海賊王と麗人海軍~海洋恋愛浪漫譚~

じゅん

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一章 旅立ち

旅立ち 1

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「おまえ、また勝手に縁談を断ったな」
 アレクサンドラは兄に肩を掴まれて、説教を受けている。
「わかっているのか。今日はおまえの誕生日だ。十八歳になってしまうんだ」
「そうだね」
「そうだね、じゃない! まったくめでたくない。きっとラストチャンスだったのに」
 兄は嘆くように片手で顔をおおった。
「私はもう、結婚は諦めてるよ。離して、仕事に行かなきゃ」
 青い軍服に身を包んだアレクサンドラは、登営間際のエントランスで兄に足止めされていた。
「諦めるな。軍人なんて女のする仕事じゃない。家庭に入って幸せになってくれよ。せっかく顔はいいのに、男の真似事なんかして」
「真似事なんかじゃないっ」
 アレクサンドラは兄の手を振り払った。軍人として真剣に取り組んでいるのに、成績だってトップクラスを維持しているのに、周囲はアレクサンドラをおままごとの延長のようにしか見てくれない。それが悔しかった。
「こうなったら、エドを口説いて結婚しろ」
 アレクサンドラは少し高い位置にある兄の目を瞠目して見つめた。鋭い眼光を持つ端正な顔立ちの海軍の先輩を思い浮かべた。兄の親友で、アレクサンドラの幼なじみでもある。
「なぜエドの名前が出てくるの」
「あいつは次期伯爵様だぞ。しかも俺から見たって男前だ。伴侶なんて選り取り見取りなのに、なぜかいまだに独身。そしてあいつは、唯一おまえをまともに女扱いしてくれ……、ちょっと待て、ちゃんと話を……」
「行ってきます!」
 アレクサンドラは兄を置いて、馬車で軍港に向かった。
 国のため、皇帝陛下のために、誇りを持って闘っている父に憧れて、アレクサンドラも十四歳から軍隊に顔を出すようになった。
しかし、可愛がってもらえたのは父がいたからだったのだと、十六歳の時に父が病死してから気がついた。今では雑用ばかりの毎日だ。
「見習いの頃が一番、艦艇に乗っていたな」
 港が近づくと、風にたなびく三角帆の群れが見えてきた。内海で三隻並走しているのは練習艦隊だろう。アレクサンドラは久しく乗っていない。
 アレクサンドラは鞄から手書きの海図を取り出して開いた。アレクサドラが見たものだけを書き込んだ海図は、殆どが空白だった。
 アレクサンドラはため息をついた。
 大海原に憧れていた少女は、いつしか大海を旅して未知の大陸を回り、海図を完成させるのが夢になっていた。そのためにも、海軍に所属している必要があると考えていた。
もちろん軍人を志したからには愛国心だってある。祖国のため、正義のため、愛するもののために身を捧げる。女性はそんな勇ましい生き方を望んではいけないのか。
「愛するもの……」
 呟いて、アレクサンドラはブルネットの髪をかき上げた。相変わらず男性に間違われるものの、腰まで伸びたストレートの髪が、自分は女性なのだと主張している。
「私は一体、なにを守りたいのだろうか」
 両親は先立った。唯一の肉親である兄とは、顔を合わせるたびに揉めている。頑なに辞めない海軍ではお荷物扱いだ。
「結婚すれば、人生が変わるのかな」
 アレクサンドラは自嘲した。軍人でいるより貿易商の妻になる方が、よほど海に出られるのではないか。
 簡単に掴めると思っていた青い水平線の先の未知の世界は、遥かに遠い。
 どんなに努力をしても、女というだけで届かないのだろうか。
 アレクサンドラは再び大きな溜息をつく。
将来が見えなくなっていた。
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