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孤児院での暮らし・11歳
別れと旅立ち 2
しおりを挟む恥ずかしくてウルの顔もまともに見られない中、
「歌姫聖女様ぁ~どちらですかぁ~?」
枝の下から、先程の大男の大声が聞こえてきた。
「あ、行かないと! それじゃウル、元気でね。」
私はちょっといつもと違うウルを置いて、先に枝から降りたの。
「歌姫聖女様! 良かった。お客様がいらしています。」
「あの…貴方のお名前は? どうして私の傍にいるの?」
「申し遅れました。」
大男は、また私の前に跪いた。
「わたくしは、中央神殿から派遣されました、聖騎士のダドゥと申します。本日から貴女様の護衛を致します。どうぞお見知りおきを!」
「ダドゥ…さん。」
「いいえ、わたくしのことなど! ダドゥ!とお呼びください。」
「わかったわ、ダドゥ。」
「はい!」
大男…いや、ダドゥは、ニカッと笑って返事をするとシャキッと立ち上がった。
私の身長では、彼の臍と目が合うほどに背が高い。
「それでは参りましょう。こちらです。」
ダドゥは私の右手を彼の左手にちょこんと乗せると、神殿の方へ歩き出した。
私はウルが気になってウルが居る辺りを見るけれど、残念ながらウルが顔を出すことは無かったの。
そういう訳で、結局11歳のウルを見たのはそれが最後になってしまった。
なぜなら……
「歌姫聖女とは、そなたか?」
頷くやいなや、
「では、我が屋敷で入門の支度を整えてやろう。さぁ、参ろうか。」
とか言い出す貴族のオジサンに急に腕を引っ張られてしまったから。
「え、ちょ、わたっ…そん……え?」
何も返事できないまま、シスターに挨拶もできないままに連れ去られそうになる。
ダドゥを見れば、頷きながら良い笑顔で私の誘拐を黙認しているの。
「ちょっ、イヤよ! ダドゥ、私イヤなの。私を守って!」
「しかし歌姫聖女様、こちらの子爵は既にお約束があると…」
「ないわ! 誰とのお約束なのよ。」
「こんな汚い孤児のくせに、わしに楯突くか?」
オジサンは、持っていたステッキを振り上げると、私の脳天目掛けて振り下ろした。
バシッ
「ギャ!」
ギリギリのところでかわし、ステッキは床を打った。
「これ以上打たれたくなかったら、大人しくしろ!」
オジサンはまた振り上げ、振り下ろそうと…
「おやめください! いくらお約束があろうと、こんなことは神の道に反します。」
ダドゥが私とオジサンの間に入る。
「何事だ! 騒々しい。」
そこへ、私の叫び声を聞いたこの小さな神殿のオジサン神官がやって来た。
「やぁやぁ子爵様、お早いご到着で。」
「マル神官よ、どういうことだ。この聖女にはまだ護衛の聖騎士は付いていないのではなかったか?」
「はい、付いておりませ…は? お主は何奴か?」
この流れで、誰との『お約束』かが見えてきた。
問われたダドゥは、オジサン子爵に覆い被さりそうな勢いで見下ろして言う。
「わたくしは、こちらの歌姫聖女様付きの聖騎士、中央神殿から派遣されましたダドゥと申します。」
「そんな!もう中央の知るところだと? 国王に認定されただけではなかったのか、マル神官よ!」
「はいぃ、申し訳ありませぬ。わたしは、わたしはただ、こんなに汚い孤児と同じ馬車に揺られるのを拒否したまでにございまして…」
「借金はきちんと返してもらうぞ!」
「そんなぁ~…」
神官長は膝から崩れている。
でも、自業自得だと思うけど。
そこへ、シスターが1人のお爺さん神官を案内してやって来た。
「神官様、こちらが件の聖女でございます。」
「うむ。さぁ、セアリアと言ったか。早速わしの神殿へ向かうぞ!
ダドゥよ、馬車を頼む。」
「は!」
お爺さんは、正面から私の顔を見ながら話してくれた。
「わしは、中央神殿からの指示でここへ参った、神官のギリアンと申す。
わしのいる神殿はここよりも雪深い北の地方にあってのぅ、お前さんのその芽吹きのパワーが必要なんじゃ。」
「はい。」
「それでな、申し訳ないのだが神殿の周りの雪がまだ溶け切らんで、開山できぬのだ。早速力を貸してほしい。夜は道が凍るからの、もう出なければならんのだ。」
私はギリアン神官に頷くと、シスターのところへ駆けた。
シスターは、私の少ない荷物を旅行鞄に入れて持ってきてくれた。
「シスター!」
私はシスターに飛び付いて、これまで育ててくれたお礼を言うと、シスターは私の頬にキスをしてくれた。
そうして私は、お爺さん神官のギリアンさんと一緒に馬車に揺られることになった。
ずっと窓に貼り付くようにして後ろを見ていたけれど、育ってきた孤児院は、あっという間に見えなくなってしまった。
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