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もろもろあって、最後の1年
面会
しおりを挟む「ウル…守ってくれてありがとう。私は無事よ。」
こちら側のウルの手を両手で包めば、ウルがとても冷えていることに気付いたの。
息を吹きかけたり握りしめたり擦ったりしながら、ウルの手を必死に温めたわ。
こちら側からではウルの顔は見えなくて、ベッドの反対側に回って見れば…
冷えているせいか眉間に皺を寄せて、頬も引き攣って見えたの。
そこで、孤児院時代、眠れない時にシスターがしてくれたみたいに、髪を指で梳きながら頭を撫でながらシスターの子守唄を歌ってみたのよ。
今思えば、『祈りの歌』に似ていたのね。
最初は鼻歌程度にしか歌わなかったけれど、手は同じように動かしながら、『祈りの歌』を歌ったの。
ただ、コンサートや祭りとは違って、声を張り上げはしないわよ?
何度も何度も繰り返し歌っただけ。
『祈りの歌』を歌った時に神殿の中がとても暖かく感じたことを思い出して、ウルも温まらないかなぁと思ったのよ。
歌っていると、だんだんウルの表情が穏やかになったように感じたの。
寝息も、余計な力が抜けたみたいに、幼子の寝息みたいに静かになったわ。
少しだけ安心できたら、何だか眠くなってきてしまって…
私はどうやら、そのまま眠ってしまったみたいね。
誰かの咳払いに目を擦ると、私ったらウルのベッドで掛布越しの隣に寝ていたの。
咳払いは、この国の王子によるものだったのよ。
王子は言うの。
「隣国の王子が、《歌姫聖女》に会いに来ている。
現在、南の神殿は隣国の手にある。解放して欲しいなら、《歌姫聖女》を出せと言っている。」
と。
それから、
「南の神殿の周りでも、民は生活しているのだ。頼む、民たちを守りたいのだ。」
とも言った。
「わかりました。お会いします。
それじゃウル、またね。」
私はウルに挨拶をしてから王子に続く。
塔から王城へ入るけれど、謁見の間やら面会室みたいな区画ではなく、居住エリアをうろうろとする。
「面会の相手は隣国とは言え王子だ。これからきちんと準備してもらう。」
「はい。」
私は何故か、お風呂で体を磨かれるところからの準備をし、新しい白のワンピースや聖女のローブを着付けられた。
そうして、全ての準備を整えて私が向かったのは中央神殿だったの。
聖女と使者とが会う控えの間の扉を開く。
けれど、その場に居たのはやたらにギラギラした、絶対に使者ではない男だった。
スラリと長い手足に、少しクセのある銀に近い金髪、振り返れば宝石のような緑色の瞳が煌めく──世界で一番大嫌いな顔…
一般的には白馬の王子様と呼べる顔…それは、あの日に私とトムを終わらせた男の顔だったの。
たぶん、前世を終えた夢を見てすぐの私だったなら、叫んで倒れていたと思う。
でも、今の私は……
バッチーーーンッ!!!
ビンタを喰らわしたわ。
だって、ウルの背中の傷痕は、全部こいつのせいなんだもの!!
その場に倒れ込む華奢な体、私の手型に自分の手を合わせるように触れながらこちらを見上げる視線…
その場に居た全員が、たぶんコイツを被害者だと言うだろう。
でも、もう我慢なんてできなかったの。
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