海賊王と麗人海軍~海洋恋愛浪漫譚~

じゅん

文字の大きさ
15 / 48
二章 ロバート海賊団

ロバート海賊団 3

しおりを挟む
 エドワードの様子がおかしい。
 アレクサンドラは目を凝らした。
 エドワードの震える拳から、腕を伝って、血が流れている。
「血……、審判、止めて!」
 アレクサンドラの声にブッチャーが流血を確認した。爪が食い込んだなんて量ではない。狐男が、針か剃刀の類を手に仕込んでいたのだろう。
「止めるな!」
 叫んだのはエドワードだ。すっと通った鼻先から、そして顎からも汗が滴っている。
「だって、エド!」
 エドワードの手首が返り、更に狐男に押される。鮮血が幾筋にもなり、テーブルに血だまりができた。周囲の男たちも流血に気づいて色めき立ち、声援のボルテージが高まった。
「こんな卑怯者には、……負けん!」
 エドワードは歯ぎしりが聞こえそうなほど歯を食いしばり、額や腕にあらゆる血管を浮かびあがらせた。左手で掴むテーブルに亀裂が入る。咆哮をあげて、エドワードは握った相手の拳をテーブルに叩きつけた。
「勝者、エドワード!」
「おおおおおおっ!」
 大歓声が上がる。
「エド、エド、手!」
 アレクサンドラがエドワードに駆け寄った。エドワードの指の付け根に、五センチほどの剃刀が二枚食い込んでいた。
「動かしてはならん、こちらに来なさい」
 先ほどの医師がエドワードを促した。
「連戦じゃなかったのかよ」
「次どうすんだ」
 歓声とブーイングの嵐の中、ロバートが手をあげて注目を集める。
「エドには男気を見せてもらったからな。今の一戦で、二人分の勝ちにしてやる。次にエドとやるはずだった奴、特別に、このオレが相手をしてやるよ。言っとくが、仕込みは反則負けにするからな」
 ロバートの言葉にまた歓声が上がり、ロバートコールと賭け直しが始まった。
 ロバートは膝まである深紅のジュストコールをマントのように翻して、二階から飛び降りた。真っ直ぐにカウンターに向かうと、処置を受けているエドワードと、その隣に座るアレクサンドラの肩に手をのせた。
「面白いもん見せてもらったから、この嘘はチャラにしてやる」
 ロバートはアレクサンドラが布で押さえている傷に目配せし、ウインクをしてフロア中央に歩いていった。
「食えない男だ」
 エドワードは眉をつり上げる。
「無茶をするでない。もう少しで、指が動かなくなっていたところじゃ」
医師は顰め面をして治療している。
「そうだよ、こんなに血を流して。エドになにかあったら、私……」
 アレクサンドラはエドワードの額の汗を拭いながら、泣きたくなるのをこらえた。元はといえば、自分がアームレスリングに出なかったことが原因だ。海賊島に来てから、エドワードに迷惑ばかりかけている。
「でもエドは格好よかったよ! 一番格好いいのは、キャプテンだけどね」
 目を輝かせているのは、ホットミルクを飲んでいるナチュラルブラウンの髪の少年だ。十二歳で、ピエールだと名乗った。アレクサンドラは予定どおり、アレックスと呼んでほしいと伝えた。
「キャプテン・ロバートは、随分と人気があるんだね」
 アレクサンドラがフロアに目を向けると、ロバートと入団希望者との対戦が始まろうとしていた。相手はロバートの二倍は体積がありそうな大男だ。
「当然だよ、キャプテンはこの街の救世主、ヒーローなんだから!」
 ピエールは拳を握った。
「そういえばさっき、街を立て直したと言っていたな」
 そう言ったのは、治療が終わって包帯が巻かれた右手を眺めていたエドワードだ。指先の感覚を確かめている。
「うん。キャプテンが来るまで、ここは酷い街だったんだ。それは海賊たちのせいなんだけど、僕も海賊が大嫌いで……。あれ、僕たちも海賊か。じいじ先生、どこから話せばいいのかな」
「ふぉっふぉ、上手に話そうとしなくていいんじゃよ」
 医師が皺だらけの手を小さな頭にのせると、ピエールは嬉々として話しだした。
 元々ジャスターク国は農漁業を生業とし、地産地消で他国との交流は殆どなかった。しかし、穏やかだった漁村を海賊が襲い、住み着いてしまった。その情報が流れ、次々と海賊たちがやってきた。補給地として便利な位置にある島なのだ。
 海賊たちの財宝を目当てに商人が集まり、商業が盛んになるが、荒くればかりで無秩序な状態だった。犯罪、ドラッグ、売春、なんでもありだ。
「私はそのイメージが強かったから、港に着いて驚いたよ」
「十年以上荒れていたからな」
 アレクサンドラの言葉に、医師が頷いた。
「ジャスターク政府はどうしていたんだ?」
 エドワードが尋ねた。
「海賊が内陸に来ないことをいいことに、見て見ぬふりじゃった。他国の軍艦が湾を攻撃しても、咎めもしなかった」
「僕のお父さんやお母さんも、そんな争いの中でいなくなっちゃったんだ。だけど四年前、キャプテンが変えてくれた」
「どうやって?」
 エドワードは医師を促した。
「キャプテンはジャスターク国に私財を投資して、政府と手を組んでインフラと法の整備を行ったんじゃ。治安回復のため警備を強化させ、関所を設けて、ルールを守らない海賊の出入りを禁じた。治安のいい街には質のいい商人がやってくる。街が、そして国が発展する。それを条件に、政府に海賊の受け入れを公に標榜させ、他国の軍隊が攻め入る口実もなくした。……というわけじゃな」
 あまり年寄りを喋らせるなと言って、医師は果実酒を煽った。
「じいじ先生の言ってること、よくわからなかった」
「街が元気になったのは、キャプテンのおかげだと言ったんじゃ」
「それは知ってる! そうだよ、だから僕はキャプテンに憧れて、お願いして海賊団に入れてもらったんだ」
 アレクサンドラは混乱した。治安を守る海賊なんて、あべこべだ。
「私財まで投げ打って、キャプテン・ロバートになんのメリットがあるんだ。そもそも、ロバートは何者なんだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

【完結】World cuisine おいしい世界~ほのぼの系ではありません。恋愛×調合×料理

SAI
ファンタジー
魔法が当たり前に存在する世界で17歳の美少女ライファは最低ランクの魔力しか持っていない。夢で見たレシピを再現するため、魔女の家で暮らしながら料理を作る日々を過ごしていた。  低い魔力でありながら神からの贈り物とされるスキルを持つが故、国を揺るがす大きな渦に巻き込まれてゆく。 恋愛×料理×調合

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃

ぜらちん黒糖
恋愛
​「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」 ​甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。 旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。 「それは本当に私の子供なのか?」

処理中です...