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もろもろあって、最後の1年
ウル
しおりを挟む眩しさに手を翳しながらも、こちらに倒れ込んでくるウルのことはしっかりと抱き締めたの。
背中に回した手は、ウルの傷に触れるかもしれない。
でも、絶対に離しちゃダメだと思ったの。
瞼を下ろした向こうに光を感じなくなって、ゆっくりと瞼を上げながら、ざわざわとした男女の声や悲鳴を聞いて、助かったと思ったの。
すぐにウルをその場に俯せに寝かせると、止血しようと傷の辺りから服を裂いて、ローブの下のワンピースの袖を破いてウルの傷に当てた。
でも怪我の範囲が広くて、全然間に合わない。
焦って、でも傷を押さえつけていると、そこへ《癒しの聖女》が駆け付けた。
私は女性神官に肩を引かれて、ウルから少し離れる形となったの。
《癒しの聖女》付きの神官達が、テキパキと処置を始め、ウルの背中が全面に見えた時だったわ。
右肩から脇腹にかけて斬られたウルの背中には、今回と同じような太刀傷の痕と歪に丸い傷痕があったの。
私はこの背中を見たことがあるって思ったわ。
だって、ラウと同じ場所に傷痕があったのだもの。
でもそれなりにショックだったみたいで、今回は叫ばなかったけれど、私はそのまま気を失ってしまったの。
目が覚めると、中央神殿にある自室のベッドの上だった。
やっと夢が終わったことに、とてもホッとしたのよ。
倒れているトムがラウに変化し、ウルにも変わるという夢をずっと見ていたの。
何度でも私を守って生を終えてしまう彼らを、私はいつでも救えない。
謝っても、泣き叫んでも、彼らは倒れていて、最後には声も出なくなってしまって、とても辛かったわ。
「あー、あー…」
目が覚めると、ベッドの上で声を出してみたの。
眠っていたせいもあると思うのだけれど、声が出し辛かった。
枕元の水差しからグラスに注いで、一気にあおる。
すると少し喉が楽になったの。
それから身支度を整えて、ウルの部屋を目指したの。
何事もないというのはちょっと違うけど、ウルの顔が見たかったの。
《癒しの聖女》の処置が終わっているなら、ウルは部屋に戻っている筈だもの。
けれど、ウルの部屋は無人だったわ。
そこで、《癒しの聖女》の処置室の方へ向かったの。処置室は、ラウも運ばれたと言うし、ギリアン爺も運ばれた場所。
まだ処置中なら慌ただしく神官達が行き交っている筈だし、終わっているなら少し休ませてから私室へ運ばれる筈で…
なのに、処置室前の廊下は静かなものだった。
処置室の扉をノックしてみる。
出てきたのは、片付けをしていた見習い神官の女性だった。
私を見るなり息を飲み、表情は強張るよう。
私は悟ったわ。ウルは、生を諦めてしまったのだと。
だから覚悟を決めて、ウルの安置室の場所を聞こうと口を開いたの。
その時に肩を叩かれ、振り返れば先日話したはまかりの王子が居て…
「彼のところに案内する。ついてきなさい。」
私は、その王子の後をついて行ったの。
着いたのは、いつも王城に用事がある時に到着する、転移陣がある塔の、1つ下の部屋だったの。
《癒しの聖女》の他にも様々な聖女が祈って作った何重もの結界をくぐって扉を抜けると、その向こうにウルが俯せになって眠っていたわ。
「彼の処置は終わってる。ただ、まだ目覚めない。」
夢が現実になったようで、とても辛い。
でも、今回はまだ生を手放してしまう前に会えた。
それがとても嬉しかったの。
「ウルの傍に居ても、良いですか?」
「日の入りまで。ここには灯りがないし、他の聖女の守りが揺らいでしまうから。」
私は頷くと、ウルの眠るベッドの傍らへ膝を付いた。
背中の向こうから、王子が静かに扉を閉める音が聞こえた。
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