14 / 113
4
第3楽章 チェロから始まる小夜曲
しおりを挟む
「コールディア、珍しいですわね」
「何が?」
初合わせ当日の6時限目、とてつもなく退屈な必修科目の王国史を聞き流していると、隣りに座ったフレウティーヌがノートを指差して来た。
目を落とすと、いつの間にか自分が無意識に書いたみみずのようにのたうった線がびっしりと並んでいる。
「うわ…実は今日初合わせなんだけどさ、練習時間足りなくて。取り敢えず音符を追いかけましたって感じの演奏にしかならないんだよね」
「1週間ですわよね?仕方ないですわ。今日は素直に叱責される日と割り切った方が気も楽ですわ」
「怒られるのはいいんだけどさ、失望されたらやだなって」
「ああ、それはわかりますわ…私も連続で間違えてがっかりした顔をされた時はかなり落ち込みますもの」
フルート奏者のフレウティーヌの個人指導は音楽史の教授がしている。ただでさえ下がり眉が特徴の老教授は、きっとがっかりしたらさらに眉毛が下がるだろう。
あれ以上どう下がるのかと想像すると少し面白かったが。
「がっかりしすぎで眉毛滑り落ちそうだよね」
「ぷっ…もう、そんな冗談が言えるようなら大丈夫ですわ」
チャイムが鳴ると、いよいよ放課後。合同練習の時間は30分後なので、それまで個人練習するつもりだ。
「頑張って下さいね」
「うん、フレウティーヌもね」
コールディアが演奏するグラスハープは、簡単なものなら家庭にあるグラスに水を入れただけで楽器に変身する。
指先を湿らせ、グラスの淵をなぞるように滑らせると、摩擦で共鳴し音が出るのだ。
魔奏用のグラスハープは学院にある魔奏器の中でも群を抜いて高価だ。
グラスが魔律に耐えられるように水晶で作られ、さらに強化加工されている。
中に入れるのは水ではなく増殖炉にも使われるマギアフルイドという特殊な液体だ。
魔力を感知すると淡く光るので、魔奏用のグラスハープは見た目にも美しい。水と違い、環境の影響を受けないのでより正確な調律と演奏が可能になる。
指先は湿らせる代わりに、魔力を流すことで共鳴させることができる。
彼女がこの魔奏器に出会ったのは子供の頃で、1度だけ何かの用事で王都に連れて来てもらったときに、グラスが数個の小型のグラスハープで演奏している美しい女性がいた。
流行のオペラ曲を少し簡単にアレンジしたもののようだったが、それでも観客は魂を抜かれたみたいに演奏に聞き入り、自分も含め皆魅了されたのだ。
グラスが青く光っていた記憶なので、間違いなく魔奏用だろう。
家に6つしかない不揃いなグラスで真似をすると、あの透明よりも澄んだ音とまではいかないが、綺麗な高音が出たので大喜びをしていた。
以来音楽に魅せられ、いつか王立魔術学院の魔楽部に入りたいと思った彼女はとにかく田舎の初等部の勉強を頑張った。
たまたま町長がいい人で、彼女の学力を伸ばすために自分の子供と一緒に家庭教師を付け勉強をさせた。町長の家には立派なピアノがあり、それも自由に使わせてくれた。
そのおかげで、彼女は中等部から編入できたのだ。
簡単に移動させられない魔奏グラスハープは、今は慎重に運ばれコンサートホール隣の控室に置かれている。
音楽棟から移動するのは少し遠いが、貴重な30分をできるだけ多く使いたい彼女は速足では足りず走った。
「何が?」
初合わせ当日の6時限目、とてつもなく退屈な必修科目の王国史を聞き流していると、隣りに座ったフレウティーヌがノートを指差して来た。
目を落とすと、いつの間にか自分が無意識に書いたみみずのようにのたうった線がびっしりと並んでいる。
「うわ…実は今日初合わせなんだけどさ、練習時間足りなくて。取り敢えず音符を追いかけましたって感じの演奏にしかならないんだよね」
「1週間ですわよね?仕方ないですわ。今日は素直に叱責される日と割り切った方が気も楽ですわ」
「怒られるのはいいんだけどさ、失望されたらやだなって」
「ああ、それはわかりますわ…私も連続で間違えてがっかりした顔をされた時はかなり落ち込みますもの」
フルート奏者のフレウティーヌの個人指導は音楽史の教授がしている。ただでさえ下がり眉が特徴の老教授は、きっとがっかりしたらさらに眉毛が下がるだろう。
あれ以上どう下がるのかと想像すると少し面白かったが。
「がっかりしすぎで眉毛滑り落ちそうだよね」
「ぷっ…もう、そんな冗談が言えるようなら大丈夫ですわ」
チャイムが鳴ると、いよいよ放課後。合同練習の時間は30分後なので、それまで個人練習するつもりだ。
「頑張って下さいね」
「うん、フレウティーヌもね」
コールディアが演奏するグラスハープは、簡単なものなら家庭にあるグラスに水を入れただけで楽器に変身する。
指先を湿らせ、グラスの淵をなぞるように滑らせると、摩擦で共鳴し音が出るのだ。
魔奏用のグラスハープは学院にある魔奏器の中でも群を抜いて高価だ。
グラスが魔律に耐えられるように水晶で作られ、さらに強化加工されている。
中に入れるのは水ではなく増殖炉にも使われるマギアフルイドという特殊な液体だ。
魔力を感知すると淡く光るので、魔奏用のグラスハープは見た目にも美しい。水と違い、環境の影響を受けないのでより正確な調律と演奏が可能になる。
指先は湿らせる代わりに、魔力を流すことで共鳴させることができる。
彼女がこの魔奏器に出会ったのは子供の頃で、1度だけ何かの用事で王都に連れて来てもらったときに、グラスが数個の小型のグラスハープで演奏している美しい女性がいた。
流行のオペラ曲を少し簡単にアレンジしたもののようだったが、それでも観客は魂を抜かれたみたいに演奏に聞き入り、自分も含め皆魅了されたのだ。
グラスが青く光っていた記憶なので、間違いなく魔奏用だろう。
家に6つしかない不揃いなグラスで真似をすると、あの透明よりも澄んだ音とまではいかないが、綺麗な高音が出たので大喜びをしていた。
以来音楽に魅せられ、いつか王立魔術学院の魔楽部に入りたいと思った彼女はとにかく田舎の初等部の勉強を頑張った。
たまたま町長がいい人で、彼女の学力を伸ばすために自分の子供と一緒に家庭教師を付け勉強をさせた。町長の家には立派なピアノがあり、それも自由に使わせてくれた。
そのおかげで、彼女は中等部から編入できたのだ。
簡単に移動させられない魔奏グラスハープは、今は慎重に運ばれコンサートホール隣の控室に置かれている。
音楽棟から移動するのは少し遠いが、貴重な30分をできるだけ多く使いたい彼女は速足では足りず走った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる