幕末☆妖狐戦争 ~九尾の能力がはた迷惑な件について~

カホ

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元治元年

池田屋事件(壱)

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 元治元年6月。私が新選組屯所に居候するようになって、早3ヶ月が経とうとしている。

 その間、私の日常にはなんの変化もない。早朝に目を覚まし、部屋の掃除や家事をして、そのあとは黙々と薬の調合。

 いっそ退屈になるぐらいパターン化された日常である。

 ちなみに今は午後です。

(そろそろこの日常を壊すような大きな事件があってもいいんじゃないの?)
『妾としてはこのまま平穏に過ぎせれば良いのじゃが。まだ入山の者たちに見つかった気配もないし』
(ああ………そういえば私たちって追われてたね)

 この3ヶ月、あまりにも音沙汰がないから忘れかけてたよ。あの人たちは、今どこで何をしているのかな?

(もう諦めてくれてたらいいのに)
『どうじゃろう。無駄に執念深い連中だからな』
(ほんと、めんどくさいんだから)

 九尾を祀る里である入山に里の人々は、九尾の力を操って、日本を制圧しようとしている。

 彼らは九尾の力を手に入れようと毎月祠に生贄を捧げ、力を得た私を傀儡にしようと狙ってきている。

 彼らに隠れ場所を嗅ぎつけられたから、私とほむろは大坂の康順先生の家を出たのだが、京にやってきてからは怖いくらいなんの動きもない。

 諦めたのならありがたいが、もし何かよからぬことを企んでいたら?実はとっくに居場所がバレていて、新選組もろとも消そうとしてたら?

 ダメだ。思考がだんだんマイナスの方に傾いてきてる。

(きっとバレてない。プラスの方に考えよう)

 でも見つかったときのために、いつでもここを出られるように準備しておいた方がいいかもしれないかな。無関係の人間を堂々と巻き込もうとするほど、図太い神経はないので。

(……?)

 ふと、部屋の外が慌ただしいことに気づいた。

(ねえ、ほむろ)
『わかっておる。なんだか騒がしいな。何かあったのだろうか?』

 今までにも、屯所内がバタバタすることはあったが、ここまで慌ただしくなっているのは初めてだ。

(様子を見に行くくらいいいよね?)
『変に目立たないようにだけ注意するのじゃぞ。無理だとは思うが』

 ああ………そういえばこの世界では私、すっごい美人なんだっけ。

(目立たないように頑張るよ。無理な気がするけど)

 部屋を出た私は、とりあえず大広間に行ってみることにした。

 大広間には土方さん、永倉さん、山南さん、それから平助君がいた。何か話しているようだが、当然聴力がない私には聞こえない。

 ちょうどその時、今私がいる反対側のふすまから、原田さんが何かを持って現れた。原田さんは土方さんと少しだけ話し、一緒に大広間を出て行った。

 原田さんが持っていたあれは、ろうそくと………釘?

(隙間風でも吹いてるの?)
『雫、世の中には知らぬ方が良いこともあるのだ』

 ほむろが何か至極まともな発言をしている。

 ようするに、私にこれ以上聞いて欲しくないのだろう。だから私も何も聞かなかった。




 その後夕暮れになっても、屯所内の慌ただしさは収まらなかった。

 ふと何か不穏な気配を感じた私は、その辺を駆けずり回っていた永倉さんを捕まえて、今日が6月何日なのか聞いた。

 私の予感は当たった。




 この日の日付は、元治元年6月5日。




 池田屋事件、当日だった。
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