幕末☆妖狐戦争 ~九尾の能力がはた迷惑な件について~

カホ

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元治2年/慶応元年

あんた、誰?(参)

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(嘘………なんで、生きてるの……?)

 声の主を見るまでもなく、私には彼の正体がわかった。

 この狐だって、私は一瞬だけだったが見たことがあった。

 この狐は、あの晩池田屋から逃げ出した青年浪士を追いかけた時に、裏路地で見た。一瞬だけだったが、この妙に不気味な水色の瞳は見間違うはずない。

 そして、この声の主だって………。




「ようやく見つけた……。やっぱりお前だったのか」




 庭の暗がりから、彼が音もなく姿を表した。紺に近い黒の瞳が、怪しい光をはらみながらこちらに向けられていて、見ていると一人でに足がすくんでくる。

 なぜ、私は彼を見てこれほどまでに怯えているのだろうか?私が一度、彼の手によって殺されたから?それとも何か別の………?

『あやつら………やはりそうであったか』

 ほむろがポツリとつぶやく。ほむろは、彼らを知っているの………?

 池田屋にいた時も、ほむろは彼を見て何か思案していた。ほむろは、私の知らない何かを知っているような気がした。

『だから言っただろう?俺の目に狂いはないって』
「ああ、そうだな。やっぱりお前はすげえよ」

 狐がしゃべった。青年と仲良さそうに会話している。そういえばあの時も、狐は青年にねぎらいの言葉をかけていた。

 妖狐と思われる狐と話しながらも、青年の瞳は私を捉えて離さない。

 この目には、覚えがある。あいつらの目と、一緒だ。私を手に入れようと襲撃してきた、入山の追っ手たちと、同じ目だ。

「俺が生きていることがそんなに意外か?」
「………っ」
「別に怯える必要はないぜ。とって食ったりしないからな。俺たちはただ、お前の力を借りたいだけだ」

 入山の追っ手と、同じことを言っている。

「こっちへ来い。こんなところさっさと出て、俺たちと来た方がお前も幸せだぜ?」

 青年が一歩こちらに踏み込み、私は無意識に一歩後ずさった。

「お前の協力がなければ、俺は俺の望みを叶えられない。さあ………」

 青年がさらに手を延ばしてくる。私はさらに後ずさる。この手に捕まってはいけない。そう直感した。

 妖術を使いたいのはやまやまだが、ここは屯所の中だ。どこに人の目があるかわからない。

「俺に協力してくれれば、お前の望みも叶うんだぞ?何を迷う必要がある」

 私の、望み………?それはいったい………。

「元の世界に、帰りたくはないのか?」




 ドクン。




 今、なんて?




(それ、どういう………)
「言葉通りの意味だよ」
(あなた……!私の声が………)
「ああ、聞こえてるよ。さあ、どうする?言っておくけど、無理やり連れてくことも、やろうと思えばできるんだからな?」

 どーしよう………。

 今すぐ逃げたいけど、私は走るのが遅いんだよね。絶対に逃げきれない。どうしたら…………。

「お前、こんなところで何してるのさ」

 ふと、廊下の先から別の声が聞こえてきた。

 その声の低さに、私は青年と対峙したときとは別の恐怖を感じた。
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