じるタイプではないが、今日は一段と反応が控えめだった。
 ……もしかして、浮気セックスの罪悪感? 『俺の方が良かったら付き合って』って言われたのを気にしてる?
 え~~~めちゃくちゃかわいい♡
 瞳は、背中を反らして突き出した胸に吸い付いた。

「やめ……痕が……」
「彼氏にバレちゃうね」

 わざと音を立ててきつく吸うと、瑛の中が不規則に痙攣して、瞳の指に絡みつく。

「アキラさんのおまんこ、やらしいね」

 瞳の言葉に、瑛がカーッと顔を赤くする。

「アキラさんのおまんこにハメさせて」

 瑛は荒い息を吐くだけで何も言わなかったが、瞳はゴムを手に取って瑛に渡した。

「アキラさんが付けて」

 瑛は手の中のゴムをしばらく見つめていたが、体を起こしてパウチを破った。精液溜まりを摘んで瞳の陰茎に被せると、ゆっくりと屈んで口に咥える。
 瞳が動揺している間に、瑛は唇でゴムを巻き下ろした。瞳の陰茎は一気に硬さを増して、ぴくぴくと震える。
 え……浮気セックスだとこんなエッチなことしてくれるの? 嬉しいけど凄い複雑! でも嬉しい!!
 顔を上げた瑛の腕を取って、腰を引き寄せる。

「アキラさん、俺の上に乗って」

 瑛は困ったような表情で瞳を見るが、何も言わずに跨った。向かい合ってゆっくりと腰を下ろし、アナルに瞳のものを当てがう。
 ぬぷっと先端が嵌ると、瑛は腰を捩った。

「嫌だ……やっぱりだめ……」
「だめ? なんで? 彼氏のこと考えてる?」

 入り口に引っ掛けるように浅く出し入れすると、瑛の腰が揺れる。
 あ~~~♡罪悪感を抱きながら、快感に負ける佐久間さんがエッチ過ぎる♡♡
 逃げそうになる腰を捕まえて下から突き上げると、瑛は声もなく喉を反らしてひくひくと震えた。

「アキラさん、イッちゃった?」
「ち、違……」
「嘘、これイッてるでしょ。彼氏以外のちんぽでイッちゃったの?」

 対面座位で抱きしめて、催促するように腰を揺らすと、瑛がぎゅっと抱きついて、ぎこちなく腰を動かす。あ~腰使いが下手なところも、めちゃくちゃかわいい♡
 瞳は瑛を抱き抱えたまま、ベッドに押し倒した。
 瑛の脚を大きく広げて、上から押し潰すように抱きしめる。奥までみっちりと挿入して腰を強く打ち下ろすと、いつもより激しくてガツガツした腰使いに、瑛は唇を噛み締めて、手の甲で口を覆った。

「彼氏より気持ちいい?」

 瑛は顔を背けて目をぎゅと瞑ったまま、小さく首を振った。
 彼氏とのエッチの方が好きってこと!? 恋人の自己肯定感と寝取りモブの対抗心を同時に煽るスタイル! 佐久間さんが小悪魔すぎる♡♡

「アキラさん、こっち向いて」
 
 瞳ががそう言うと、瑛はゆっくりと瞼を開いた。火照った額に髪の毛が貼り付き、困ったような目で瞳を見つめる。あどけないようなその表情に、どうしようもなく胸を掻き乱される。

「……佐久間さんは、彼氏のこと……好き?」

 どさくさ紛れに思わず訊いてしまった。
 瑛は顔を背けて目を伏せると、小さく頷いた。
 あまりにも素直で予想外の反応に、瑛の中で瞳の陰茎がグンと大きくなる。
 瑛の腰が跳ねるのを、瞳が抱きしめて受け止めた。反り返ったもので奥を優しく突く。瞳の腕の中で瑛が控えめな声を漏らすと、奥の襞が先端を包み込むように吸い付いてくる。
 瑛がひくひくと体を震わせ、限界まで広げていた脚を瞳の腰に巻きつけると、喉を反らせて射精した。二人の密着した腹が、熱い体液で濡れる。

「……佐久間さん、好きです。ほかの人のものにならないで」

 快感を噛み締めるようにピクピクと痙攣する瑛をぎゅっと抱いて、瞳はゴム越しでもわかるくらいに長くて深い射精をした。





「お前が遊んでるのはよくわかった」

 終わった後に言われて、瞳は慌てて首を振った。

「違うんです! あれはモブの竿役が降りてきただけで、遊んでるわけじゃ……」
「同棲してる部屋に男連れ込んで、即ハメしただろうが」

 え? 今、佐久間さん、即ハメって言った? エッチ過ぎる♡

「いや、それは佐久間さんだからですよ! でもあの……盛り上がっちゃいましたね♡」
「そういうつもりでやったわけじゃねえよ」

 瑛に冷たく言い放たれて、瞳はやべ、と顔が引き攣った。
 やっぱり駅で会った時点で『佐久間さんが他の男とヤるなんて嫌です♡』って反省するべきだった? そうかなーと思ったけど、楽しすぎて最後までやっちゃったよ……。

「あの……一応確認なんですけど、彼氏って俺のことでいいんですかね……?」

 おどおどと訊くと、は? と瑛が低い声を出した。やばい、また怒られる、と瞳が首をすくめる。

「じゃあ、一緒に住んでてセックスしてるお前はなんなんだよ」
「か、彼氏です♡」

 頭では理解しているものの、自分の思い上がりじゃないかと、未だに不安になる。

「ではあの……彼氏としてのお願いなんですけど、リアルで佐久間さんが別の人とその……エッチなことをするのは、やっぱり嫌なので…… アプリは消して欲しいです。 俺もあのビデオはふ、封印するので……」

 各所にバックアップはあるとはいえ、ついにパッケージ盤は処分しないといけないのか……もし俺が過去にゲイビに出てたとして、佐久間さんがそれ観て抜いてたら──めちゃくちゃ興奮するな。いやでも、佐久間さんが観てほしくないって言うんだから……
 瞳が断腸の思いで告げると、瑛はふん、と鼻で笑った。

「アプリなんて使わなくても、やろうと思えば相手なんてすぐ見つかるんだよ」

 ですよね! 佐久間さんなら、男でも女でも入れ食い状態でしょうね!

「それは充分わかってます…… だからあの、さっき言ったことも気にしないでくださいね……」

 盛り上がりすぎて、ほかの人のものにならないで、なんて言ってしまった。
 実際のところ、瑛が他の人と寝ていたらショックどころの話じゃない。でも、瞳と付き合っているからといって、誰とどうしようが瑛の自由だ。

「……いつもと違うプレイだっんで、ちょっとテンションおかしくなっちゃって、あの、束縛するつもりは全くないので……」

 消え入るような声で呟くと、瑛は呆れた顔を向けた。

「お前とこんだけやってて、ほかの奴とやる気力なんかあるわけないだろ」

 瞳はゆっくりと顔を上げ、瑛を見た。

「俺は束縛するし、浮気は絶対許さないからな」

 そんなの、ヤキモチを焼く佐久間さんかわいい♡と思うだけだ。

「だからまあ……ビデオくらいは好きに観れば」

 瞳がぽかんとした顔で見ると、瑛はふいっと顔を逸らした。

「え……いいんですか?」
「隠れて観る配慮くらいしろよ」

 瞳は思わず瑛に抱きついた。

「ありがとうございます! でもあの……一番大好きなのは、生身の佐久間さんなので!」

 瑛は照れたような表情で、瞳が抱きつくのに体を預けた。
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