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陽菜乃 合宿二日目 昼
陽菜乃 合宿二日目 昼 その1
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しばらく手分けをしてキャロルを捜索していたメンバーは、いったん食堂に集まってブランチをとった。
蒼一が毒がどうのと騒ぐので、食事係はなくなり、これからは自己責任で食事をすることになった。三泊四日分の食糧を購入したとはいえ、いつまでもこの別荘にいるわけにはいかない。食料が尽きて、いずれ飢え死にしてしまう。
「なあ、さっきバラバラで動いてた時なんやけど」
肉にかじりつきながら和樹は一つのテーブルを囲むメンバーを見回した。
「時間確認しよ思てスマホを見たら、電波入っとった」
「本当に!? じゃあ、警察に電話したの?」
奈月が立ち上がらんばかりに身を乗り出した。
「いや、えらい驚いて画面眺めとるうちに、また圏外になってしもた」
「和樹、使えない!」
「しゃあないやん! 一瞬やったんや」
「電波が入ることがあるんだね。諦めてスマホの電源落としてたよ。これから電源入れて持ち歩こうっと。どこで電波入ったの?」
「外、川の近くや。せやけどそう言われると、自信なくなってきよった。勘違いやったかな」
「ちょっと和樹、期待させないでよね」
奈月は眉を吊り上げた。
食事をしながら、これからなにをするべきかとみんなで考える。陽菜乃たちができることはそう多くはない。
結局、脱出方法を模索するグループと、キャロルについて考えるグループに分かれることになった。
食事を片づけ終った食堂で、ソファーのある一角に、陽菜乃、クリス、龍之介が移動した。その他のメンバーは外だ。庭で狼煙をあげるつもりらしい。
食堂の窓を開けて網戸にしてあるので、
「こんな外に出るて思ってなかったわ。虫よけ足らんやん」
「あたし、蚊に刺されると水ぶくれになっちゃうのよ。虫よけがなくなったら外に出ないからね」
「お前が多少水で膨れたって、そう変わらないだろう」
「むくみみたいに言わないでよ。痛かったり痒かったり、最悪は肌に跡になるからいやだって言ってるんじゃないの」
「いいから、黙って枯れ枝を拾え」
「っとに、この男は!」
という、にぎやかな声が聞こえてくる。
「外は楽しそうですね」
「そうか?」
クリスの言葉に、龍之介が首をかしげた。
「私たちはキャロルが消えたことについて考えましょう」
陽菜乃が本題を話し始めた。
「可能性は二つしかないでしょ。誰かがキャロルを運んだか、自分で歩いて隠れたか」
「確かにそうだな」
龍之介がうなずいた。
「自分で歩いたということは、キャロルが生きていたということですね。それはあり得ません。わたしが脈をみたんですよ」
クリスは医学部だ。そうでなくても、陽菜乃だって脈があるかどうかくらいわかる。
「あのとき、キャロルはうつぶせで倒れていた。クリスはキャロルの右腕を取った」
「そうです。まだ温かかった」
「その肘は軽く曲がっていた。……脇は締まっていた?」
陽菜乃が尋ねた。
「脇ですか? ……龍之介、覚えていますか?」
「九十度近くまであいていた。ボールを使ったんじゃないかと思ったのか?」
陽菜乃はうなずいた。
ミステリーでもよく使われており、また子供向けのマジック本に載っていることがある、おなじみのトリックだ。
服の中で見えないようにテニスボールのような球を脇に軽く挟んでおいて、友達に脈があることを確認してもらう。それから脇をしっかり締めると、脈がなくなるので相手に驚かれる、というものだ。
「なるほど、圧迫止血法を応用したトリックなんですね。脇の下の動脈を圧迫すると、脈が止まります」
クリスはうなずいた。
「彼女の服の生地はとても薄かった。ボールを挟んでいても、腕をきつく縛っていたとしても気づいたでしょう」
「死んだふりはありえない?」
「ありえません」
クリスが断言した。
蒼一が毒がどうのと騒ぐので、食事係はなくなり、これからは自己責任で食事をすることになった。三泊四日分の食糧を購入したとはいえ、いつまでもこの別荘にいるわけにはいかない。食料が尽きて、いずれ飢え死にしてしまう。
「なあ、さっきバラバラで動いてた時なんやけど」
肉にかじりつきながら和樹は一つのテーブルを囲むメンバーを見回した。
「時間確認しよ思てスマホを見たら、電波入っとった」
「本当に!? じゃあ、警察に電話したの?」
奈月が立ち上がらんばかりに身を乗り出した。
「いや、えらい驚いて画面眺めとるうちに、また圏外になってしもた」
「和樹、使えない!」
「しゃあないやん! 一瞬やったんや」
「電波が入ることがあるんだね。諦めてスマホの電源落としてたよ。これから電源入れて持ち歩こうっと。どこで電波入ったの?」
「外、川の近くや。せやけどそう言われると、自信なくなってきよった。勘違いやったかな」
「ちょっと和樹、期待させないでよね」
奈月は眉を吊り上げた。
食事をしながら、これからなにをするべきかとみんなで考える。陽菜乃たちができることはそう多くはない。
結局、脱出方法を模索するグループと、キャロルについて考えるグループに分かれることになった。
食事を片づけ終った食堂で、ソファーのある一角に、陽菜乃、クリス、龍之介が移動した。その他のメンバーは外だ。庭で狼煙をあげるつもりらしい。
食堂の窓を開けて網戸にしてあるので、
「こんな外に出るて思ってなかったわ。虫よけ足らんやん」
「あたし、蚊に刺されると水ぶくれになっちゃうのよ。虫よけがなくなったら外に出ないからね」
「お前が多少水で膨れたって、そう変わらないだろう」
「むくみみたいに言わないでよ。痛かったり痒かったり、最悪は肌に跡になるからいやだって言ってるんじゃないの」
「いいから、黙って枯れ枝を拾え」
「っとに、この男は!」
という、にぎやかな声が聞こえてくる。
「外は楽しそうですね」
「そうか?」
クリスの言葉に、龍之介が首をかしげた。
「私たちはキャロルが消えたことについて考えましょう」
陽菜乃が本題を話し始めた。
「可能性は二つしかないでしょ。誰かがキャロルを運んだか、自分で歩いて隠れたか」
「確かにそうだな」
龍之介がうなずいた。
「自分で歩いたということは、キャロルが生きていたということですね。それはあり得ません。わたしが脈をみたんですよ」
クリスは医学部だ。そうでなくても、陽菜乃だって脈があるかどうかくらいわかる。
「あのとき、キャロルはうつぶせで倒れていた。クリスはキャロルの右腕を取った」
「そうです。まだ温かかった」
「その肘は軽く曲がっていた。……脇は締まっていた?」
陽菜乃が尋ねた。
「脇ですか? ……龍之介、覚えていますか?」
「九十度近くまであいていた。ボールを使ったんじゃないかと思ったのか?」
陽菜乃はうなずいた。
ミステリーでもよく使われており、また子供向けのマジック本に載っていることがある、おなじみのトリックだ。
服の中で見えないようにテニスボールのような球を脇に軽く挟んでおいて、友達に脈があることを確認してもらう。それから脇をしっかり締めると、脈がなくなるので相手に驚かれる、というものだ。
「なるほど、圧迫止血法を応用したトリックなんですね。脇の下の動脈を圧迫すると、脈が止まります」
クリスはうなずいた。
「彼女の服の生地はとても薄かった。ボールを挟んでいても、腕をきつく縛っていたとしても気づいたでしょう」
「死んだふりはありえない?」
「ありえません」
クリスが断言した。
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