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番外編 中学の頃2

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~夏休み明け~
「石田さんのお父さんが亡くなりました。」
チャイムが鳴って、ホームルームを始めた担任がそう口にした。
休み中の旅行や出来事を話していた旧友たちは即座に黙ってしまった。
教室が静まり帰っている中、担任は言葉をつづけた。
「元々、東京の病院に入院していたんだけど、急に悪化したみたいです。だから、しばらく石田さんは休みます。もし、休みから石田さんが戻ってきたらみんな温かく迎えてほしい。」
その日のホームルームはそれで終わった。
肉親が亡くなるというのはかなり大きな出来事だろう。
僕自身、想像しただけで怖くなる。
ならば、隣の席の僕は励ましの言葉をかけるのか?
否だ。
それは実に上っ面だ。
「大変だったねー。」

「大丈夫だよ。」
という陳腐な言葉を並べようと実際に体験した本人の心情の100分の1も
分からないだろう。
自分だったら、そっとしておいてほしい。
だから、棒は石田には今まで通りに接することを選択した。
励ましやねぎらいの言葉をかけないことを選んだ。

後日、石田綾香は登校してきた。
席に座るやいなや、クラスの女子が寄ってきて
「大変だったねー。」

「大丈夫?」
と声をかけている。
もちろん、悪口が好きな女子も気に掛ける様子を見せて
ねぎらいの言葉をかけていた。
横目でその光景を見ていた。
こういう女子の場合、優しさを外にアピールしているのだ。
ちゃんと、人にも親切にできるのよ、と言わんばかりの顔。
本心ではみじんも心配などしていないのに
自分の程を守るために人を利用する、僕の嫌いな人種だ。
石田は誰に対しても優しかった。
ほんとは悲しくてしょうがないはずなのに、
一人一人に
「大丈夫。ありがとう。」
と笑顔を絶やさなかった。
それは無理に笑っているようにも見えて、
どこか儚げだった。

石田の復帰から3日くらい経った。
当初のねぎらいの雰囲気が嘘のように日常に戻っていた。
帰りのホームルームが終わり、みな部活に行く。
もちろん、僕も。
行きたくはないけど、この学校は部活動入部が強制なのだ。
なんともめんどくさい。
荷物を持って、友人と部活に行く。
行く途中で忘れ物に気づいた。
「ごめん。先行ってて。」
友人にそう告げて、教室に戻った。
誰もいないだろうと思っていたから、人影があることに驚いた。
しかも、僕の隣の席。
石田が一人教室に残っていた。
僕が驚いたのは石田がいたことだけではない。
石田は泣いていたのだ。
「え。。。」
思わず声が出てしまった。
石田はこちらに気づいて、教室を出ようとする。
「待って!」
僕は石田を呼び止めていた。
なぜ呼び止めたのかは自分でも分からないけど、なぜか1人にしちゃダメな気がした。
石田はびくっとして、その場にとまった。
一瞬の静寂の後、僕は石田に尋ねた。
「無理しなくていいから。」
「。。。。」
「無理しないとだめなんだろうけど、どうしても我慢できないときはいいんだよ。」
「。。。。」
「それに無理するような仲じゃないじゃん、俺らって。そんなに仲良くもないけど、悪いわけでもない関係。それでうわさ話とかするタイプじゃないでしょ?」
「。。。。」
「。。。。」
お互いに沈黙になった。
こういう重い雰囲気の時、どうするのが正解なのだろうか?
沈黙を破ったのは石田だった。
その場で泣き崩れてしまった。
「辛かったよ。。。辛かったんだよ。。。。」
必死で感情を絞りだしていた。
きっと、自分の感情が言い表せないほど追い詰められていたんだろう。
「無理して笑うのも、泣くのを我慢するのも大変なんだよ。。。。」

僕はうずくまってしまった石田の隣にしゃがみ、
「うん。うん。辛かったね。」
そう言って、背中をさすった。
どのくらいそうしていただろう。
嗚咽交じりの泣き声は次第になくなっていき、しばしの静寂が訪れた。
「もう大丈夫だから。ありがとう。」
石田はどこかスッキリしたような顔をしていた。
「とりあえず、あんまり無理しすぎないで。じゃ。」
そう言って、僕はその場を去ろうとした。
「まって!」
「??」
「また辛くなったら、頼ってもいい?」
少し顔が赤くなっている。
上目遣いでお願いしてくる姿は少しドキッとした。
「もちろん!いつでも頼って!」
恥ずかしくて照れている顔を見られたくなかったので
そう言って、すぐに部室に行った。
「どうした直哉、顔赤いぞ。」
こうして僕と石田の奇妙な関係が始まった。
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