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第28楽章 インテルメッゾ
しおりを挟む「ノートヴォルト教授、いなくなってしまうのは寂しいですわ。教授程正確な演奏指導をして下さる方はいらっしゃいませんから」
学生を代表して、フレウティーヌは去り行く音楽教授に花束を差し出した。
“魔王”との激闘から1か月後、ノートヴォルトは数日の昏睡の後目を覚まし、その後魔術師たちと何か所か魔物の残りの殲滅を行った。そして、学院を去ることを決意する。
もう自由の身であるのに殲滅に同行したのは自らの意志で、彼が守りたいと思うものの生活の憂いを少しでも断ちたい気持ちがあったからだ。
フレウティーヌの隣には涙でぐずぐずのラッピー。
その後ろには沢山の学生がいた。
だけど、いつも傍にいた学生だけは見当たらない。
ノートヴォルトは花束を受け取ると「ありがとう」と言った。
「教授~~。教授の授業は眠くなるけど、いなくなるとなると思うと寂しくなってきました~せっかくこんなにファンもできたのに~」
「別にファンはいらない。ラプソニア、君落第寸前だから僕の後任の話は聞いた方がいいよ…」
そう言って呆れた表情をするノートヴォルトは、もう以前のように枝垂れた髪ではなかった。
人目を避けるようだったその髪は今は短く切られ、その秀麗な美貌を晒している。
「そうですよね。教授はファンよりコールディアですよね」
コールディアは未だ目覚めていない。
枯渇寸前まで減った魔力は、ノートヴォルトの契約により安定したとは言え、すぐに体の機能を取り戻せないでいた。
数日で回復してしまうノートヴォルトが異常なだけであって、普通はこうしてなかなか起きることなどできないのだ。
「フレウティーヌ、ラプソニア。時々でいいから彼女を見舞ってもらえるか」
「どうしてご自分で行かないんですの?」
「…怖いから」
「怖い?」
「魔力を繋げた今そんなことはないってわかってる。でももしあのままかと思うと…もし目覚めた時、以前のコールディアじゃなかったら…だから直視できない。僕は魔力が枯渇した人間を何人も見て来たからね…」
花束の向こうの顔が、少し泣きそうな顔になっている。
「でもそんなんじゃコールディア、目が覚めた時に物凄く怒るんじゃないですか? 勝手にいなくなってて」
「そうかもね。でも怒るので終わるならいくらでも怒られるよ」
「これからどういたしますの? どこかで音楽活動なさいますの?」
「するよ。それが僕のライフワークだから。でもあまり王都からは離れない。もし何かあれば力は貸すってフリーシャと約束したからね」
「フリーシャ様もお寂しいのでは?」
「多分今は1人で色々考えたいんじゃないかな。喋りたくなったらどこにいても押しかけてくるから。ただあれでいて生活面は貴族そのものだったから、そっちがちょっと心配」
直系男子しか領地を継げない決まりのこの国で、フリーシャは領地を返上し、平民になる道を選んだ。
まだ爵位の返上の手続きは終わっていないが、数か月後には平民になる。結界術師としては働き続けるので、仕事面ではあまり変わらないのだが。
返上するにしてもノートヴォルトという直系がいる以上、没収という形にもならずに、彼は返上手続きをするためだけに一時的にショスターク侯爵を名乗らされている。
フリーシャからすれば、そうしてもらうことで財産分与をしたかったのだ。
「それじゃあ行くね。君たちちゃんと真面目に練習しなよ。サボるとすぐわかるらね。あとチューニング。もっと丁寧にやりなよ。僕はもうここには来ないけど、関わった君たちの門出が素晴らしいものになるようにはどこかで祈ってるよ」
「教授~~っ」
「今までありがとうございました」
「教授―!どこかで新曲聞けるの待ってますからー!」
「コールディアとの結婚式呼んでくださいねー!」
「教授かっこいいー!」
「お元気で!」
「遊びに来て下さいよ!」
背中に次々にかけられる別れの言葉に軽く手を振ると、彼は檻であり居場所であった学院を後にした。
コールディアはその後さらに1か月ほどして体が回復した。
目覚めた時、あまりにも桁の違う魔力が流れていることに慣れず、それはそれで大変だった。
学院に戻った時に友達が喜んで迎えてくれたが、そこに一番会いたい人の姿がないことは分かっていた。
流れてくるノートヴォルトの魔力が、近くからは感じられなかったからだ。
季節は廻り時は流れ、コールディアは教員資格を無事取得すると、通常より遅い3年半の学院生活を終え卒業した。
学院の斡旋によりそのままその年は王立魔術学院初等部の非常勤教師となり、その経験の第一歩を踏んだ。
そしてさらに1年。
彼女は1年間初等部の担任を持った後、学院の教師を辞めた。
仕事が合わなかったのではない。
いよいよ本来の目的のために動き始めめたのだ。
準備も終え住んでいた家を引き払うと、魔律道具で少しだけ荷物を圧縮した大きなトランクを抱え、長距離馬車へと乗り込んだ。季節はそろそろ冬だ。
馬車に揺られながら、彼女は大好きな人に会ったらなんて言ってやろうかと考えていた。
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