学生だけど、魔術学院の音楽教授で最終兵器な先生を好きになってしまいました。

茜部るた

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第11楽章 手 2

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 進まない課題は諦めると、少しピアノ練習をしてから昼食にした。
 ピアノは途中でダメ出しをされたが、こっちの厳しさはむしろありがたいものだった。

 レシピ本で見つけた簡単だけどおいしそうだった卵料理を作れば、ノートヴォルトは「好きかも」と言っていた。
 自然と頬が緩んでしまう。彼の好みをまた1つ見つけてしまった。

 ノートヴォルトの家から学院はそう遠くない。
 一緒になって学院に向かうと、家を出てすぐに咎められた。

「また忘れてる」

「なにを? あ、警戒…」

ノートヴォルトが“悪意の警告マリス・ワーナー”を唱えると、コールディアの周りに警戒の陣が広がるのが分かった。目には見えないが、術者とかけられた者には感覚でわかる。

「先生が一緒にいるから安心してました」

「そういう油断が一番危ないんだよ」

 コールディアが「すみません」と軽く肩を落とすと、並んで歩き始める。
 昼の太陽は少し暑い。
 あまり素肌を晒すのはよくないと言われるけど、それでもコールディアは首のボタンを外し、袖を少し折って風通しを良くした。
 親にはだらしないと言われそうだけど、夏の学生にはよくある光景。

 隣のノートヴォルトは長袖だった。首もきっちり詰まっている。
 本人は暑そうな顔はしていないけど、きっと暑くてもこのボタンも袖もラフに崩されることはないのだろう。
 全貌はわからないが、彼の体には禁呪である所有者の刻印が刻まれている。しかも2つ。
 きっと欠片も見られたくないはずだ。

 裏通りはお店もないので、人の家の庭をちらちら観察して歩く。
 夏は色が強い花が多くどの家も庭先は賑やかだ。
 きょろきょろ眺めているうちに大通りにぶつかり、急に人通りが多くなった。

 角を曲がり人だかりの出来るお店がなんの店なのか気になった時、初めて警戒魔法が警告を告げた。
 今日魔法をかけたのはノートヴォルトなので、彼にもそれは伝わる。
 コールディアが一瞬真っ赤になった視界と頭に響くヴィィィィという音に驚き立ちすむ一方で、ノートヴォルトは咄嗟に彼女を引き寄せ周囲に目を走らせた。

「先生、警告が…」

「比較的近いな…君を目撃しての敵意かもしれない……いや、消えた」

 人の多い雑踏は見回しても攻撃をしてきそうな人物は見つけられなかった。

「君が1人じゃないのを見て手出しするのをやめたのかもしれないな。とりあえず学院まで急ごう」

 そう言うと当たり前のようにコールディアの手を掴んで歩き始めた。
 警戒魔法が反応した時よりもずっと驚いてしまい、自分の鼓動が速足のために速まっているのか、別の原因なのかわからない。

(どうしよどうしよどうしよ、警戒どこじゃない…)

 繋がれた手をどのくらいの力加減で握ればいいのかがわからない。
 軽かったら嫌がってると思われるだろうか。
 強かったら逆に引かれる?
 
(なに、何が正解なの!?)

「ねえ」

 1人で慌てていたら、突然足を止めたノートヴォルトの咎めるような声が聞こえた。
 手元から顔を上げると、少し上にある顔が困ったような顔をしていた。

「…やりにくい。危機感。君狙われたかもしれないんだよ?」

「…ぁい」

 彼は大きく溜息はついたものの、それでも手は繋いだまま学院まで歩いた。

 しかし門が見えてくると離されてしまい、少し汗ばんでしまった手が急に風を感じて寂しく思えた。
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