異世界行ったらステータス最弱の上にジョブが謎過ぎたからスローライフ隠居してたはずなのに、気づいたらヤバいことになってた

カホ

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第2章 チート街道驀進(不本意)

気にしたら負けだ(1)

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カオス過ぎる勇者パーティを家に迎えた翌日、私とノルは森に出て来ていた。

『礼をしたいから一緒に街に行かないか?』

明日は雪が降るんじゃね?と思うほど珍しいまともな表情(おそらく初めて)を浮かべ、ストーカー勇者ことクリストファーが言ったその一言がきっかけだった。

もともと街には大変興味があった私なので、この提案は非常に嬉しかった。だいぶ前に諦めてたギルド登録もできる!もうノリノリです。

これでストーカーじゃなかったらな、とか思ってないよ?家金持ちだからご馳走食べれるかも、とか思ってないからね?

ないったらない。

そうと決まったらあとは早かった。勇者パーティの面々はもともと大した持ち物もないし、私も必要品は異次元収納の中だし、家を畳めば家に入ってるものも一緒に格納してくれるので、準備する必要が全くない。ノルに至っては所持品ないし。

ちなみに影の薄いエンジェルポーチは肩からかけた。使うかどうかは不明だが、手ぶらなのもなんか変なので。異次元収納があるのに、こいつを使う時って来るのだろうか?

久々に出る森は相変わらずだった。まあ、一日二日で森が変わったらそりゃホラー以外のなんでもないけど、とにかく同じだ。木々が気持ち悪いくらい密集してるのも、どよどよした空気も。

「こんな不気味な森、よく抜けてこられたね」
「……その不気味な森に住んでいたセンさんが言うと説得力皆無ですよ…」

素直に感心したが、フローラルにスパッとツッコまれてしまった。……反論できねえ。こんなとこに住んでたやつが何言ってんの、て感じだよね。

ところで、勇者パーティの男どもがものすごく静かなんだが。武器を持ち、あたりを警戒している。正直に言いましょう。めっちゃ凛々しくて絵になってます。これだけ見たら、一体どんなステキなヒトでしょう~、ってなるだろうね。

いや、きっと気にしたら負けなんだね。

「これからどこに行くの?」
「神都できちんとお礼をしたいのだけど、今はこっちもいろいろありまして、とりあえず魔境の街リーシェに行きます」
「何その物騒な名前」
「魔の樹海から一番近い街ですので」
「ああ、納得」

行き先を聞いてみると、フローラルが丁寧に答えてくれた。私、別にお礼言われるほどのことしてないけどね。追いかけられてぶっ飛ばしてただけだし。

聞いた話と本の知識によると、この神国ユグドラシルには、神族という、全種族の中で最も魔法ステータスが高い種族が住んでいる。しかし他のステータスは人族よりちょっと高いくらい。

美味しいカモなので数十年前までさらわれる国民はわんさか、拉致が国際問題となって今では絶賛鎖国中なんだそうだ。

人間が欲望まみれなのはどこに行っても一緒なんだね。いや、私も人間だけどさ。

そんな時、前方に気配を感じた。暗い森の向こうをよーく凝視すると、みんなおなじみサーベルタイガーですよありがとうございます!

異世界転移して来た時からずっと思ってたけどさ、魔の樹海の森エリアって、虎率高くないか?何、この辺で一番メジャーなの?

「センさんは下がっていてください」

いやいや重い腰をあげようとしたところ、クリストファーが私を守るかのように背後にかばった。

あっれー?おかしなー。ストーカー勇者の背中が非常に頼もしく見えるんだけど、私疲れて幻覚でも見てるのかなー?こいつちょっとキャラ違くね?

「えっと……大丈夫だよ?死にやしないよ?」
「センさんのようなか弱い女性を戦わせることなどで来ません。僕は勇者ですから、あなたのことも守ります」

……ちょっとこいつどうした!?なんかすごいまともな発言してるんだけど!常時ストーキングしていた変態と同一人物!?良いことのはずなのにすんごい不気味。

ゾゾゾッと私が肌寒い思いをしている横で、普段は美少年追いかけ回してるローランドも、妹追いかけ回しているメロもキリッとした表情と眼差しでサーベルタイガーを注視する。

え、こいつら本当どうした?絶対どっかで人間入れ替わってるよね?

「ねえ、あの人たちどうしたの?すごいまともなんだけど」
「……」
「気にしちゃダメ」

メルちゃんにズバッと切り込まれました。あ、そうですか。わかりました。

そうこうしているうちに、勇者パーティ5人がサーベルタイガーに戦いを挑みに行った。やっぱりあの虎ってパーティ組んで倒す代物なのかな?……あれ?つまり奴を一人で討伐する私とノルはーーー。

……うーん、深く考えないようにしよう。

勇者たちVSサーベルタイガーの戦いが始まったので、いつでも参戦できるよう準備したんだが……。

「私らやることないね」
「ないなー」

エレガントな形のティーカップを持って紅茶を優雅(?)に飲みながら、私とノルは戦う勇者たちを後ろから見守っている。

え?ティーセットどこから出したって?異次元収納からに決まってるでしょ。魔の樹海で何やってんのお前ら、とかツッコまれても知らなーい。だって暇だから。

え?なんでわざわざティーカップでお茶だって?そりゃしょうがないからに決まってるでしょ。この世界、プラスチックがないからペットボトルないし、私は水筒持ってないからこれしか飲み物ないんだもん。じゃなかったら誰が好き好んでこんなKYなもの使うかっつーの。

ピンチになったら助けてあげよう、とか思ってたけど、5人+1匹の乱戦の中に突入して味方に被害が及ぶのも怖いし、何より6人目が入れる隙もない。あんたたちフォーメーション完璧すぎるでしょ。

そして勇者たちの戦いを見て思ったんだけど……勇者普通に強えじゃん。あ、今聖剣的なものでサーベルタイガーの牙を片方切り落とした……ってすげえな。あの直径50cmくらいはありそうな牙を一撃で落とすか。

サーベルタイガーの爪攻撃を見事なステップでよけ、その腕に華麗な剣技を叩き込んで爪を両断するクリストファー。その隙間を縫って、精密な弓射撃で虎の目を潰すローランド。メルの風魔法で転倒した虎を氷漬けにするメロ。

誰か助けて。勇者ご一行の男どもが普通に見えすぎて…というかイケメンにすら見えて来て……困るし怖い。いやいや騙されてはいけないよ私!あいつらの本性を思・い・出・せ!

しかしそう念じたところでかっこいいものはかっこいい。あいつら、顔とスタイルだけなら完璧だもん。やっぱりストーカー×3でも勇者名乗るのは伊達じゃないってことなのか?

勇者ご一行は一人一人のステータス値はサーベルタイガーと拮抗する程度(程度っていうのはおかしいけど)なんだけど、連携プレイってやっぱ偉大だね。

地球でオンラインゲーとかやってた時も、6人くらいのパーティ組めば、自分より強い魔物でも意外にサクッと倒せちゃうんだよね。

とか私が考えてる間に、サーベルタイガーは勇者様ご一行によって三途の川を渡っていた。ワー、素晴らしきかな連携プレー。

「おかえり、お疲ーーー」
「ああ、オーレリアよ!僕の戦いは見てくれた?僕の姿に惚れてくれたかい?」
「あっら~、もう!ノルちゃんってば逃げないでよ~」
「メル!これでお前も兄の素晴らしさがわかっただろう!さあ、早く俺のモノになるんだ!」
「寝言は寝てから言いたまえ、この阿呆トリオ」

かっこよく戦ってたらお疲れ様ぐらい言おうと思ったんだけど、前言撤回。こいつらやっぱりダメだ。マジないわー。

ストーカー勇者が早足で突っ込んで来たから、鼻にストレートを決めて吹っ飛ばしておいてやった。吹っ飛んでいく勇者は無視。あいつ、体力はゾンビ並みだから大丈夫だよ。

ちなみに樹海進行が再開すると、阿呆トリオはさっきのまともモード(イケメンモードともいう)に戻った。

なんだこれ。調子狂うどころじゃないぞ。なんかの歯車が狂ってますって言われても驚かない自信があるよ。
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