隠され姫のキスは魔道士たちを惑わせる

じゅん

文字の大きさ
58 / 63
五章 マナの樹

マナの樹 5

しおりを挟む
「実際、お前の涙がオレの肌に触れて、魔力が増幅した。まあ、またマナの樹に吸い取られるんだけど」
 ザックが苦笑する。
(あっ!)
 アレクサンドラは閃いた。
「私の力で、ザックの魔力が回復するのね?」
「そうだな」
「じゃ、ずっとキスしていれば、ザックは死なない?」
「……はあ?」
 ザックは素っ頓狂な声を上げた。
「まあ、確かに、そうか?」
 アレクサンドラは瞳を輝かせた。ザックを助ける糸口が見えた気がした。
「そんなこと、いつまで続けるんだよ。一生か。オレはここから抜けられないんだぞ」
「一生でもいいけど」
 アレクサンドラは顔を赤らめた。
「マナの樹は、元気な頃は人を襲わなかったんでしょ? 増幅したザックの魔力をたくさん取りこんで元気になれば、ザックを解放してくれるんじゃないかな」
「そう上手くいくのか」
 ザックは首をひねる。
「試してみなきゃ分らないわよ」
 アレクサンドラは両手を伸ばして、少し高い位置にあるザックの頬を包んだ。ザックは完全にマナの樹に囚われて動けないので、アレクサンドラから口づけるしかない。
 ザックは切れ長の目を閉じている。
(自分から口づけるの初めてだから、どうしていいのか分からない)
 唇を近づけたはいいが、どの角度で触れたらいいのか迷ってしまう。ザックの吐息が唇に当たり、くすぐったく感じた。それはザックも同じだろう。そのまま、ああでもないこうでもないと悩んでいると、ザックが片目を開けた。
「オレ、焦らされてる?」
「えっ、違っ……!」
ドキドキしながら、アレクサンドラは思い切ってザックの薄い唇に、唇を寄せた。今朝されたキスを思い出して、小さな舌を差し入れてみる。ザックの歯が舌先に当たった。歯列を割って、更に奥に侵入する。アレクサンドラは懸命に舌先を動かすが、ザックの舌が見つからない。口づけの深さが足りないようだ。
「んっ……ん……」
 アレクサンドラはザックの肩と頬に手を添えて、背伸びをした。
口づけをしたまま角度を変えて、できるだけ奥まで舌を伸ばす。ようやく柔らかいものに触れた。長時間囚われていたせいか、ザックの口内は乾いている。潤すように、アレクサンドラは丹念に舌を絡めた。
――しばらくして、アレクサンドラは一旦唇を離した。
(難しい……。これでいいのかな)
 ザックを見ると、頬に赤みが差し、顔色が戻っていた。アレクサンドラはほっとして、ザックの顔をなでた。
 ザックはニヤリと笑う。
「こんなに必死にキスされるのも珍しい。初々しい感じもアリか」
 アレクサンドラはムッとした。こっちは恥ずかしさを押して、必死で慣れないキスをしているというのに。
「茶化すなら、もうしてあげない」
「悪かったって」
 ザックは誘うような笑みを浮かべた。
「もっとくれよ、アレクサンドラ」
 ドキリとする。
(もう、ずるいんだから)
 アレクサンドラは背伸びをして、少し慣れた仕草でザックに口づけた。今度はすぐに、ザックの弾力のある舌が、アレクサンドラに侵入してくる。
「あっ……」
アレクサンドラは驚いて、身を引いてしまった。
「逃げるなよ。もっと深く」
 ザックはアレクサンドラの薄桃色の唇をついばみながらねだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

君を探す物語~転生したお姫様は王子様に気づかない

あきた
恋愛
昔からずっと探していた王子と姫のロマンス物語。 タイトルが思い出せずにどの本だったのかを毎日探し続ける朔(さく)。 図書委員を押し付けられた朔(さく)は同じく図書委員で学校一のモテ男、橘(たちばな)と過ごすことになる。 実は朔の探していた『お話』は、朔の前世で、現世に転生していたのだった。 同じく転生したのに、朔に全く気付いて貰えない、元王子の橘は困惑する。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...