ガチ恋リアコ厄介古参の不感症クリニック

冲令子

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引っ越し

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「賃貸借契約者は同居人の方だけど、二人とも世帯主ってことですよね? 規定上は単身者の住宅補助が出ることになります」
「じゃあ、こっちの欄にチェック入れとけばいいんですね。どうもありがとう」

 転居手続の確認で総務部を訪れた瑛は、以前瞳のことが気になると言って、一緒に食事をした女子社員に礼を言った。転居の理由などは特に訊かれなかったが、相談の内容から瑛が同棲を始めることは察しているだろう。相手が瞳だとは思っていないだろうが。

「あの、最近、四谷さんどうしてるかわかりますか?」

 そわそわした様子で尋ねる女へ、瑛はニコッと笑顔を向けた。

「元気にしてますよ。でも彼、今、付き合ってる人いるよ」

 えぇ~と嘆く姿に、意地の悪い笑いが込み上げてくる。大人気なくマウントを取ってしまったと若干後悔しつつ、清々した表情で、瑛は総務部を後にした。







 ミニバンの荷室にポツンと置かれた二箱の段ボールに、瞳は、これだけ? と唖然とした声を漏らした。

「だから、車なんか要らないって言っただろ。大きい荷物もないし、宅配便で充分だって」

 新居への引っ越しをするに当たって、瞳は事前に母と弟に同居の挨拶をしていた。なので引っ越し当日、瞳が手伝いに来ても、二人とも好意的に迎えてくれた。
 ちなみに、父親に言うとややこしそうなので、友達とルームシェアするとしか言っていないし、父のいないタイミングで瞳を呼んだ。
 俺も瞳の家族に挨拶をした方がいいか? と瑛が訊くと、瞳は慌てて首を振った。

「そんなのしなくていいですよ! もうずっと離れて暮らしてるし、気軽に行ける距離でもないし」

 行きたいかと言われれば別に行きたくはないが、挨拶しようという覚悟はあった。だが、瞳が問答無用で拒否するので、その話もうやむやのまま立ち消えになってしまった。

「モノに執着ないのって、佐久間さんらしいといえばらしいですけど……」

 バックドアを閉めながら、瞳がぽつりと呟く。
 瑛が新居に持ち込む荷物は、部屋着や仕事用のスーツくらいしかない。家具や雑貨は元々一人暮らしをしていた瞳のものがあるし、日用品は買えばいい。
 瞳は運転席に乗り込むと、ハンドルに額をつけて、わかりやすく落ち込んだ。

「……なんだよ」

 瞳は俯いたまま視線を助手席の瑛へ向け、言いにくそうに口を開いた。

「俺のことも、突然『飽きた』って捨てられそうで……」

 そんなわけないだろ、と否定しかけて、瑛は自分の過去の行動を振り返る。まあ、あり得ない話じゃないな。

「……昔はコレクションしたり、普通に物欲あったんだよ。親父の会社が潰れて家財差押とか、引っ越しで処分しないといけなかったりして興味なくなっただけで、別に執着がないわけじゃないから」

 慰めになるのかわからない言い訳に、瞳はまだ不安そうな目をしていたが、顔を上げてエンジンをかけた。

「佐久間さんが一瞬でも一緒に暮らしてもいいって言ってくれたんですから、失望されないように頑張ります!」
「……そんなの、お前が俺に失望するかもしれないだろ」

 瞳は、はあっ!? と声を上げた。

「それは絶対にありえないですよ!」

 何があるかわからないのに簡単に絶対なんて言うな、とカチンときたが、同時に、胸の中が甘酸っぱいような気持ちで満たされる。

「全然時間かからなかったですね。レンタカーの返却までまだ時間あるし、ドライブでもしますか?」

 行きたいところを訊かれて、瑛が別にどこでも、と言うと、瞳は、

「あの……じゃあ、俺の行きたいところでいいですか?」

ともごもご呟いた。
 ラブホに誘う時みたいな言い方するじゃん、と思っていたら、本当にラブホテルのレンガ造りのアーチ門をくぐったので、思わず笑ってしまった。

「なに? ヤリたかった?」

 瑛がニヤニヤしながら訊くと、瞳は俯きながら、うん……と呟いた。てっきり、また変なテンションでアワアワ言い訳するのかと思っていたので、子どもみたいな表情で素直に頷く幼気な仕草に、不覚にもドキッとしてしまった。
『空室』の表示があるガレージに停車して車を降りると、瞳は、あっと声を上げて駐車スペースの奥に走った。

「佐久間さん、見て!」

 ガレージの隅に、茶トラの猫が蹲っていた。
 猫は瞳が駆け寄るのに怯えるどころか、ゴロンと寝転がって甘えるようなポーズを取った。

「こんなとこいたら危ないよ」

 まさか触るつもりじゃないだろうな、と瑛が内心ハラハラしながら見ていると、案の定、瞳は躊躇なく猫の頭や腹を撫でた上に、抱き上げて瑛のそばにやってきた。

「凄い人懐っこい仔ですね! 毛並みがいいから飼われてるのかな」

 瞳は眉をひそめる瑛の鼻先に、見せつけるように猫を突き出した。猫は瑛の不機嫌を敏感に感じ取ったのか、瞳の腕からするりと抜け出して、塀沿いの茂みの中に消えていった。

「ああ~……」

 名残惜しそうに猫の背中を見つめていた瞳は、ようやく瑛へ視線を戻した。

「あっ! 今、手握ったりしたら駄目ですよ! 手洗うまで触らないでくださいね!」

 なんで俺から手を繋ぐ前提なんだ、とイラッとしながら、瑛は瞳の服に付いた猫の毛を摘まんでぽいっと放った。胸が当たりそうなくらいの至近距離で見上げて、顎を上げる。
 瞳は、はゎ……と動揺するが、じっと見つめていると、バンザイをしながらおずおずと顔を傾け、瑛の唇にキスをした。

 部屋に入ると、瑛はベッドに仰向けになって瞳を待った。
 手を洗ってきた瞳は、ベッドの縁に座って瑛の顔を覗き込む。薄暗い紫がかった照明のせいで、いつもより陰影が濃く見えた。

「あの、こんなとこ連れて来ちゃいましたけど、佐久間さんがその気じゃなかったら、昼寝するだけでもいいんで」

 瑛はゆっくりと瞳の方を向いた。

「こんなになってんのに?」

 寝転がったまま、つま先で瞳の股間をつつく。そこは、緩いパンツの上からでもわかるくらい張り詰めていた。
 瞳は慌てて瑛の足を押さえると、体を捩った。

「俺のことはいいんですよ!」

 瑛だってその気になっているのに、相変わらず的外れな気遣いをする瞳を見つめた。
 瞳の周りには、ふわふわしたピンク色の空気が漂っている。瞳の気持ちはこんなにわかりやすいのに、瞳は瑛のことを全然わかってない。
 瑛は気持ちを伝えるように、瞳の頬に手を伸ばした。
 瞳がゆっくりと顔を寄せて、瑛の眼鏡を外す。キスされるんだな、と思っているうちに、唇が合わさった。
 唇を食むようなキスが、次第に深くなっていく。瞳は覆い被さるようにして瑛の髪を梳いて、頭を抱えた。

「……シャワー、先に使いますか?」
「時間ないし、一緒に入る?」

 瑛がそう言うと、瞳は、えっと呟いて固まってしまった。

 向かい合って立ったまま、お互いの肌を手のひらでなぞる。先走りと混ざってもったりとした泡が、脚を伝って流れていった。
 キスの合間に、瞳が、やば……と呟いた。

「めちゃくちゃ興奮する……」

 瑛は、腹に付くくらい完全に勃ち上がった瞳のものを、泡まみれの手でゆっくりと扱く。キスをしながら目を開くと、瞳の閉じた睫毛がぴくぴくと震えていた。
 体をさらに密着させると、硬くなった乳首が瞳の肌で擦られる。思わず息を吐くと、唇を離した瞳に間近で見つめられた。

「佐久間さんのしゃぶらせて」

 シャワーで泡を洗い流す間も、ずっとキスをしながら体をまさぐられる。
 瞳は床に膝をつくと、瑛を見上げた。

「支えるから、俺の肩に脚乗せてください」

 背中を壁に預けて、片脚を瞳の肩にかける。不安定な姿勢だったが、瞳が腰に抱きつくようにして支えるので、怖さはなかった。
 緩く勃ち上がった瑛の先端を、瞳が口に含む。同時に、腰に回された手が、無防備に晒されたアナルに触れた。
 前と後ろを同時に刺激されて腰が跳ねそうになるが、瞳に押さえられて身動きができない。快感が内に篭って、じたばた暴れたくなってしまう。
 瞳が口の動きに合わせて、指を挿入する。喉奥まで深く咥えられながら中も指で擦られて、思わず声が漏れた。バスルームに反響する自分の声にハッと我に返り、唇をぎゅっと結ぶ。
 腰が蕩けるくらい気持ちいい。無意識に腰を振って喉の奥を突いてしまったが、瞳は苦しがるどころか更に深く咥え込んで、喉を締めるようにして扱いた。
 脚が震えて、アナルが瞳の指をぎゅっと食い締める。
 瑛は手の甲で口を覆いながら、瞳を見下ろした。瞳の陰茎がぴくぴくと揺れて、先走りを漏らしていた。

「……もういいから、早くしたい」

 瞳は名残惜しそうに陰茎から口を離し、瑛を見上げた。
 焦るように瑛を壁に向かせて腰を掴むが、あっと声を上げて動きを止めた。

「ゴム……」

 ためらう瞳の手を強引に掴み、ねだるように振り返る。さっきまで瑛の中に入っていた指の腹がふやけているのに気づいて、思わず顔が赤くなった。

「いいの?」

 困ったような顔へ首を伸ばして唇を塞ぐと、瞳も観念したように腰を合わせる。
 ずぶずぶと中を拓かれる感覚に、縋るようにべったりと壁に張り付いた。背中が弓なりにしなって、尻を突き出すような格好になってしまう。
 挿れただけでぴくぴくと震える腹を、瞳の手が宥めるように撫で回した。

「佐久間さんの中、すごく気持ちいい……」

 脚を閉じているせいで、普段より中が締まる。狭いところをごりごりと擦られる感覚に思わず腰が引けるが、瞳にグッと引き寄せられて、また呆気なく尻を突き出してしまった。

「ごめん、俺、あんまり持たないかも……」

 耳元で呟かれて、そのまま甘噛みされる。瞳の手が前に回って、瑛の陰茎を握った。
 後ろを突かれるのと同じリズムで、前も扱かれる。快感がぞくぞくと背骨を駆け上がって、中が瞳のものを不規則に締め付けた。
 瑛は、自分のものを握っている瞳の手を掴むと、後ろを振り返った。

「手、要らない……後ろだけがいい」

 瞳は、えっと声を漏らして、瑛を見つめた。

「……後ろだけでいける?」
「瞳がいかせて」

 目を見開く瞳のものが、中で一層大きくなるのがわかった。

「あ、えっと、…………あっ♡や゛ッイッ……ッッ♡♡」

 瑛が腹の奥に広がる熱さにびっくりしていると、とろんとした目に涙を溜めた瞳と目が合った。





 帰り道、運転を変わった瑛は、うんざりした表情で助手席へ目をやった。瞳は手のひらに顔を埋めて、ひっきりなしにハァーという大きなため息を漏らしている。

「……別に、そんな恥ずかしがることじゃないだろ」

 瞳はおそるおそる手の中から顔を上げて、瑛を見た。

「だって、佐久間さんがあんなエ、エッチなお願いしてくれたのに……」

 情けない……と呟いて、再び手で顔を覆う瞳から、前方へと視線を戻す。

「……帰ってから続きやればいいだろ。今日からはいつでもできるんだから」

 瑛の言葉に、瞳がおずおずと顔を上げる。

「……え、いいんですか? じゃああの、俺、めちゃくちゃ精力つけるんで! あっ、今日の夕飯、生牡蠣にしますか? ちょっと待ってください、お店探します!」

 その後、瞳は食あたりで二日間寝込んだ。
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