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第9楽章 揺らぐ 3
しおりを挟む「うわ、先生ちゃんと手入れしたらツヤツヤじゃないですか。全女子を敵に回しますよ」
「勝手にしておいて敵意を向けないでよ」
「うん、綺麗!」
「気が済んだ?」
「満足です! じゃあ気も済んだし、私そろそろ寝ますね。先生ももう寝てください。今日は寝不足解消の日です」
「勝手に決めないでくれないか」
「だってこんな機会なかなかないじゃないですか。なんかいい入眠方法があるかもしれないですよ? もう寝ましょう、一緒に寝ちゃいましょう」
「……」
物凄いことを口走ったと気づいた彼女は、慌てて付け足した。
「いや一緒にってそういうことじゃなくて“一緒のタイミングで寝てしまいましょう”ってことで“一緒のベッドに入りましょう”ってことじゃなくてですね!」
「…僕が勘違いするタイプだったらどうするの?」
「勘違いしないタイプですよね?」
「100回に1回くらい勘違いするかもしれないよ?」
「ちなみに今は何回目ですか」
「1回目」
「…よかった」
「ほら、もう寝な。僕のベ…」
「待った! 私は絶対ソファです。先生の睡眠向上委員会としてそこは絶対に譲れません。推し問答もなしです!」
「君、時々強情だよね。わかった、じゃあ押し問答はしない」
いつも雑音が気になりなかなか眠りに着けないノートヴォルトは、なんやかんや起きてピアノを弾いていることが多い。
他の家からは離れているし、防音処理も彼の手によってなされている。
何時にどれだけ弾こうとも近所迷惑になるようなことはなかった。
そうして限界がやって来ると、可能ならベッドまで移動し、無理ならそのままソファで眠りこけるのだ。
いつもよりずっと早い時間にベッドに入ることになった彼は、コールディアによって以前より遥かに清潔で整然とした寝具に身を沈めながら、わざとらしく溜息をついた。
「なんで君がここにいる?」
「だって雑音が気になって眠れないなら、何か対処法試してみないと」
「100回に1回の確立が20回に1回に変わる可能性は考えないの?」
「この短い移動でどうしてそんな変動するんです?」
「…君もう少し危機感を持ちなよ。僕は君の指導者の立場だけど、男なんだよ? 髪に触れたり、平気で寝室に来たり・・・油断もほどほどにして欲しいよね」
まさかそんなことを言われるとは思わず、彼女は男が横たわる寝台に腰をかけたままぽかんと口を開けた。
ノートヴォルトは背中を向けて横になったままで、彼女のその顔を見ていない。
彼との付き合いは長いが、そんなことを注意されるとは思ってもみなかった。
異性の家に泊まり、風呂にも入ってしまい、服まで借りている。
それが男にとってどんな意味を持つかなんて、彼女は考えもしなかった。
しかし相手は先生であるノートヴォルト。
いくらコールディアが彼をやたら意識するようになってきたとは言え、その逆はないと思っている。
彼女は“20回に1回”なんて永遠に来ないと思っているかもしれない。
「あ、わかった。先生私のことからかったでしょ?」
「はぁ。もういいから僕のことはほっといて。ちゃんと寝るから」
「雑音、しないんですか? まだ雨も強いし」
「するよ。でも今日はそんなに気にならない」
「え? それって凄くないですか? いつもと何が違うんだろう。雨音が意外と心地良いとか?」
結局寝台に腰をかけたままのコールディアは、外の音を聞きながらあれこれ残念な思考を巡らせている。
座ることで少し露出が増えた剥き出しの足だって気にならないのだろうか。
いつもと違う出来事なんて1つしかないと言うのに。
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