学生だけど、魔術学院の音楽教授で最終兵器な先生を好きになってしまいました。

茜部るた

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第3楽章 チェロから始まる小夜曲

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「コールディア、珍しいですわね」

「何が?」

 初合わせ当日の6時限目、とてつもなく退屈な必修科目の王国史を聞き流していると、隣りに座ったフレウティーヌがノートを指差して来た。
 目を落とすと、いつの間にか自分が無意識に書いたみみずのようにのたうった線がびっしりと並んでいる。

「うわ…実は今日初合わせなんだけどさ、練習時間足りなくて。取り敢えず音符を追いかけましたって感じの演奏にしかならないんだよね」

「1週間ですわよね?仕方ないですわ。今日は素直に叱責される日と割り切った方が気も楽ですわ」

「怒られるのはいいんだけどさ、失望されたらやだなって」

「ああ、それはわかりますわ…私も連続で間違えてがっかりした顔をされた時はかなり落ち込みますもの」

 フルート奏者のフレウティーヌの個人指導は音楽史の教授がしている。ただでさえ下がり眉が特徴の老教授は、きっとがっかりしたらさらに眉毛が下がるだろう。
 あれ以上どう下がるのかと想像すると少し面白かったが。

「がっかりしすぎで眉毛滑り落ちそうだよね」

「ぷっ…もう、そんな冗談が言えるようなら大丈夫ですわ」

 チャイムが鳴ると、いよいよ放課後。合同練習の時間は30分後なので、それまで個人練習するつもりだ。

「頑張って下さいね」

「うん、フレウティーヌもね」

 コールディアが演奏するグラスハープは、簡単なものなら家庭にあるグラスに水を入れただけで楽器に変身する。
 指先を湿らせ、グラスの淵をなぞるように滑らせると、摩擦で共鳴し音が出るのだ。

 魔奏用のグラスハープは学院にある魔奏器の中でも群を抜いて高価だ。
 グラスが魔律に耐えられるように水晶で作られ、さらに強化加工されている。
 中に入れるのは水ではなく増殖炉にも使われるマギアフルイドという特殊な液体だ。
 魔力を感知すると淡く光るので、魔奏用のグラスハープは見た目にも美しい。水と違い、環境の影響を受けないのでより正確な調律と演奏が可能になる。
 指先は湿らせる代わりに、魔力を流すことで共鳴させることができる。

 彼女がこの魔奏器に出会ったのは子供の頃で、1度だけ何かの用事で王都に連れて来てもらったときに、グラスが数個の小型のグラスハープで演奏している美しい女性がいた。  
流行のオペラ曲を少し簡単にアレンジしたもののようだったが、それでも観客は魂を抜かれたみたいに演奏に聞き入り、自分も含め皆魅了されたのだ。
 グラスが青く光っていた記憶なので、間違いなく魔奏用だろう。

 家に6つしかない不揃いなグラスで真似をすると、あの透明よりも澄んだ音とまではいかないが、綺麗な高音が出たので大喜びをしていた。
 以来音楽に魅せられ、いつか王立魔術学院の魔楽部に入りたいと思った彼女はとにかく田舎の初等部の勉強を頑張った。

 たまたま町長がいい人で、彼女の学力を伸ばすために自分の子供と一緒に家庭教師を付け勉強をさせた。町長の家には立派なピアノがあり、それも自由に使わせてくれた。
 そのおかげで、彼女は中等部から編入できたのだ。
 
 簡単に移動させられない魔奏グラスハープは、今は慎重に運ばれコンサートホール隣の控室に置かれている。
 音楽棟から移動するのは少し遠いが、貴重な30分をできるだけ多く使いたい彼女は速足では足りず走った。
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