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第19楽章 先生、気持ちいい… 3
しおりを挟む「楽しかったよ」
「……」
ノートヴォルトが隣を見るも、なぜかコールディアは何も言わない。
「どうしたの?」
「…き、気持ちよかった…」
「…君ってけっこういやらしいんだね」
「中等部前に何言ってるんですかっ」
その時、生徒の間からまた手が挙がった。
「なに?」
「普通に聞き入ってしまい違いがわかりませんでした」
「えぇ…」
せっかく比較して弾いたというのに、演奏に熱が入ってしまい、観衆も聞き入ってしまった。
聞きなれているノートヴォルトとコールディアからすれば、「魔奏とコモンの掛け合いをしてる」とわかるが、彼らにそれは難しかったらしい。
「僕はもう戻るよ。次の講義もあるし。君よろしくね」
「いやいやいやその講義って私が受けるやつなんですけど」
「出席にしといてあげる」
彼はそう言うと去ってしまった。
残されたコールディアと、彼女に注目する生徒。
「え…あ…今度はちゃんと聞いててね!? 私も次の授業あるんだからね!?」
その後コールディアは簡単な曲で説明をすると、生徒たちはわかったのかわからないのか、微妙な反応を見せた。
ちょっぴり肩を落としつつ授業を終了すると、小走りで帰ろうとする。
(わかんないものかなあ?)
そう首を捻りながらホールの出口に差し掛かった時、「先生」と声がかかった。
「…私?」
「はい!」
そこにいたのは、まだ子供の表情満載の女の子。
「あはは、私は助手。学院に戻れば私も学生なの」
「そうなんですか? でも演奏、凄かったです! 私もピアノ習ってるんだけど、なかなか上手にならなくて…どうやったらうまくなりますか?」
「それは私も聞きたいやつだ…」
「でも先生の演奏素敵でした」
「教授じゃなくて?」
コールディアは「先生」と呼ばれることをむず痒く思うも、訂正は諦めた。
「どちらもです! 素晴らしい掛け合いでした!」
「そ、そう…ありがとう。励みになるよ…私もまだまだ練習の日々なんだ」
「あんなに上手でも練習するんですか?」
「するよ。ノートヴォルト教授の演奏にはまだ遠く及ばないし」
女の子は首をかしげる。
演奏に限らず、こういうものはどこまでいっても練習を欠かすことはできないが、彼女はどうもプロは練習しないと思っているらしい。
「そんなに上手なのにどうやって練習するんですか? うまくなりますか?」
「うーん…私の場合はずっと教授がいたからなあ…恵まれてるよなあ…あ、でも憧れの奏者を見つけるのはいいかもよ。私も練習うまくいかないと、教授みたいに弾きたいって思って頑張るから」
「私も上手になるかな」
「なるなる。まだ11だよ? 可能性なんかいっぱいあるから」
「じゃあ私の目標は、先生にします」
「え」と言ってコールディアが固まった。
(先生って、今の場合は私のことだよね?)
「私なんかでいいの?」
「だって凄く楽しそうで、私も楽しくなりました! 私も楽しんでもらえるピアノが弾きたいです!」
「そう…そう! 目標にしてもらえるなんて光栄だよ。もっと頑張ろう…いやほんとに頑張ろう…」
女の子は「ありがとうございました!」と言うと、教室へ帰っていった。
結局自分が出席するはずの授業は終わりの10分しか残らず、しかもノートヴォルトは5分早く終了してしまった。
実質5分の授業が終わると、フレウティーヌがカフェに誘ってきた。
「なんだか嬉しそうですわ? 教授と何か?」
「もうめっちゃ気持ちよかったの…」
「コールディア、あなた学院で何をしてしまったの!?」
「先生とね」
「はい」
「2人で」
「はいっ」
「しちゃったの…」
「何をっ!?」
「ピアノのデュエット」
内容にあからさまにがっかりするフレウティーヌに、コールディアはカフェでいかに演奏が気持ちよかったか、女の子に目標にされて嬉しかったかを熱弁した。
久々に見るコールディアの浮かれた表情に、フレウティーヌは少しだけ安心したのだった。
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