Oil ＆ Water～サークル合宿の悲劇～

【番外編】

伏線・作品解説

『Ｏｉｌ ＆ Ｗａｔｅｒ～サークル合宿の悲劇～』読んでくださり、ありがとうございました。
　著者が作品解説をするのは野暮だと承知しておりますが、作品の構成上「名探偵、みなを集めてさてと言い」ができないので、読んでくださったすべてのかたにスッキリしていただきたく、書き添えることにいたしました。

●物語の構造

　解決編（章では「告白　一」以降）でお気づきになるかと思いますが、章ごとに時系列が交互になって進んでいます。つまり、

・「龍之介」視点……大学一年生
・「陽菜乃」視点……大学三年生

　です。
　タイトルの『Oil ＆ Water』は、本編で解説しているように、「赤と黒」のカードを「油と水」に例え、赤と黒が混ざった状態から分離させるマジックです。
　では分離させて、正しい時系列にしていきます。

・奇術愛好会の「一年生メンバー八人」で、夏合宿に行く。
・一日目の夜、龍之介が桜子にプロポーズする。
・それに気づいた陽菜乃が桜子を呼び出す。
・隠し部屋で桜子死亡。
・翌日、メンバー全員で桜子を探す。
・数日後。桜子は家出扱いで、警察に事件性なしと判断される。
・不審に思った龍之介が一人、桜子を探し続ける。
・桜子が行方不明になってから二年後、龍之介が犯人をあぶり出すため、夏合宿を企画。
　奇術愛好会の「三年生メンバー七人」で、前回と同じ屋敷に行く。
・一日目の夜、キャロル死亡（狂言）。
・翌日、メンバー全員でキャロルを探す。
・二日目の夜、クリス死亡（狂言）。
・三日目の夜、桜子の白骨遺体が見つかる。

　一日目の夜の「悲鳴」は、龍之介視点では陽菜乃、陽菜乃視点ではキャロルの悲鳴になります。

●伏線

　この物語で一番のカタルシスは、「時系列が交互になっている」構造を見抜いた瞬間だと考えています（そのつもりで書きました）。
　本編で蒼一が言っていますが、犯人当ては難しいからです。いわゆる「フーダニット」ではなく「ホワイダニット」のミステリーでした。
　そのため、時系列がおかしいと気づいていただける伏線をいくつも設定しました。

・キャロルのマッスルパス
「陽菜乃　合宿一日目　午前」の冒頭で、キャロルと和樹がマッスルパスでコインを飛ばし合っているシーン。
　二人は「ストライク」し合っており、「必ずミスをする状態から、相当時間をかけてマスターした」、陽菜乃が解説。
　ところが、その日の夜と思われる龍之介視点の「マジックのお披露目会」では、キャロルはコインを床に落とし、龍之介は「キャロルはマッスルパスに一度も成功していない」と（地の文で）述べています。
　この矛盾に引っかかったかたは、当たりです。

・和樹の電子煙草マジック
　陽菜乃視点で、和樹は車内で電子煙草マジックを披露します。この際、クリスは「車内で煙草は迷惑になります」「吸いすぎないでください」と注意しています。
　しかし、規律に厳しいクリスなら、電子煙草だとしても「未成年は禁止」だと強く止めたはずです。

・スマートフォンの電波
　龍之介視点では、スマートフォンの電波が届かず、「来年には基地局ができて電波が入るようになる」という情報があります。
　陽菜乃視点で、和樹のスマートフォンに電波が入ったという発言に、「もしや基地局が……」と気づいた方は、さすがです。

　そのほか、「桜子が出てこなくなった」「八人全員が揃わなくなった」などから、時系列に疑問を抱き、真相にたどり着いていただけていれば、と願います。

　　　＊　＊　＊

　以上で解説を終わります。
　疑問点、ご意見、ご感想などいただけますと幸いです。
　最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。