Oil & Water~サークル合宿の悲劇~

じゅん

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想い

想い その2

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 桜子は初めて陽菜乃以外の人を好きになった。
 それでもなぜか、龍之介への“好き”は、陽菜乃より上に行ってくれない。自分の心のかたくなさに白旗をあげるしかない。どうやっても病気は治らないらしい。
 同じ価値観を持つ龍之介とどんどんと仲良くなっていった。
 そして合宿の夜、龍之介に告白された。桜子は心から嬉しかった。価値観を共有できる龍之介のことが好きだった。こんなに好きになれる人はもう現れないとも思った。
龍之介は陽菜乃の思い人だと知っているけれど、長い目で見れば陽菜乃のためにもなる。執着していた陽菜乃を解放してあげられるのだから。

 その日の深夜、陽菜乃が部屋に来た。誰にも邪魔されない場所に行こうと言われて、隠し部屋に案内された。
 龍之介のことを聞かれるのは想定内だった。
 しかし、包丁を向けられるとは思っていなかった。
 陽菜乃を傷つけている自覚はあった。
 疎まれていることにも気づいていた。
 しかし、殺したいと思うほど憎まれているなんて。
 刃物を突き付けているのは、陽菜乃の一時的な感情だとわかっていた。それをやり過ごせば、またいつもの関係に戻れるだろうことも予想できた。
 けれど。
 陽菜乃の話を聞いていると、一縷の望みがあることに気づいた。
 龍之介を奪ったことについて怒っているだけではない。
 桜子が初めて、陽菜乃以外の人物に惚れたことにも憤っているのだ。
 その、ほんのわずかな陽菜乃の心の揺れを、桜子は感じ取った。
 陽菜乃は白馬の王子様に恋い焦がれるタイプだ。そこに桜子が一位に躍り出るチャンスはない。
そう諦めていたのに。
 今、この瞬間は、桜子が陽菜乃の一番なのだ。
 おそらく龍之介よりわずかに突出している。
 こんな瞬間は、二度とない。
 そして。
 この時を止める方法は、ひとつしかないのだ。
 桜子は包丁を持つ陽菜乃の手を掴んだ。
 迷いはなかった。

 ――これで、永遠に陽菜乃は私のもの。

 陽菜乃の、限界まで見開いた恐怖の表情が映った。
 対照的に、桜子には自然と笑みが浮かんでいた。

 これで陽菜乃は、絶対に私を忘れられない。

 桜子は、薄れていく意識で考える。
 龍之介への謝罪だ。

 龍之介くん。
 私、陽菜乃の一番になる方法を見つけちゃった。
 抜け駆けしちゃってごめんね。
 わかっていたけど、やっぱり私は嫌な女だね。
 誰も幸せにならない、こんな方法を選ぶんだから。
 龍之介くんが大好きだった。
 指輪も本当に嬉しかった。
 龍之介くんとの将来も考えたんだよ。
 結婚して子供ができたら、龍之介くんはいいパパになるんだろうなとか。私と龍之介くんの子供なら、ぜったい可愛いだろうなとか。
 だけど、私はたくさんの人を傷つけてしまったから、幸せになっちゃいけない気もしていたの。
 陽菜乃は本当に可哀想だけど、私に惚れられちゃったんだから仕方ないよね。
 私は陽菜乃病だから。
 こじらせちゃったのは、陽菜乃の責任もちょっとはあると思う。
 心配なのは、龍之介くんのことだよ。
 歴代の彼女が二人とも死んじゃうなんて、トラウマにならないかな。
 龍之介くんが次に好きになる女性が素敵な人で、そして龍之介くんが幸せになりますように……
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