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俺は竹下ユノシア剣剛ケンゴウ(仮名)。
今日の送別会の主役は俺である。
黑に近い焦茶髪にエメラルドみたいな緑色の瞳の俺は、今日も秘書課のお姉さん方に囲まれながら、内心溜め息を吐いた。



俺には秘密がある。
実は俺は、剣と魔法の世界…いわゆる異世界人の元王子である。
流行りの転生ではない。
俺は自分の意志で、ココにやって来た。

その昔、魔法騎士団と魔法剣士達との合同訓練を、第2王子として視察したことがあった。
その時、俺は1人の魔法剣士に目を奪われる。
身軽で真っ赤な髪を高い位置で結った人物である。
相手を氷漬けにしてから炎をまとわせた剣で一撃、爆裂魔法もドカドカと撃ち込んでも魔力が尽きない。
視察の王族の席は、安全面を考えて高い場所にある。
けれど、その人物が身を翻す度に赤い髪がなびくのはとても目立ち、とにかく目が離せなかった。

訓練を終え、魔法騎士団長とその人物が俺のところへ挨拶に来た。
2人は同じ村出身の幼馴染で、とても仲の良い…恋人同士に見えた。
そう…あの赤い髪の魔法剣士は女性だったのだ。

俺はあの訓練の時に女性と知らないまま好意を持ち、そして2人を前にして失恋した。
2人の関係について訊ねれば2人は顔を見合わせて苦笑い。俺が入って行けないほどの絆を感じてしまったのだ。

けれど俺は諦めきることができなかった。髪色が暗色な俺には元々の魔力量が少なく、だから王子の器ではないとされていた。だから成人早々王位継承権を捨ててはどうかと言われてきた。
最初はそのタイミングで構わないと思っていたのだが、少し予定を早めて学園を中退すると剣の道に進んだ。
彼女に会えるかもしれないという、希望を持って…

幸いにも彼女とはすぐに会え、雜談できるまでの仲になれた。
それとただ単純に、たまに冒険者をしながら魔法剣士の下っ端で働く日々がとても楽しく充実していたというのもある。

しかし、ある事件が起こる。
魔法騎士団長と女性魔法剣士…あの2人の出身地である村からすぐの森でスタンピードが発生。
彼女は村にやってくる魔物の大移動を止めるべく、その身を投じたのだ。

俺か? 俺だってその場に居た。発生の同時刻、彼女と同じギルドで雑談してたんだ。
けれど、王家の暗部の人間に拐われた。
「危険ですから!」
ってさ。


安全な城まで連れて行かれた俺には、魔力量は少ないながら特殊能力があった。
それは、魔法の残りカスみたいな匂いを感じ、辿ること。
城の客室で目を覚ました俺は、あの村の方向の窓を開けた。
すぐに、風にのって運ばれた彼女の匂いを強く感じた。
そこで悟る。
彼女がこの世界から消滅したことを。






俺は絶望した。

しかし、この世界から彼女の体が消えたとしても彼女の魂はまた別の器を見つけ、別の人間としての生を始めるのだろう。
それが《人の理》というものだ。

その次の生に、匂いを感じなかった騎士団長の姿はない。
ならば、先に俺が彼女を見つけてしまえばいい。

俺は、なんとかして彼女の魂の行く先を追う方法を考えた。


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