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三章 無血の海賊王
無血の海賊王 3
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エドワードに促され、アレクサンドラたちは昇降口の梯子を使って下の甲板に降りた。
「……ん?」
目が慣れてきたアレクサンドラは、数人の男たちと談笑していたクリスと目が合ったのだが、睨まれていた……ような気がした。
「嫌われるようなことをしたかな」
思い返してみたが、一度もクリスと話したことがなかった。
「どうした?」
「なんでもない。そういえばクリスが櫂を漕いでいるのを見たことがない。たまたまかな」
「だってクリス、漕いでないもん」
何気なく口にした言葉に、ピエールから意外な答えが返された。
「クリスの当番のときは、友達に代わってもらってるんだ。ブッチャーさんはなんて言ってたかな。あっそうそう、取り巻きだ」
ピエールは思い出した拍子に手を打った。
思い返せばクリスは、いつも連れている仲間たちに食事を用意させ、荷物を運ばせて、外では日傘を持たせていた。今もクリスだけクッション性の高そうな布を敷いて座っており、姫と従者、という図式に見えなくもない。
「なるほど」
エドワードは納得顔だ。
「だからクリスは日に焼けていないのか。それが嫌なら、どうして海賊になったんだろうね」
アレクサンドラは小声で言った。クリスから離れているので、こちらの会話は本人に聞こえないだろうが、どうしてもコソコソ話になってしまう。噂話をするのは気が引けるが、好奇心が勝った。
「そりゃ、キャプテンが大好きだからだよ。僕もみんなもキャプテンが好きだけど、なんかクリスってすごいんだよね。どう違うのか上手く言えないけど、とにかくすごいんだよ」
ピエールの言葉に、初めてクリスを見た時の表情や甘い声を思い出した。
「うん、大体わかった」
アレクサンドラは少々頬を染めて、困ったように短いブルネットの髪をかき上げた。
――それから十日後。よく晴れた昼下がりだった。
アレクサンドラが櫂を漕いでいると、マストの上の見張り台から船員が降りてきた。船内がざわめき始める。
「戦闘配置につけ! 砲手急げ。砲弾用意、薬包作って来い!」
ロバートが鋭く指示をする。五十メートル近くあるガレー船の、端から端まで届きそうな迫力のある声だった。普段の陽気な雰囲気は微塵もない。
アレクサンドラは海を見回すが、特に変化はなかった。ターゲットの船はまだ肉眼では見えないようだ。
「旗を掲げろ!」
マストよりも更に高い位置、帆柱の天辺に海賊旗があがった。赤地に白い髑髏、左の眼窩には眼帯をし、髑髏の後ろでカトラスがクロスしている。
「これがロバートの、ジョリー・ロジャー」
見る者を震え上がらせる、赤い死神の海賊旗。
「帆を降ろせ。櫂でいくぞ!」
相手の船が見えてきた。
ガレオン船と、護衛らしき帆船が二隻。
「あれは……!」
アレクサンドラは、思わず立ち上がった。
ガレオン船の掲げる旗は、国獣である獅子と碇を組み合わせた、ドミール帝国海軍の旗だったのだ。アレクサンドラとエドワードの古巣だ。
「エド」
「わかっている。アレックス、座れ」
「だけどっ」
「どうしたアレックス」
頭上の歩道から、ロバートが見下ろしている。逆光のロバートの片目だけが、鋭い光を放って見えた。
「……ん?」
目が慣れてきたアレクサンドラは、数人の男たちと談笑していたクリスと目が合ったのだが、睨まれていた……ような気がした。
「嫌われるようなことをしたかな」
思い返してみたが、一度もクリスと話したことがなかった。
「どうした?」
「なんでもない。そういえばクリスが櫂を漕いでいるのを見たことがない。たまたまかな」
「だってクリス、漕いでないもん」
何気なく口にした言葉に、ピエールから意外な答えが返された。
「クリスの当番のときは、友達に代わってもらってるんだ。ブッチャーさんはなんて言ってたかな。あっそうそう、取り巻きだ」
ピエールは思い出した拍子に手を打った。
思い返せばクリスは、いつも連れている仲間たちに食事を用意させ、荷物を運ばせて、外では日傘を持たせていた。今もクリスだけクッション性の高そうな布を敷いて座っており、姫と従者、という図式に見えなくもない。
「なるほど」
エドワードは納得顔だ。
「だからクリスは日に焼けていないのか。それが嫌なら、どうして海賊になったんだろうね」
アレクサンドラは小声で言った。クリスから離れているので、こちらの会話は本人に聞こえないだろうが、どうしてもコソコソ話になってしまう。噂話をするのは気が引けるが、好奇心が勝った。
「そりゃ、キャプテンが大好きだからだよ。僕もみんなもキャプテンが好きだけど、なんかクリスってすごいんだよね。どう違うのか上手く言えないけど、とにかくすごいんだよ」
ピエールの言葉に、初めてクリスを見た時の表情や甘い声を思い出した。
「うん、大体わかった」
アレクサンドラは少々頬を染めて、困ったように短いブルネットの髪をかき上げた。
――それから十日後。よく晴れた昼下がりだった。
アレクサンドラが櫂を漕いでいると、マストの上の見張り台から船員が降りてきた。船内がざわめき始める。
「戦闘配置につけ! 砲手急げ。砲弾用意、薬包作って来い!」
ロバートが鋭く指示をする。五十メートル近くあるガレー船の、端から端まで届きそうな迫力のある声だった。普段の陽気な雰囲気は微塵もない。
アレクサンドラは海を見回すが、特に変化はなかった。ターゲットの船はまだ肉眼では見えないようだ。
「旗を掲げろ!」
マストよりも更に高い位置、帆柱の天辺に海賊旗があがった。赤地に白い髑髏、左の眼窩には眼帯をし、髑髏の後ろでカトラスがクロスしている。
「これがロバートの、ジョリー・ロジャー」
見る者を震え上がらせる、赤い死神の海賊旗。
「帆を降ろせ。櫂でいくぞ!」
相手の船が見えてきた。
ガレオン船と、護衛らしき帆船が二隻。
「あれは……!」
アレクサンドラは、思わず立ち上がった。
ガレオン船の掲げる旗は、国獣である獅子と碇を組み合わせた、ドミール帝国海軍の旗だったのだ。アレクサンドラとエドワードの古巣だ。
「エド」
「わかっている。アレックス、座れ」
「だけどっ」
「どうしたアレックス」
頭上の歩道から、ロバートが見下ろしている。逆光のロバートの片目だけが、鋭い光を放って見えた。
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