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二章 ロバート海賊団
ロバート海賊団 2
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「条件に合わない奴は出て行けよ。……ほとんど減らねえな」
店を出たのは四人だけだった。
「真剣で勝負させようよ。いい酒の余興になるじゃない」
クリスの提案に、「やれ!」「男を見せろ!」と男たちが沸き上がる。
「余興になるか? うっかり死体が転がっちまったら、酒が不味くなるだろうが」
ロバートは乗り気ではないようだ。
「剣で勝負」
呟きながら、アレクサンドラは入団希望者を見回した。アレクサンドラとエドワードの他に十四人。腕力に自信がありそうな屈強な男たちばかりだが、鍛えているからといって、剣技が優れているわけではない。
アレクサンドラは男社会の中、どんなに鍛えても力では勝てない分、剣や銃の技術を磨いてきた。成績もトップクラスだった。
「おまえら、そんなに血を見たいのか。ネイサン、どう思う?」
ロバートは手摺に寄りかってビールを煽りつつ、長身の銀髪男に尋ねた。
「規律を作り、街をここまで立て直したあなたが、ただの入団希望者を死なせたとあっては示しがつきません」
「だってさクリス。却下」
「ええっ、つまらない!」
クリスはプクッと頬を膨らませた。いちいち仕草が可愛らしい。男性だと言われても、そう見えなかった。
「よし決めた、ブッチャーの案を採用だ。適当にペアになれ。アームレスリングをして、勝った方を採用する」
「腕力勝負」
アレクサンドラは顔から血の気が引くのを感じた。純粋な力のぶつかり合いは一番勝ち目の薄い勝負だ。
「まだ剣の方が勝算があったな」
エドワードも、アレクサンドラが窮地に立たされていることがわかっている。
「次の補充を待つか。入団方法は毎回違うようだ」
「せっかく初日から会えた幸運をふいにするなんてもったいない。どうにかならないかな」
エドワードが出直しを提案するが、アレクサンドラは諦めきれなかった。手を髪に差し込み、ギリリと唇を噛む。
こんな時に非力な自分を悔しく思う。毎日怠らずにトレーニングをしているのに、怠けている同僚にも純粋な膂力では負けるのだ。
そんなアレクサンドラを見て、エドワードは周囲を見回し、そして二階のロバートを見上げた。
「……賭けてみるか」
エドワードは一度青い瞳を眇めると、テーブルの下でアレクサンドラの腕を掴んだ。
「エド?」
「アレックス、このまま腕を動かすなよ。痛いだろうが、表情に出すな」
エドワードは視線を外したまま、アレクサンドラに囁いた。
「……っ!」
次の瞬間、アレクサンドラの腕に痛みが走った。歯を食いしばって声を堪える。チラリと視線を動かすと、エドワードがアレクサンドラの手首から肘までを、ダガーで切りつけていた。
「キャプテン・ロバート、頼みがある」
エドワードは立ち上がった。
「こいつはさっき襲われた時に、利き腕に傷を負ってしまった。俺がこいつの分も、勝負を引き受けていいか?」
エドワードはアレクサンドラの右腕を高く掲げた。鮮血が流れ、肘から床に滴り落ちる。
「そんなの、そっちの勝手でしょ。代役なんてありえない!」
クリスが真っ先にブーイングをすると、そうだそうだと同調する声が広がった。
「まあまあ、オレたちはチームワークが大事なんだ。オレはいいと思うぜ。ただし連戦、休みなしだからな」
「感謝する」
二階席のロバートがニヤリと笑い、エドワードはそれを静かに見返している。
「ありがとう、エド」
その声に、エドワードは隣りに視線を戻した。青ざめていたアレクサンドラの表情に明るさが戻ったのを見て、エドワードはほっとした息をつき、「上手くいかなければ、おまえは怪我し損だったな」と揶揄した。
「それなら、このひょろっこいのの二回戦目は俺がいただくぜ」
「そりゃずるい、そんな確実なポジション、俺だってほしいよ」
たちまちエドワードの二回戦目が、一番人気の枠となった。エドワードはとても「ひょろっこい」肉体ではないが、猛者の中では相対的に細身に見える。
「じゃあ、こいつの初戦は俺がいただくよ」
細い目、尖った鼻、長い顎と、全体的に長細い、狐を髣髴とさせる三十代半ばの男が立候補した。筋肉質というわけでもなく、身長もエドワードより低い。この相手ならエドワードが負けるはずがないと、アレクサンドラは安心した。
「あんたはこっちに来なさい、治療してやろう。ワシは医者じゃ」
賭けが始まって大賑わいの中、アレクサンドラに話しかけてきたのは白い髭の初老の男だった。
「いえ大丈夫です。それより、試合を近くで見ていたい」
アレクサンドラが断ると、医者に白い布を渡された。素直に受け取って、傷口を押さえる。皮一枚の浅い傷なので、すぐに血は止まるだろう。
テーブルを一つ残して、その他の全てが壁際に寄せられる。テーブルの両サイドにエドワードと狐に似た男が対峙した。
「肘を置け。手を組んで」
審判は巨漢のブッチャーだ。男二人は右手を組んで、左手でテーブルをしっかりと掴んだ。
「レディー……」
狐男が若干右手の握り方を変える。
「エド?」
エドワードの片眉が動き、微かに怪訝な表情を浮かべたことに、アレクサンドラは気づいた。
「ゴー!」
ブッチャーが声を張り上げると共に、二人への声援が上がった。
「糸目行け!」
「今夜俺がいい女が抱けるかは、おまえにかかってるんだぞ!」
渾身の力がこもった右腕がきしむ。エドワードが若干押されたところで均衡し、腕に青筋と汗がにじみ出した。
「こら色男! おまえの筋肉は見せかけか!」
「吹っ飛ばせ!」
エドワードは歯を食いしばり、額から汗を滴らせている。
様子がおかしい。
興奮する男たちの波の中を移動しながら、アレクサンドラは目を凝らした。
エドワードの震える拳から、腕を伝って、血が流れている。
「血……、審判、止めて!」
店を出たのは四人だけだった。
「真剣で勝負させようよ。いい酒の余興になるじゃない」
クリスの提案に、「やれ!」「男を見せろ!」と男たちが沸き上がる。
「余興になるか? うっかり死体が転がっちまったら、酒が不味くなるだろうが」
ロバートは乗り気ではないようだ。
「剣で勝負」
呟きながら、アレクサンドラは入団希望者を見回した。アレクサンドラとエドワードの他に十四人。腕力に自信がありそうな屈強な男たちばかりだが、鍛えているからといって、剣技が優れているわけではない。
アレクサンドラは男社会の中、どんなに鍛えても力では勝てない分、剣や銃の技術を磨いてきた。成績もトップクラスだった。
「おまえら、そんなに血を見たいのか。ネイサン、どう思う?」
ロバートは手摺に寄りかってビールを煽りつつ、長身の銀髪男に尋ねた。
「規律を作り、街をここまで立て直したあなたが、ただの入団希望者を死なせたとあっては示しがつきません」
「だってさクリス。却下」
「ええっ、つまらない!」
クリスはプクッと頬を膨らませた。いちいち仕草が可愛らしい。男性だと言われても、そう見えなかった。
「よし決めた、ブッチャーの案を採用だ。適当にペアになれ。アームレスリングをして、勝った方を採用する」
「腕力勝負」
アレクサンドラは顔から血の気が引くのを感じた。純粋な力のぶつかり合いは一番勝ち目の薄い勝負だ。
「まだ剣の方が勝算があったな」
エドワードも、アレクサンドラが窮地に立たされていることがわかっている。
「次の補充を待つか。入団方法は毎回違うようだ」
「せっかく初日から会えた幸運をふいにするなんてもったいない。どうにかならないかな」
エドワードが出直しを提案するが、アレクサンドラは諦めきれなかった。手を髪に差し込み、ギリリと唇を噛む。
こんな時に非力な自分を悔しく思う。毎日怠らずにトレーニングをしているのに、怠けている同僚にも純粋な膂力では負けるのだ。
そんなアレクサンドラを見て、エドワードは周囲を見回し、そして二階のロバートを見上げた。
「……賭けてみるか」
エドワードは一度青い瞳を眇めると、テーブルの下でアレクサンドラの腕を掴んだ。
「エド?」
「アレックス、このまま腕を動かすなよ。痛いだろうが、表情に出すな」
エドワードは視線を外したまま、アレクサンドラに囁いた。
「……っ!」
次の瞬間、アレクサンドラの腕に痛みが走った。歯を食いしばって声を堪える。チラリと視線を動かすと、エドワードがアレクサンドラの手首から肘までを、ダガーで切りつけていた。
「キャプテン・ロバート、頼みがある」
エドワードは立ち上がった。
「こいつはさっき襲われた時に、利き腕に傷を負ってしまった。俺がこいつの分も、勝負を引き受けていいか?」
エドワードはアレクサンドラの右腕を高く掲げた。鮮血が流れ、肘から床に滴り落ちる。
「そんなの、そっちの勝手でしょ。代役なんてありえない!」
クリスが真っ先にブーイングをすると、そうだそうだと同調する声が広がった。
「まあまあ、オレたちはチームワークが大事なんだ。オレはいいと思うぜ。ただし連戦、休みなしだからな」
「感謝する」
二階席のロバートがニヤリと笑い、エドワードはそれを静かに見返している。
「ありがとう、エド」
その声に、エドワードは隣りに視線を戻した。青ざめていたアレクサンドラの表情に明るさが戻ったのを見て、エドワードはほっとした息をつき、「上手くいかなければ、おまえは怪我し損だったな」と揶揄した。
「それなら、このひょろっこいのの二回戦目は俺がいただくぜ」
「そりゃずるい、そんな確実なポジション、俺だってほしいよ」
たちまちエドワードの二回戦目が、一番人気の枠となった。エドワードはとても「ひょろっこい」肉体ではないが、猛者の中では相対的に細身に見える。
「じゃあ、こいつの初戦は俺がいただくよ」
細い目、尖った鼻、長い顎と、全体的に長細い、狐を髣髴とさせる三十代半ばの男が立候補した。筋肉質というわけでもなく、身長もエドワードより低い。この相手ならエドワードが負けるはずがないと、アレクサンドラは安心した。
「あんたはこっちに来なさい、治療してやろう。ワシは医者じゃ」
賭けが始まって大賑わいの中、アレクサンドラに話しかけてきたのは白い髭の初老の男だった。
「いえ大丈夫です。それより、試合を近くで見ていたい」
アレクサンドラが断ると、医者に白い布を渡された。素直に受け取って、傷口を押さえる。皮一枚の浅い傷なので、すぐに血は止まるだろう。
テーブルを一つ残して、その他の全てが壁際に寄せられる。テーブルの両サイドにエドワードと狐に似た男が対峙した。
「肘を置け。手を組んで」
審判は巨漢のブッチャーだ。男二人は右手を組んで、左手でテーブルをしっかりと掴んだ。
「レディー……」
狐男が若干右手の握り方を変える。
「エド?」
エドワードの片眉が動き、微かに怪訝な表情を浮かべたことに、アレクサンドラは気づいた。
「ゴー!」
ブッチャーが声を張り上げると共に、二人への声援が上がった。
「糸目行け!」
「今夜俺がいい女が抱けるかは、おまえにかかってるんだぞ!」
渾身の力がこもった右腕がきしむ。エドワードが若干押されたところで均衡し、腕に青筋と汗がにじみ出した。
「こら色男! おまえの筋肉は見せかけか!」
「吹っ飛ばせ!」
エドワードは歯を食いしばり、額から汗を滴らせている。
様子がおかしい。
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「血……、審判、止めて!」
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