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五章 閉ざされた扉
閉ざされた扉 1
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消灯を過ぎた夜の甲板で、アレクサンドラは一人、夜空を見上げていた。
商船を拿捕し、船ごと荷を手に入れ、今日の祝宴も大いに盛り上がった。今でも飲み足りない数人が甲板で飲んでいる。下層の甲板は夜八時以降、ハンモックを吊るして眠る者がいるため、飲酒は外でのみ許されるのだ。
今日はハードな一日だった。
船底くぐりをアレクサンドラが成功させたので、かなり株が上がった。アレクサンドラが「女を連れ込んだ罪」はこれで正式に許されたことになる。
しかしクリスを筆頭に、性別を偽っていたことに憤っている者もいる。港に着いてから改めて、アレクサンドラをこのまま海賊団の一員として認めるかの多数決を取ると、ロバートが宣言した。
「ごめんエド。女だってばれちゃった」
商船に乗っていて港に戻るまで合流できないエドワードに、アレクサンドラは謝った。男装をする必要がなくなったので、化粧はもうしていない。ただし、女性らしいボディラインが見えることは、男性社会の中では好ましくないことを海軍時代に学んでいるので、胸や腰に晒しは巻き続けているし、パンツの上から腰布も巻いている。
船縁に体重をかけながら潮風になびく髪に頬をさすられ、アレクサンドラは目を閉じる。
こうなったからには諜報活動についても、なんらかのけじめをつけるべきだろう。
自分にはロバートを殺せないし、捕える必要さえ感じない。
では帝国に戻るのか。
「……それは、いやだ」
戻れば別の諜報員、もしくは暗殺者がこの港にやってくるのだろう。ロバートの命が狙われる。
しかしそれ以上に、ロバートと離れたくないという思いが強かった。
今思えば、裏路地で初めて会った時からロバートが気になっていた。惹かれている自分がいたのに、気づいていなかっただけなのだ。いや、気づきたくなかったのかもしれない。
しかしその気持ちを、船底くぐりで決定的に思い知らされた。
「私は愚か者だ」
自分は軍人で相手は海賊だ。交わるはずのない関係だ。
……それに、エドワードのこともある。
「帝国に帰ろう」
帰るべきだ。
これ以上ロバートを好きになる前に。
今ならきっと引き返せる。……はずだ。
「寝るか」
これ以上考えても堂々巡りになるだけだ。アレクサンドラは昇降口の梯子を下りた。
その途中。
「……っ!」
布越しに口を押さえられ、そのまま体が浮き上がった。塊となった布が喉まで差し込まれて苦しくてむせるも、くぐもった音が漏れるだけだった。いくつも伸びてくる手が映るのを最後に視界が奪われた。顔中布を巻きつけられて、塊が吐き出せない。叫びは布が邪魔をして響かない。苦しくて浮いた涙は布に吸い込まれた。空いているのは鼻だけだ。暴れようにも、いつの間にか手足が縛られていた。
一瞬の出来事だった。複数人の手によって、アレクサンドラはあっという間に荷と化した。
どこかに運ばれ、どさりと固い床に落とされた。かなり湿っていて、かびの匂いがする。最下層の船倉だろうと、アレクサンドラは予想する。
「さて、始めるか」
何者かの声がする。聞き慣れない声だ。
パンツのウエストの紐が緩められたのがわかった。チュニックがめくりあげられる。
「んうう」
アレクサンドラはなにをされるのかを察し、再び暴れはじめた。
商船を拿捕し、船ごと荷を手に入れ、今日の祝宴も大いに盛り上がった。今でも飲み足りない数人が甲板で飲んでいる。下層の甲板は夜八時以降、ハンモックを吊るして眠る者がいるため、飲酒は外でのみ許されるのだ。
今日はハードな一日だった。
船底くぐりをアレクサンドラが成功させたので、かなり株が上がった。アレクサンドラが「女を連れ込んだ罪」はこれで正式に許されたことになる。
しかしクリスを筆頭に、性別を偽っていたことに憤っている者もいる。港に着いてから改めて、アレクサンドラをこのまま海賊団の一員として認めるかの多数決を取ると、ロバートが宣言した。
「ごめんエド。女だってばれちゃった」
商船に乗っていて港に戻るまで合流できないエドワードに、アレクサンドラは謝った。男装をする必要がなくなったので、化粧はもうしていない。ただし、女性らしいボディラインが見えることは、男性社会の中では好ましくないことを海軍時代に学んでいるので、胸や腰に晒しは巻き続けているし、パンツの上から腰布も巻いている。
船縁に体重をかけながら潮風になびく髪に頬をさすられ、アレクサンドラは目を閉じる。
こうなったからには諜報活動についても、なんらかのけじめをつけるべきだろう。
自分にはロバートを殺せないし、捕える必要さえ感じない。
では帝国に戻るのか。
「……それは、いやだ」
戻れば別の諜報員、もしくは暗殺者がこの港にやってくるのだろう。ロバートの命が狙われる。
しかしそれ以上に、ロバートと離れたくないという思いが強かった。
今思えば、裏路地で初めて会った時からロバートが気になっていた。惹かれている自分がいたのに、気づいていなかっただけなのだ。いや、気づきたくなかったのかもしれない。
しかしその気持ちを、船底くぐりで決定的に思い知らされた。
「私は愚か者だ」
自分は軍人で相手は海賊だ。交わるはずのない関係だ。
……それに、エドワードのこともある。
「帝国に帰ろう」
帰るべきだ。
これ以上ロバートを好きになる前に。
今ならきっと引き返せる。……はずだ。
「寝るか」
これ以上考えても堂々巡りになるだけだ。アレクサンドラは昇降口の梯子を下りた。
その途中。
「……っ!」
布越しに口を押さえられ、そのまま体が浮き上がった。塊となった布が喉まで差し込まれて苦しくてむせるも、くぐもった音が漏れるだけだった。いくつも伸びてくる手が映るのを最後に視界が奪われた。顔中布を巻きつけられて、塊が吐き出せない。叫びは布が邪魔をして響かない。苦しくて浮いた涙は布に吸い込まれた。空いているのは鼻だけだ。暴れようにも、いつの間にか手足が縛られていた。
一瞬の出来事だった。複数人の手によって、アレクサンドラはあっという間に荷と化した。
どこかに運ばれ、どさりと固い床に落とされた。かなり湿っていて、かびの匂いがする。最下層の船倉だろうと、アレクサンドラは予想する。
「さて、始めるか」
何者かの声がする。聞き慣れない声だ。
パンツのウエストの紐が緩められたのがわかった。チュニックがめくりあげられる。
「んうう」
アレクサンドラはなにをされるのかを察し、再び暴れはじめた。
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