海賊王と麗人海軍~海洋恋愛浪漫譚~

じゅん

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六章 ロバートの過去

ロバートの過去 1

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 商船の船長室に連れて行かれたアレクサンドラは、ロバートが座る執務机の前に立たされていた。傍の椅子には初老の船医が座り、副船長のネイサンは、威圧するように筋肉質な腕を組んで、アレクサンドラの傍に立っている。
 商船はフォーチュン号の船長室よりも豪華な内装で、高価な絵画が飾られ、クローゼットや洗面台まである。壁際には見事な彫刻の入った箱型のベッドが吊るされていた。
「どういうつもりだ」
 ほぼ無表情なネイサンに見上げるほど高い位置から睥睨されると、屈強な軍人に囲まれ慣れているアレクサンドラでも委縮した。
「すみません。商船が動き始めたので、なにかと思って、つい……」
 まるで子供の言い訳だったが、そうとしか言いようがなかった。
「そんなに怖い顔すんなってネイサン。本気で忍び込むつもりなら、もっと上手くやったよな、アレックス」
 両手に頬をのせてロバートは微笑んでいる。
「で、エドと一緒じゃないのか?」
 ロバートの瞳は笑っていなかった。やっぱり怒っていると、アレクサンドラは内心焦る。
「一人だ。頭を冷やしたくて散歩をしていた」
「なぜ?」
 答えにくい質問だった。
「ここで航海士になりたいと言ったら、エドに反対された。実家に戻れと」
「……帰るのか?」
 ロバートは目を細めた。
「いられるものなら私はここにいたい。しかし、よく考えなければいけないとも思っている」
 アレクサンドラは素直な気持ちを話した。
「勝手に乗りこんでしまって申し訳なかった。こんな時間に商船を売りに行くと思わなかった。盗賊に船を奪われたのかと考えてしまった」
 アレクサンドラがそう言うと、ロバートたち三人は顔を見合わせた。
 ロバートは身を乗り出す。
「アレックス、正直に答えろよ。おまえは俺たちのアジトを知りたくて、この船に乗ったんじゃないのか?」
「え? ……あっ」
 アレクサンドラは思わず手で口を押えた。
 アジトのことはすっかり諦めていた。海賊島を拠点にしているのだろうと思っていたのだ。
 もしアジトがわかろうと、今のアレクサンドラは軍に報告するつもりはない。そもそも祖国に帰るかも悩んでいるところなのだ。
「秘密を探る意図はなかった。私は空や潮からある程度方向がわかってしまう。港に戻るまで船倉に籠っていようか」
 これから本拠地に向かうのならば、三人がピリピリとしているはずだとアレクサンドラはうろたえた。
 また三人は顔を見合わせる。
「なあ、アレックス」
 ロバートは立ち上がってアレクサンドラの前まで来た。はっきりとした二重の大きな碧い瞳が真っ直ぐにアレクサンドラを見つめた。
「おまえはオレたちの仲間だよな」
 ロバートは「仲間」を強調した。その言葉には重要な意味が込められている気がした。
 真摯な視線を受けとめて、アレクサンドラは肯いた。
「私はあなたの役に立ちたいと思っている」
「だよな」
 ロバートは満面の笑みを浮かべた。
「ネイサン、先生、アレックスを自由にさせていいよ。いつかあそこに連れていきたいと思っていたんだ」
「私を連れて行きたいって……」
「ですがキャプテン」
 アレクサンドラの質問はネイサンの言葉と重なってかき消された。ネイサンが取り乱すのを初めて見た。
「大丈夫。オレは人を見る目には自信がある。な、先生」
「好きにするといい」
 成り行きを見ていた船医は白い髭をさすりながら、ふぉっふぉと笑った。
「そうと決まれば、お客様じゃねえんだ。しっかり働けよ」
 大きな手が肩にのせられて、アレクサンドラはドキリとした。
「ま、これはキャラック船だからのんびりした航海になる。ネイサンの助手でもやって実践の航海術を学んだらいい」
 キャラック船はガレー船と違い、推進は帆に委ねているので櫂漕ぎをしなくてすむ。
「ありがとうございます、宜しくお願いします」
 アレクサンドラは表情をほころばせ、ロバートたちに感謝した。
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