幕末☆妖狐戦争 ~九尾の能力がはた迷惑な件について~

カホ

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元治2年/慶応元年

瓦解の始まり、かな?(弐)

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(ほむろ、やばいよ)
『どうした?襲撃か?』
(山南さんが近いうちに脱走する)
『は?』
(止めなきゃ、行き着く場所は切腹だ)

   山南さんにはなんだかんだ世話になってるし、こんなこと言っちゃあなんだが、この程度のことで死んでほしくない。

(でも、私にできることってあるのかな?)
『さあ………妾にはわからぬな』

   うーん、脱走を食い止めてもどうしようもない気がするんだよね。

   食い止めたところで、今の新選組にはきっと山南さんの居場所なんてないんだろう。そんな場所に山南さんを引き止めるのは酷な気がする。

(どうしたもんかね………)




   屯所移転の相談を立ち聞いた日から数日。

   その日の夜、私は妙な胸騒ぎがしてなかなか寝付けなかった。

(ほむろ、まだ起きてる?)
『起きておる。そもそも妾は不眠なのだから起きているに決まっておるであろう』
(それもそっか)

   何度目になる寝返りをうち、私はちょっと思い立って順風耳を使ってみた。

   九尾にもらった力って、妖術以外は影が薄いけど、こんなのもあるからね。1km先の音を聞ける能力。

   思えばこの力使ったのってこれがはじめてじゃん

(……?)

   ふと順風耳を発動していた私の耳に、ちょっと気になる音が聞こえた。

   なんだか、風を切るような音だった。

   こんな時間に、誰か素振りでもしてるのだろうか?

   気になったしどうせ寝れないし、私は着替えて部屋を出た。そのまま音をたどって屯所の中を進んでいく。

   順風耳を使わずとも音が聞こえるようになったのは、屯所の裏庭に近づいた時だった。

(やっぱり真剣の素振りをしてる音だ)
『やはり誰か素振りをしているのだろうか?』

   物陰に身を置き、私は廊下の曲がり角からそっと裏庭を覗いてみた。

   素振りをしていたのは山南さんだった。

   こちらの背を向けて一心に素振りを繰り返す背中は、まるで心の躊躇を一つ残らず切り捨てようとしている風に見えた。

   これ、もしかして………。

   私は廊下の角から出て、裏庭に降りた。素振りを繰り返す山南さんはまだ私に気づいていない。

   気づかれていないことをいいことに、私はそのまま山南さんに近づいていく。

   ちょうど山南さんの3歩ぐらい後ろまで来たところで、山南さんは素振りをやめ、私を見つけて目を見開いた。

「まさか……君に見つかるとは思いませんでしたよ、御影君」

   そう言って笑った山南さんは、どこか晴れ晴れとした顔をしていた。
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