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龍之介 合宿一日目 午前
龍之介 合宿一日目 午前 その2
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「あと二十分くらいしたら最後のスーパーがあるから、そこでみんなで四日分の買い出しだね」
カーナビゲーションを見ながら桜子が言う。
桜子は後続車に乗っている幼なじみの陽菜乃と一緒に入会してきた。元々マジックには興味がなかったようだ。知識ゼロの状態のためどんなことでも驚き、素直に聞き入れるので教えがいがある。
桜子の身長は百六十センチほどだが、手足が長く細いので、実際より高く見えた。“雪野”という名字のように雪のように白い肌と長い真っ直ぐな黒髪が特徴的な美人だ。しかもクラスに一人はいるというレベルではなく、学校に一人いるかどうかというハイレベルな正統派美人だった。
その見た目から、性格はおとなしそうに見えるが、芯が強いことを龍之介は知っている。
「あと二十分かあ。後ろのみんなと合流したら、メンバーチェンジしようね」
そう言いながら、奈月は自分で放り投げたカードを回収し始めた。
「まだ一枚残ってるぞ」
「どこ?」
「俺の足の左側」
助手席の後ろに座る蒼一が、自分の足元を指さした。
「そんな端っこ、手が届かないよ。蒼一、取って」
「どうして俺がお前の尻拭いをするんだ。自分で拾え」
奈月はせっかく拾い集めたカードを再び放り投げそうになったが、なんとか堪えたのをバックミラー越しに見て、龍之介は苦笑した。
「はいはい、あなたはそういう人ですよね。ちょっと無駄に長い足が邪魔なんでどいてください」
屈んだ奈月は容赦なく蒼一の足を払ってカードを拾った。その様子を蒼一は楽しそうに眺めている。
蒼一はかなり整った顔立ちだ。奇術愛好会が月に一度行う定期公演会で、舞台に立つ蒼一の姿を見て観客の女性が目をハート型にしてうっとりするのは定番の光景だった。
しかし残念ながら、その後に女性が蒼一に声をかけ、蒼一が口を開くと、愕然とするか怒り出すか泣きながら走り去るというところまでがセットなのだった。
蒼一は、長身の部類に入る百七十八センチの龍之介よりも更に背が高い百八十センチ超えだが、この奇術愛好会にはもっと背の高い男がいる。後続車を運転しているクリストファー・マイヤースだ。彼がまた英国王子のような容姿なので女性に人気があった。
ぽっちゃりだと気にしている奈月も顔立ちは可愛らしいし、奇術愛好会の一年の顔面偏差値は相当高いよなあと、運転しながら龍之介は思った。
「ねえ龍之介、いつも静かだけど、今日は全然喋ってないよね。運転してるから緊張してるの?」
奈月に話しかけられて、龍之介はドキリとした。カードの練習を投げ出したくて話題を振ってきただけだとしても、なかなか鋭い。
「みんなの命を預かっているわけだしな」
元々龍之介は寡黙なタイプなのだが、今日静かなのは理由があった。
龍之介はある決心をして、合宿に臨んでいるのだ。
「龍之介も話そうよ。せっかくだから、みんなで楽しい話をしよう」
奈月はカードを鞄にしまった。
「もう練習はしないのか」
「どうせ別荘についてからするでしょ」
蒼一の言葉を奈月は受け流す。カードの練習に飽きたというよりも、蒼一とのやり取りに辟易したのだろう。
「そうだ、合宿といえば恋バナじゃない?」
奈月はシートの隙間に勢いよく身を乗り出した。
バックミラー越しに、青いサマーセーターのVネックから胸の谷間がはっきりと見えた。ふくよかだからなのか、奈月の胸はかなり大きく、激しく動くと揺れるのでつい目がいってしまう。
「暴れるな、車が壊れる」
「うるさいメガネ! そこまで重くないから」
「まあまあ二人とも。奈月、そういうのは、夜になってから男女分かれて話すものじゃないの? お風呂とか、寝る前に布団で顔を合わせてとか」
「別荘は個室だから布団で顔を突き合わせるのは無理でしょ。っていうか、恋バナは夜するものなんて誰が決めたのよ。いつやるか、今でしょ」
どこかで聞いた覚えのあるフレーズを口にしながら、奈月は桜子の鼻先に指を突きつけた。
「だったら、言い出したお前から話せ」
蒼一が奈月を促す。
「確かに、それは正論だ」
龍之介も相槌を打った。みんなが奈月に注目する。
「えっ、あたし? ないない!」
奈月は顔の前で手を振った。車内はしらけた空気になった。
「いないものはしかたがないでしょ。だからみんなの恋バナを聞きたいんだって。桜子は? 彼氏がいるって聞いたことないけど、構内とかでよく声をかけられてるよね」
奈月は慌てて桜子に水を向けた。桜子は整った眉を下げる。
「こういう話、みんな興味あるの?」
「ある!」
全員に意見を促す前に奈月が桜子を押し切った。桜子は苦笑する。
カーナビゲーションを見ながら桜子が言う。
桜子は後続車に乗っている幼なじみの陽菜乃と一緒に入会してきた。元々マジックには興味がなかったようだ。知識ゼロの状態のためどんなことでも驚き、素直に聞き入れるので教えがいがある。
桜子の身長は百六十センチほどだが、手足が長く細いので、実際より高く見えた。“雪野”という名字のように雪のように白い肌と長い真っ直ぐな黒髪が特徴的な美人だ。しかもクラスに一人はいるというレベルではなく、学校に一人いるかどうかというハイレベルな正統派美人だった。
その見た目から、性格はおとなしそうに見えるが、芯が強いことを龍之介は知っている。
「あと二十分かあ。後ろのみんなと合流したら、メンバーチェンジしようね」
そう言いながら、奈月は自分で放り投げたカードを回収し始めた。
「まだ一枚残ってるぞ」
「どこ?」
「俺の足の左側」
助手席の後ろに座る蒼一が、自分の足元を指さした。
「そんな端っこ、手が届かないよ。蒼一、取って」
「どうして俺がお前の尻拭いをするんだ。自分で拾え」
奈月はせっかく拾い集めたカードを再び放り投げそうになったが、なんとか堪えたのをバックミラー越しに見て、龍之介は苦笑した。
「はいはい、あなたはそういう人ですよね。ちょっと無駄に長い足が邪魔なんでどいてください」
屈んだ奈月は容赦なく蒼一の足を払ってカードを拾った。その様子を蒼一は楽しそうに眺めている。
蒼一はかなり整った顔立ちだ。奇術愛好会が月に一度行う定期公演会で、舞台に立つ蒼一の姿を見て観客の女性が目をハート型にしてうっとりするのは定番の光景だった。
しかし残念ながら、その後に女性が蒼一に声をかけ、蒼一が口を開くと、愕然とするか怒り出すか泣きながら走り去るというところまでがセットなのだった。
蒼一は、長身の部類に入る百七十八センチの龍之介よりも更に背が高い百八十センチ超えだが、この奇術愛好会にはもっと背の高い男がいる。後続車を運転しているクリストファー・マイヤースだ。彼がまた英国王子のような容姿なので女性に人気があった。
ぽっちゃりだと気にしている奈月も顔立ちは可愛らしいし、奇術愛好会の一年の顔面偏差値は相当高いよなあと、運転しながら龍之介は思った。
「ねえ龍之介、いつも静かだけど、今日は全然喋ってないよね。運転してるから緊張してるの?」
奈月に話しかけられて、龍之介はドキリとした。カードの練習を投げ出したくて話題を振ってきただけだとしても、なかなか鋭い。
「みんなの命を預かっているわけだしな」
元々龍之介は寡黙なタイプなのだが、今日静かなのは理由があった。
龍之介はある決心をして、合宿に臨んでいるのだ。
「龍之介も話そうよ。せっかくだから、みんなで楽しい話をしよう」
奈月はカードを鞄にしまった。
「もう練習はしないのか」
「どうせ別荘についてからするでしょ」
蒼一の言葉を奈月は受け流す。カードの練習に飽きたというよりも、蒼一とのやり取りに辟易したのだろう。
「そうだ、合宿といえば恋バナじゃない?」
奈月はシートの隙間に勢いよく身を乗り出した。
バックミラー越しに、青いサマーセーターのVネックから胸の谷間がはっきりと見えた。ふくよかだからなのか、奈月の胸はかなり大きく、激しく動くと揺れるのでつい目がいってしまう。
「暴れるな、車が壊れる」
「うるさいメガネ! そこまで重くないから」
「まあまあ二人とも。奈月、そういうのは、夜になってから男女分かれて話すものじゃないの? お風呂とか、寝る前に布団で顔を合わせてとか」
「別荘は個室だから布団で顔を突き合わせるのは無理でしょ。っていうか、恋バナは夜するものなんて誰が決めたのよ。いつやるか、今でしょ」
どこかで聞いた覚えのあるフレーズを口にしながら、奈月は桜子の鼻先に指を突きつけた。
「だったら、言い出したお前から話せ」
蒼一が奈月を促す。
「確かに、それは正論だ」
龍之介も相槌を打った。みんなが奈月に注目する。
「えっ、あたし? ないない!」
奈月は顔の前で手を振った。車内はしらけた空気になった。
「いないものはしかたがないでしょ。だからみんなの恋バナを聞きたいんだって。桜子は? 彼氏がいるって聞いたことないけど、構内とかでよく声をかけられてるよね」
奈月は慌てて桜子に水を向けた。桜子は整った眉を下げる。
「こういう話、みんな興味あるの?」
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