異世界行ったらステータス最弱の上にジョブが謎過ぎたからスローライフ隠居してたはずなのに、気づいたらヤバいことになってた

カホ

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第2章 チート街道驀進(不本意)

十人十色と書いてカオスと読む(2)

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翌日。

「ノルもお疲れ様。はい、これお昼ご飯と夕飯の分のパン」
「すまない、ありがとう」

勇者メンバーがまだ起きていないほど早朝に、私はいそいそと起き出してきたノルに朝ごはんを作り、他の2食の用意をしてあげていた。

なんでも、昨日の追いかけっこは夜遅くまで続いたらしく、二度とそんな目はごめんだと言って、ローランドが起きる前に用事を全部済ませ、部屋に引きこもろうとしているのだ。

ノルも必死なのである。

「まだ誰もいないな?」
「いないね」
「じゃあ俺は帰る。夜食の時にまた頼む」
「オッケー」

パンの袋を担ぎ、そろりそろりと部屋に戻って行くノルが、ちょっと泥棒みたいな後ろ姿だな……とか思いながら見送り、あくびを一つして私も部屋に戻る。今はまだ5時ですよ?さすがまだ眠いわ。

部屋に戻り、ストーカーが入ってこないようにしっかり鍵をかけ、扉の前には椅子を3脚積んでおく。

さぁて、もう一眠りしますか。ZZZzzzzz……。


◇ ◇ ◇

かなり長い間眠りこけていた気がする。扉を叩く音に私は目を覚ます。

「ねぇ~、センちゃーん。起きてるかしらぁ~?」

この声は…ローランドさん。

「なんれすかぁ?」
「いやぁね、ノルちゃんの部屋に入れないのよん。どうしたらいいかしらぁ?」
「……私にもよくわかりませーん!」
「あらそう……なら仕方ないわね。出てくるまで待ちましょっと」

あ、そこは行儀良く、扉を壊すなんて荒技には出ないんだね。もちろん出てたら私が『何人様の家勝手に壊してんだ!』っていってぶっ飛ばしてただろうけど。

ローランドの足音が聞こえなくなってから、私は顔をまくらに押し付けた。言いたくても言えなかったことを言うためです。

「知ってるよ~、私知ってるから~。ノルが引きこもったのは~、あんたが追い回すからでしょうが~」

枕のせいでくぐもった声になったが、とりあえず本音を吐き出すことは出来た!ふぅ、すっきり。よし起きるか。

椅子を撤去し、扉を開けてそっと外を覗く。右、左、もう一回右。よしよし、ストーカー警告オールグリーン。

私が一階に降りてくると、ちょうど食堂から出て来たフローラルとメルに遭遇した。

「あ、センさん!おはようございます!」
「ねね、おはようなの…」
「二人ともおはよう!」

にこやか爽やかなスマイルで返事したが、そこでふと違和感を感じる。

「あれ……?いつもよりダントツで静か?」

みなさん、お気づきですか?いつもストーカーしてくる勇者もいなければ、美少年を追いかけ回していたエルフも、妹大好きなヤンデレドSちびも、魔物すらいなさそいほど静かな空間になっているのだ。

………どうした?

「ねえ、フローラル。あのヒトたちは?」
「………」
「兄ちゃとクリスとランドなら外……」

フローラルに聞いたんだが、フローラルがげんなりとして返事してくれなかったので、メルが代わりに答えてくれた。ランドというのがローランドの通称である。

「外?」
「うん…。追いかけっこ」
「……はい?」

え?追いかけっこ?私の脳内は疑問符でポコポコと出て来た。追いかけっこって…誰と誰が?まさか全員?

「見る?」
「……よろしければ」

11歳のメルちゃん相手に何敬語使ってんだよ、とかツッコむんじゃない。今、私の中では『追いかけっこって何?気になる!フハハハ!見てしまえ!』の私と『ダメだよ!気になるのはわかるけど、それは絶対見てはいけないものだよ!』の私とで、悪魔と天使が戦っているのです!ちょっと口調が変化したって気にしないで!

え?どっちが勝ったって?……私が今外の様子を見ようとしているところから…お察しください。

「ほら」

ちっちゃな手を一生懸命伸ばして、メルちゃんが玄関のドアを開けてくれた。

そしてその先に広がっていた光景を見て、私は『見なきゃよかった……』と切実に後悔するのだった。

「クリスちゃ~ん!待ちなさいったらぁ!」
「ランド!その顔で追いかけてくるな!気持ち悪いぞ!」
「まっ!クリスちゃんひっど~い!あたしはこんなに」
「だいたいノルさんを追いかけてただろうが!なんでターゲットが俺に戻ってるんだよ!」
「だってぇ~、ノルちゃんは部屋から出てこないんだもん!あたしも乙女だから、ドアを壊すなんてはしたないことはしないわ~」
「あーー!メル!俺の可愛い妹!今日もかわいいな。ますますコレクションに加えたい!お前はずっと兄ちゃんのものだ!」

庭は、カオスなことになっていた。ストーカー勇者は美少年趣味のエルフに追いかけ回されているし、メロに至っては使用していない畑から体だけ出している。

「ちょっとメルちゃん?いろいろ聞きたいんだけど……メロのあれ、まずくない?」
「大丈夫」
「いや、大丈夫じゃないでしょ。だってあれ、どう見ても生き埋ーーー」
「メル!早く俺をここから出してくれ!そしてずっと一緒にいよう!」
「…………めちゃくちゃ元気だ」

目の前にいるメロの状態がいけないものだとはわかってるんだが、メルちゃんの言葉とメロのこの元気具合を見たら『大丈夫なのかな?』と納得しかけてしまう。

おかしいな……。ここで納得できるような状態じゃないはずなのに。
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