幕末☆妖狐戦争 ~九尾の能力がはた迷惑な件について~

カホ

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元治元年

幕間:トリオ(弐)

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 現在、私の前で永倉さんが酔い覚め薬を飲んでいる。

 この薬は別に即効性じゃないはずだけど、永倉さんの顔色はすでにそこそこ良くなっている。一体、体内でどんな反応式が展開されたんだ?

『永倉が、お主に礼を言っておる。おかげで気分が良くなった、とな』
(そりゃーよかった。明日はこないでくださいね)
『この薬のおかげで今まで以上に酒を飲めるようになって嬉しいぜ、とも言っておるぞ』
(できれば薬があっても大酒かっ喰らうのはやめてもらいたいものですね)

 がははと笑っていそうな顔をしている永倉さんを見ながら、ほむろとそんなことを言い合う。




 そこへ新たな来客がやってきた。

 ふすまが開いて、平助君が顔をのぞかせた。

『どうやら永倉を探していたようだ』
(探す必要ないよ。今目の前にいるからね)
『そういえば藤堂は二日酔いではないのだな』
(なんだかんだ言って、平助君と原田さんは一緒につるんでいても引き際を心得てるからね。そんなに薬をもらいにはこないよ。それに引き換え永倉さんは………)
『雫、何度も言うようじゃが、諦めろ』
(ええ、諦めますとも)

 私の目の前では、永倉さんを探しに来ていた平助君が早速永倉さんを見つけ、なんか会話でもしたのか、大爆笑していた。

 そしてそれが気に食わないのか、永倉さんが小さく眉を釣り上げて平助君に掴みかかろうとしている。しかし最年少幹部である平助君は小柄だけど素早いようで、なかなか捕まえられずに部屋のあちこちを跳ね回っている。

 耳は聞こえないから音はないが、やかましそうな雰囲気はひしひしと伝わってくる。

 耳が聞こえない私でもうるさいと感じるってことは、実際には相当うるさいのだろうね。

『永倉に藤堂に原田が揃えばやかましいことこの上ないと思っていたが、藤堂と永倉が揃ってもダメなのだな』
(ほむろ、今度は私の方から言うよ。諦めたまえ)

 この人たち、ここが他人の部屋だってこと忘れてるでしょ、絶対。小学校低学年の男子か、あんたらは。いい年の大人が何やってんだ。

 半ば呆れつつその光景を見ていると、平助君が永倉さんの腕をひらりとかわして、そのまま部屋からスタコラサッサと逃げ出そうとする。

 そしてちょうど入ってきた原田さんと正面衝突した。

『今、"ゴン!"といったぞ』
(そりゃあ痛そうな効果音だな)

 あれはちょっと痛そうだ。だって原田さんの方はちょっとよろめいただけだったが、平助君の方は派手にひっくりかえったもん。そして隙あり!みたいな感じで永倉さんに捕まり、こちょこちょされている。

(平助君も災難だねぇ)
『そんな他人事のように………』
(いや、実際他人事だけどね)

 じゃれあっている平助君と永倉さんはおいといて、そういえば原田さんは何をしにきたんだろう。二日酔いにも見えないし、手にはなんか小さい包みをぶら下げてるし。

 とかそんなことを思っていると、原田さんがにかっと笑い、手に持っていた包みを差し出してきた。

『原田は、お主に団子を買ってきてくれたようじゃ』
(あら、マジ?この時代、甘いものって安くないはずだけど)

 わざわざ買ってくれたのだろうか?

 しゃべれないからお礼をいうことはできないが、私は深々と頭を下げて団子の包みを受け取った。なにはともあれ、ありがとうございます、だ。

 味覚がないから団子の味がわからないのは悲しいけど、せめて気持ちは受け取っておこう。
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