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第15楽章 音楽教授の異母兄弟 2
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「突然すまない。君がコールディアか」
「はい…」
「フリーシャから聞いている…グラスハープの奏者だね?」
「そうです」
「今も演奏を?」
「グラスハープは壊れてしまい、あれ以来弾けていません」
「今日はどうして火力を落とした?」
「…その方がいい気がしたからです」
フリーシャが来た時、グラスハープのマギアアフルイドの色がどうとか言っていた。
それにノートヴォルトもレポートの回答であまり詳しく書くと魔術師学科に連れて行かれると言っていた。
なんとなくだが、高火力がもし出せてしまったとしたら、それはまずいことのように感じたのだ。
彼女が意図的に落としたことに、レングラントは気づいているようだった。
「アフィナシオからは何か聞いている?」
「掻い摘んで少しだけ…ご兄弟でらっしゃることとか…先生が、特別な訓練を受けたこととか」
“兵器”と言ってしまうことが怖くて、少し湾曲した表現で答えた。
それを聞いたレングラントは、何か納得したのか軽く頷いた。
「君は状況をそこそこ理解しているようだね。それでいい。火力を抑えたのは正解だ。ここに居続けたいのならね。君はグラスのマギアフルイドの反応が不安定だった。そういう場合、この先大幅に魔力が増す可能性が高い」
「もし高くなったらどうなるんですか? 魔術師学科で優秀だった学生はどうなるんですか?」
レングラントは即答しない。
何を言って良くて、何を言わないべきか考えているようだった。
「魔術師学科の多くの学生は宮廷魔術師を目指す。私の部下にも出身者は大勢いる。だが飛び抜けて能力が高い場合、男の場合はより戦闘向けの訓練をされる。私もそうだ」
「じゃあ先生も?」
レングラントは首を振る。
「彼は違う。正妻以外から生まれたショスタークの血を引く子供は…魔力が高ければ男児は兵器として育てられ、女児は燃料として育てられる」
「燃料?」
「結界を維持するための魔力増殖装置。あれは日常的には我々の中でも結界術師が維持している。だが時として異常に減ってしまう時がある…そんな時に犠牲になるのが燃料だ。“もう1人の妹”の話は?」
コールディアが「亡くなったと聞きました」と答えると、彼は頷きながら沈痛な面持ちになった。
「燃料になるには自ら進んで魔力を捧げることが望ましい…それが最大限の魔力を引き出せるから。だがそれは死を意味する。尽きるまで吸い出され、そのあとは廃人になり、やがて衰弱死だ」
「それじゃ妹が亡くなったというのは…」
「自ら魔力を空になるまで捧げた後、廃人となった。“殺して”と叫ぶ声が今でも聞こえる時がある…アフィナシオは彼女が望む通りに殺し、自分も死のうとした……それを止め、父の元から逃がしたのは私とフリーシャだ」
聞いていた話よりずっと壮絶な内容に、言葉ではなく涙が溢れた。
死んだ妹とノートヴォルト、そしてレングラントとフリーシャの4人の兄弟の間には計り知れない絆があったのではないか。
どの道あと数日で絶える命とは言え、壊れた妹に自ら手をかけたノートヴォルトはどんな気持ちだったのだろう。
それこそ、彼も心が壊れてしまうのではないだろうか。
だから後を追おうとしたのではないだろうか。
「だが当時まだ子供の我々がそううまく逃がすことはできなかった。18になった時ようやくそのチャンスが訪れた。その時手を差し伸べ…そう言うと聞こえはいいが、保護してくれたのがマエスティン侯爵だ。彼は結界派への対抗手段を手に入れた。そして取り戻そうとした父との間でなんかしらのやり取りがあり、結果アフィナシオは両家の所有物になってしまった」
コールディアはポケットからハンカチを取り出し、止まらぬ涙を押さえた。
ノートヴォルトがくれた可愛くて繊細なハンカチは、あっという間に濡れていった。
「アフィナシオは君が魔力を伸ばすことは望まないだろう。緊急事態の燃料候補にさせるわけにはいかない。そうならないように私もフリーシャも全力を尽くしているが、現状事態はあまり良くない。妹の…アフェットの捧げた命が尽きようとしている」
「はい…」
「フリーシャから聞いている…グラスハープの奏者だね?」
「そうです」
「今も演奏を?」
「グラスハープは壊れてしまい、あれ以来弾けていません」
「今日はどうして火力を落とした?」
「…その方がいい気がしたからです」
フリーシャが来た時、グラスハープのマギアアフルイドの色がどうとか言っていた。
それにノートヴォルトもレポートの回答であまり詳しく書くと魔術師学科に連れて行かれると言っていた。
なんとなくだが、高火力がもし出せてしまったとしたら、それはまずいことのように感じたのだ。
彼女が意図的に落としたことに、レングラントは気づいているようだった。
「アフィナシオからは何か聞いている?」
「掻い摘んで少しだけ…ご兄弟でらっしゃることとか…先生が、特別な訓練を受けたこととか」
“兵器”と言ってしまうことが怖くて、少し湾曲した表現で答えた。
それを聞いたレングラントは、何か納得したのか軽く頷いた。
「君は状況をそこそこ理解しているようだね。それでいい。火力を抑えたのは正解だ。ここに居続けたいのならね。君はグラスのマギアフルイドの反応が不安定だった。そういう場合、この先大幅に魔力が増す可能性が高い」
「もし高くなったらどうなるんですか? 魔術師学科で優秀だった学生はどうなるんですか?」
レングラントは即答しない。
何を言って良くて、何を言わないべきか考えているようだった。
「魔術師学科の多くの学生は宮廷魔術師を目指す。私の部下にも出身者は大勢いる。だが飛び抜けて能力が高い場合、男の場合はより戦闘向けの訓練をされる。私もそうだ」
「じゃあ先生も?」
レングラントは首を振る。
「彼は違う。正妻以外から生まれたショスタークの血を引く子供は…魔力が高ければ男児は兵器として育てられ、女児は燃料として育てられる」
「燃料?」
「結界を維持するための魔力増殖装置。あれは日常的には我々の中でも結界術師が維持している。だが時として異常に減ってしまう時がある…そんな時に犠牲になるのが燃料だ。“もう1人の妹”の話は?」
コールディアが「亡くなったと聞きました」と答えると、彼は頷きながら沈痛な面持ちになった。
「燃料になるには自ら進んで魔力を捧げることが望ましい…それが最大限の魔力を引き出せるから。だがそれは死を意味する。尽きるまで吸い出され、そのあとは廃人になり、やがて衰弱死だ」
「それじゃ妹が亡くなったというのは…」
「自ら魔力を空になるまで捧げた後、廃人となった。“殺して”と叫ぶ声が今でも聞こえる時がある…アフィナシオは彼女が望む通りに殺し、自分も死のうとした……それを止め、父の元から逃がしたのは私とフリーシャだ」
聞いていた話よりずっと壮絶な内容に、言葉ではなく涙が溢れた。
死んだ妹とノートヴォルト、そしてレングラントとフリーシャの4人の兄弟の間には計り知れない絆があったのではないか。
どの道あと数日で絶える命とは言え、壊れた妹に自ら手をかけたノートヴォルトはどんな気持ちだったのだろう。
それこそ、彼も心が壊れてしまうのではないだろうか。
だから後を追おうとしたのではないだろうか。
「だが当時まだ子供の我々がそううまく逃がすことはできなかった。18になった時ようやくそのチャンスが訪れた。その時手を差し伸べ…そう言うと聞こえはいいが、保護してくれたのがマエスティン侯爵だ。彼は結界派への対抗手段を手に入れた。そして取り戻そうとした父との間でなんかしらのやり取りがあり、結果アフィナシオは両家の所有物になってしまった」
コールディアはポケットからハンカチを取り出し、止まらぬ涙を押さえた。
ノートヴォルトがくれた可愛くて繊細なハンカチは、あっという間に濡れていった。
「アフィナシオは君が魔力を伸ばすことは望まないだろう。緊急事態の燃料候補にさせるわけにはいかない。そうならないように私もフリーシャも全力を尽くしているが、現状事態はあまり良くない。妹の…アフェットの捧げた命が尽きようとしている」
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