幕末☆妖狐戦争 ~九尾の能力がはた迷惑な件について~

カホ

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元治2年/慶応元年

瓦解の始まり、かな?(肆)

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翌日。

私は山南さんを連れて京の街に出ていた。目的地は、屯所からすぐのところにある茶屋だ。

午前の早い時間に約束したから、茶屋の中にはそこまで客がいない。

茶屋に入ると、私は待ち人の姿を茶屋の一番奥に見つけた。

(おはようございます、白川さん)

私が心の中で声をかけると、黙々と茶を飲んでいた白川さんが顔をあげ、こっちに手を振った。

(いきなりお呼びしてすみません)
「いいえ、お気になさらず。九尾様は、今日は一緒ではないのですか?」
(ほむろなら屋根の上で七尾の話し相手をしています)
「なるほど」

前置きはさておき本題に入ろうとして山南さんを振り返ると、ポカーンとなっていた。

「九尾………?」

ああ………そうだった。山南さんには私の心の声は聞こえないんだった。

私は山南さんの袖を引っ張って席につき、まずは白川さんに事情を説明するところから始めることにした。

(その前に白川さん、山南さんにしばらく待って欲しいと伝えてもらえます?私じゃあ伝えられないので)
「ええ、いいですよ」

このままなんの説明もなしに話が始まってたら、山南さんはびっくり仰天だと思うからね。




(というわけなんです)
「なるほど。事情はよくわかりました」

細かいことは言及しないことを条件に、私は山南さんのことを要点だけつまんで話した。

「つまり、新選組に捕まらないようにするために我が里に亡命したいということですね」
(亡命っていうとなんか壮大だけど………まあ、そんなもんだと思います)
「可能ですよ。その代わり里に踏み入ったら、もう人の世の歴史には関わることはできませんよ?」
(その辺は山南さん本人に聞いてください。私が一概にどうこう言えることではありませんので)

私がそう言うと、白川さんは真剣な眼差しを山南さんに向けた。山南さんも、その視線を真っ向から受け止める。

「少し、彼と話をしてみます。時間をくれますか?」
(わかりました。では私は茶屋の外にいますので、話が終わったら呼んでください)
「ええ、わかりました」

山南さんたちに会釈し、私は茶屋の外に出る。出されたお茶やお菓子も一緒に持って行った。

外の席に座ってお茶をすすりながら、私はまだ静かな京の街を見渡す。

『なんだ?もう光夜との話し合いが終わったのか?』

そこへ天井から七尾の顔が生えてきた。

(こんな早くに終わるわけないじゃない。しばらくあの二人で話すんですって)
『なるほどな。確かに本人の意思を確かめないことにははじまらないもんな』

屋根の上から器用に飛び降り、七尾は私の前に着地する。

その背中には、なぜかほむろの姿が。

(…………………ほむろ、なにやってるの?)
『見ての通りじゃ。背中で惰眠を貪っておる』
(自分で言っちゃてるし………)
『なかなかに乗り心地が良いのでのう』
『今の九尾様は大きさ的にもちょうどいいんでね。全然苦じゃないぜ。にゃはは!』

………これは突っ込むべきなのかな?




外でお茶を飲んだり、お菓子を食べたりしながらどれほどの時間を過ごしただろう。茶屋の入り口から白川さんが顔をのぞかせ、笑顔で私を手招きした。

食器などを店主さんにお返しして、私は茶屋の中に戻る。

そこでは夕べよりさらにすっきりした顔をした山南さんがいた。昨日の夜のような、どこか諦めに似た雰囲気はなくなっていた。

(話し合いは、どうでした?)
「無事終わりましたよ。山南さんは、僕たちの里にくることを選びました」

この返答に、心の何処かで安堵した。これで山南さんは死なずにすんだはず。

(よかった………)
「彼、あなたに感謝していましたよ。私はまだ、生きていけると」
(私は、何も……。ただ可能性を示しただけです)
「その可能性に、彼は救われたのですよ」

白川さんはクツクツと笑い、山南さんを振り返った。

「では、今日の夕暮れに迎えに行きますね」
「ええ。それまでに準備を済ませておきます」




この日の夕暮れ、山南さんはわずかな手荷物を持って、迎えに来た白川さんと一緒に新選組屯所をあとにした。

彼が自室に残して行った書置きを、土方さんたちが発見したのは、夜になってからだった。

書置きには、自分がここを出ること、自分は死んだことにしてほしいこと、ともにあれてよかったということだけが書いてあったらしい。

山南さんの離隊は、幹部たちに大きな衝撃を与えた。それでも土方さんは山南さんの心を汲み、彼の死亡を隊に公表することを決めた。

こうして元治2年2月23日、新選組総長、山南 敬助は、公式に死亡したと伝えられた。
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