21 / 57
二章 発情トラブル
発情トラブル 7
しおりを挟む
ぼくの臀部には尻尾があるので横向きになると、仰向けになって目を閉じているヴィンセントが目に映った。薄明りにフワリとした紅茶色の髪と、形のいい横顔の輪郭が浮かび上がっている。
「自分語りをしていいか?」
「もちろんだ」
ぼくは頷いて目を閉じた。
「オレは物心ついたころには孤児院にいた。両親のことは、いまだにわからない」
生まれた時から左の胸に変わった模様があった。剣と翼をかたどった光が組み合わさったような模様だ。
ヴィンセントが十歳になるころ、孤児院に多くの人がやってきて城に連れていかれた。そしてそのまま、城で暮らすことになった。
胸の模様が、古来より伝わる勇者の紋章と同じであることが判明したのだ。
「どんなに頼んでも、孤児院に帰ることはできなかった。正直、城はイヤだったよ。孤児院には友達がたくさんいたからさ」
それからヴィンセントの生活は一転した。
帝王学を叩きこまれ、しかるべき地位となる足がかりにと騎士に叙された。
「勇者の紋章を持つ者は、恐怖の魔王を討たなければならない。そう古文書に書いてあるそうだ。魔王がどんなに恐ろしいか耳にタコができるくらい聞かされたから、アーシェンを見ても、魔王だとは思えなかった」
「わたしは魔王らしくないか」
「というよりも……」
ヴィンセントの語りがとまったので目を開けると、青い瞳がこちらを見ていた。
その瞳が熱っぽくて、ちょっとドキリとした。
「なんでもない」
ヴィンセントはまたベッドの天蓋に視線を向けて話し出す。低すぎない甘やかな声で、耳心地がいい。
勇者の血筋であることはトップシークレットで、ごく一部の者にしか知らされていなかったので、周囲はヴィンセントが破格の扱いを受ける理由がわからず、妬みや嫉みもあり嫌がらせも多かった。
なによりヴィンセントを打ちのめしたのは、やっと許可が出て孤児院に里帰りした時に、仲間たちによそ者扱いされたことだ。
「裏切者」とさえ言う者がいた。
世界のために戦えと言われ、力をつける一方で、ヴィンセントの心は孤独だった。
しかし、表向きには誰からも慕われ、愛されているように見える。実際にヴィンセントはリーダーシップがあり、懐が深く、人懐こい性格だ。
――それは、もう誰にも嫌われたくないという裏返しでもあった。
「そういえばヴィンセントは、淋しがり屋だったな」
眠気が強くなり、ぼくは夢うつつになりながらつぶやいた。
精鋭たちと魔王討伐パーティを組み、共に何度も死線を越えることで、仲間意識が芽生えていく。
今のヴィンセントはその仲間たちと出会う前なので、信頼できる友がいない。
「アーシェン、手をつないでいいか?」
耳元で囁かれた。いつの間にか、傍に人の体温がある。
「ん……」
だめだ。もう眠い。
ぼくの手が温かいもので包まれて、コツリと額になにかが当った。
「その身体、ほかのヤツに触らせてほしくねえな」
眠りに落ちる前に、そんな声が聞こえた気がした。
「自分語りをしていいか?」
「もちろんだ」
ぼくは頷いて目を閉じた。
「オレは物心ついたころには孤児院にいた。両親のことは、いまだにわからない」
生まれた時から左の胸に変わった模様があった。剣と翼をかたどった光が組み合わさったような模様だ。
ヴィンセントが十歳になるころ、孤児院に多くの人がやってきて城に連れていかれた。そしてそのまま、城で暮らすことになった。
胸の模様が、古来より伝わる勇者の紋章と同じであることが判明したのだ。
「どんなに頼んでも、孤児院に帰ることはできなかった。正直、城はイヤだったよ。孤児院には友達がたくさんいたからさ」
それからヴィンセントの生活は一転した。
帝王学を叩きこまれ、しかるべき地位となる足がかりにと騎士に叙された。
「勇者の紋章を持つ者は、恐怖の魔王を討たなければならない。そう古文書に書いてあるそうだ。魔王がどんなに恐ろしいか耳にタコができるくらい聞かされたから、アーシェンを見ても、魔王だとは思えなかった」
「わたしは魔王らしくないか」
「というよりも……」
ヴィンセントの語りがとまったので目を開けると、青い瞳がこちらを見ていた。
その瞳が熱っぽくて、ちょっとドキリとした。
「なんでもない」
ヴィンセントはまたベッドの天蓋に視線を向けて話し出す。低すぎない甘やかな声で、耳心地がいい。
勇者の血筋であることはトップシークレットで、ごく一部の者にしか知らされていなかったので、周囲はヴィンセントが破格の扱いを受ける理由がわからず、妬みや嫉みもあり嫌がらせも多かった。
なによりヴィンセントを打ちのめしたのは、やっと許可が出て孤児院に里帰りした時に、仲間たちによそ者扱いされたことだ。
「裏切者」とさえ言う者がいた。
世界のために戦えと言われ、力をつける一方で、ヴィンセントの心は孤独だった。
しかし、表向きには誰からも慕われ、愛されているように見える。実際にヴィンセントはリーダーシップがあり、懐が深く、人懐こい性格だ。
――それは、もう誰にも嫌われたくないという裏返しでもあった。
「そういえばヴィンセントは、淋しがり屋だったな」
眠気が強くなり、ぼくは夢うつつになりながらつぶやいた。
精鋭たちと魔王討伐パーティを組み、共に何度も死線を越えることで、仲間意識が芽生えていく。
今のヴィンセントはその仲間たちと出会う前なので、信頼できる友がいない。
「アーシェン、手をつないでいいか?」
耳元で囁かれた。いつの間にか、傍に人の体温がある。
「ん……」
だめだ。もう眠い。
ぼくの手が温かいもので包まれて、コツリと額になにかが当った。
「その身体、ほかのヤツに触らせてほしくねえな」
眠りに落ちる前に、そんな声が聞こえた気がした。
32
あなたにおすすめの小説
勇者は魔王!?〜愛を知らない勇者は、魔王に溺愛されて幸せになります〜
天宮叶
BL
十歳の誕生日の日に森に捨てられたソルは、ある日、森の中で見つけた遺跡で言葉を話す剣を手に入れた。新しい友達ができたことを喜んでいると、突然、目の前に魔王が現れる。
魔王は幼いソルを気にかけ、魔王城へと連れていくと部屋を与え、優しく接してくれる。
初めは戸惑っていたソルだったが、魔王や魔王城に暮らす人々の優しさに触れ、少しずつ心を開いていく。
いつの間にか魔王のことを好きになっていたソル。2人は少しずつ想いを交わしていくが、魔王城で暮らすようになって十年目のある日、ソルは自身が勇者であり、魔王の敵だと知ってしまい_____。
溺愛しすぎな無口隠れ執着魔王
×
純粋で努力家な勇者
【受け】
ソル(勇者)
10歳→20歳
金髪・青眼
・10歳のとき両親に森へ捨てられ、魔王に拾われた。自身が勇者だとは気づいていない。努力家で純粋。闇魔法以外の全属性を使える。
ノクス(魔王)
黒髪・赤目
年齢不明
・ソルを拾い育てる。段々とソルに惹かれていく。闇魔法の使い手であり、歴代最強と言われる魔王。無口だが、ソルを溺愛している。
今作は、受けの幼少期からスタートします。それに伴い、攻めとのガッツリイチャイチャは、成人編が始まってからとなりますのでご了承ください。
BL大賞参加作品です‼️
本編完結済み
限界オタクだった俺が異世界に転生して王様になったら、何故か聖剣を抜いて勇者にクラスチェンジした元近衛騎士に娶られました。
篠崎笙
BL
限界ヲタクだった来栖翔太はトラックに撥ねられ、肌色の本を撒き散らして無惨に死んだ。だが、異世界で美少年のクリスティアン王子として転生する。ヲタクな自分を捨て、立派な王様になるべく努力した王子だったが。近衛騎士のアルベルトが勇者にクラスチェンジし、竜を退治した褒美として結婚するように脅され……。
勇者のママは今日も魔王様と
蛮野晩
BL
『私が魔王に愛される方法は二つ。一つ目は勇者を魔王の望む子どもに育てること。二つ目は魔王に抱かれること』
人間のブレイラは魔王ハウストから勇者の卵を渡される。
卵が孵化して勇者イスラが誕生したことでブレイラの運命が大きく変わった。
孤児だったブレイラは不器用ながらも勇者のママとしてハウストと一緒に勇者イスラを育てだす。
今まで孤独に生きてきたブレイラだったがハウストに恋心を抱き、彼に一生懸命尽くしてイスラを育てる。
しかしハウストには魔王としての目的があり、ブレイラの想いが届くことはない。
恋を知らずに育ったブレイラにとってハウストは初恋で、どうすれば彼に振り向いてもらえるのか分からなかったのだ。そこでブレイラがとった方法は二つ。一つ目は、勇者イスラをハウストの望む子どもに育てること。二つ目は、ハウストに抱かれることだった……。
表紙イラスト@阿部十四さん
大魔法使いに生まれ変わったので森に引きこもります
かとらり。
BL
前世でやっていたRPGの中ボスの大魔法使いに生まれ変わった僕。
勇者に倒されるのは嫌なので、大人しくアイテムを渡して帰ってもらい、塔に引きこもってセカンドライフを楽しむことにした。
風の噂で勇者が魔王を倒したことを聞いて安心していたら、森の中に小さな男の子が転がり込んでくる。
どうやらその子どもは勇者の子供らしく…
異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます
野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。
得た職は冒険者ギルドの職員だった。
金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。
マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。
夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。
以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。
いつも役立たずで迷惑だと言われてきた僕、ちょっとヤンデレな魔法使いに執着された。嫉妬? 独占? そんなことより二人で気ままに過ごしたいです!
迷路を跳ぶ狐
BL
貴族の落ちこぼれの魔法使いの僕は、精霊族の魔法使いとして領主様の城で働いてきた。
だけど、僕はもともと魔力なんてあんまりないし、魔法も苦手で失敗ばかり。そんな僕は、どうも人をイラつかせるらしい。わざとやってるのか! と、怒鳴られることも多かった。
ある日僕は使用人に命じられて働く最中、魔力が大好きらしい魔法使いに出会った。たまに驚くようなこともするけど、僕は彼と話すのは楽しかった。
そんな毎日を過ごしていたら、城に別の魔法使いが迎えられることになり、領主様は僕のことはもういらなくなったらしい。売ろうとしたようだが、無能と噂の僕に金を出す貴族はいなくて、処刑しようなんて考えていたようだ。なんだよそれ!! そんなの絶対に嫌だぞ!!
だけど、僕に拒否する権利なんてないし、命じられたら死ぬしかない……
怯える僕を助けてくれたのが、あの魔法使いだった。領主様の前で金を積み上げ、「魔法なら、俺がうまく使えるようにしてあげる。他にも条件があるなら飲むから、それ、ちょうだい」って言ったらしい。よく分からないが、精霊族の魔力が欲しかったのか??
そんなわけで、僕は、その魔法使いの屋敷に連れてこられた。「これからたくさん弄ぶね」って言われたけど、どういう意味なんだろう……それに僕、もしかしてこの人のこと、好き……なんじゃないかな……
【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました
ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。
タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる