海賊王と麗人海軍~海洋恋愛浪漫譚~

じゅん

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三章 無血の海賊王

無血の海賊王 4

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「どうしたアレックス」
 頭上の歩道から、ロバートが見下ろしている。逆光のロバートの片目だけが、鋭い光を放って見えた。
「い、いえ。初めての海戦なので、興奮して」
 アレクサンドラは腰を下ろした。
「しっかり漕げよ。チームワークが大事なんだ」
 口角をあげるロバートの碧眼は揶揄の光をはらんでいた。
「なぜ、よりにもよって」
「落ち着け。どうにもならない」
 震えるアレクサンドラの膝を、エドワードは励ますように擦った。
 わかっていても、同僚を襲う手助けをしていると思うだけで胸が苦しくなる。このまま、仲間を見殺しにしなければいけないのか。回避する手はないのか。
「装弾」
「えっ」
 船首から聞こえてきたロバートの声に、アレクサンドラは顔を上げた。まだ帝国の船と、二キロは離れている。
「まさか、届くはずがない」
 腹に刺さりそうな砲撃の轟音が響いた。
弾はドミール帝国のガレオン船に向かって飛んでいく。
メインマストの帆柱に命中し、柱は真っ二つに割れて、砕けた破片が飛び散り、マストが甲板に広がった。音は遅れて聞こえてきた。小石よりも小さく見える水夫たちが走りまわっているのが、この距離でもわかる。
「的中させたのか。そんなことって」
 アレクサンドラは瞠目し、時が止まったかのように固まった。
 撃ったのはロバートだ。波に揺れる船体から、有効射程距離よりも遥かに離れた距離だったのにもかかわらず、命中させた。
 呆然としていると、再び轟音が響く。音と共に砲身が下がり、発砲炎と煙があがった。そして、遠くのガレオン船のフォアマストの帆柱が折れて倒れる。
「やった、当たった! ロバート、褒めて褒めて!」
 甲高い声を上げたのはクリスだ。
「よくやった」
「ご褒美は?」
「後でな」
 ロバートは意味深な笑顔をクリスに向けた。クリスは更にやる気をみなぎらせる。
「よし。もっと頑張っていっぱいご褒美もらおうっと」
 はしゃいでいるクリスの姿に、アレクサンドラは開いた口が塞がらなくなった。
「クリスまで……」
 そしてミズンマストの帆柱をロバートが倒したところで、帝国側も砲撃準備ができたようだ。撃ってはくるが、ガレー船に届かない。届いていたとしても方向が定まっていないため当たらなかっただろう。
 それはネイサンが、相手にとって不利な位置にガレー船を配置しているからだ。ガレオン船の広い船腹に、ガレー船の舳先が向いている。つまり帝国側の方が、的が小さいのだ。
 双方の性能と力量の差は明らかだった。
「よし、そろそろ土手っ腹にもいっとけ、船尾楼側のみな」
 穴を空けられたガレオン船は傾き始め、帝国海軍たちは撃ち方をやめて、船から脱出し始めた。二隻の帆船は攻撃してこなかった。ガレオン船の乗組員を救助して引き上げるつもりなのだろう。
「初めから、帆柱を狙ってたんだ。狙って当たるものではないのに」
 当然、通常は舷側を狙って打つ。命中率が高いからだ。
「なぜそんなことを……」
「血を流したくないからだろ」
 大きな影が落ちたかと思うと、地面を這うような低い声がアレクサンドラの問いに答えた。
「ブ、ブッチャーさん!」
 アレクサンドラの四倍はありそうな巨漢のブッチャーが近くに立っていた。スキンヘッドにバンダナを巻き、鍛え抜かれた筋肉を見せつけるように常に上半身は裸だ。
「逃げていくぞ!」
「俺たちの勝ちだ!」
 海賊たちは勝鬨をあげた。
「帆柱を狙って推進力を奪い、ゆっくり沈没させて逃げる時間を与えている。俺たちが欲しいのは、お宝だけだからな。あの船の沈没が安定したら金目のものを取りに行って、港に戻るんだ」
 血を流さない。
人に危害を加えない。
「無血の、海賊王」
 ブッチャーの言葉が正しいのなら、そんな呼び名こそふさわしいと、アレクサンドラは思った。
「こんなの詐欺だ」
 アレクサンドラは顔をゆがめた。
 噂と正反対ではないか。もし毎回のように帝国海軍がこんな敗北をしていたとしたら、名誉を保つためにロバート海賊団を極悪非道とした噂を流しているに違いない。
 アレクサンドドラは混乱し、激しく打つ鼓動を押さえるように胸に手を当てた。
「新入り、緊張したか?」
「ロバート……キャプテン」
 頭上の通路に、ロバートは輝く太陽を背にして立っていた。アレクサンドラは眩しくて目を細める。
 
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