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しおりを挟む「ハイドライジンガー様!! 今、女性の悲鳴が聞こえましたが……あだだだだ」
エントランスにジェームズが駆け込んできた。
1週間前のぎっくり腰以来、腰を大事に、できるだけ座ったり杖をついていたと言うのに、杖をほっぽり出して全力疾走したジェームズは、案の定主人の前でうずくまる。
「……チッ」
「大丈夫ですか?」
私を肩に担いだ男性は舌打ちを。
私は肩に担がれながらも、お爺さんに声を掛ける。
男性は仕方なさげに反対の肩にお爺さんを担ぎ上げると、大股で廊下を歩いてラウンジへ入ったようだ。
……と言うのも、私の視界は現在逆さなのです。ごめんなさい。
男性は、私と反対の肩に担がれていたお爺さんを長椅子に横たえると、お爺さんに、
「愛しのアリーが見つかったんだ。ちょっと行ってくる。」
「何と!! 初恋の成就、おめでとうございます。」
お爺さんは長椅子に転がったままとは思えないほど、ハキハキと喋った。
「こうしてはいられない。直ぐにお部屋を整えなければ!!…………あだだだだ。」
「あぁっ、大丈夫ですか?」
お爺さんはスクッと立ち上がろうとして、また長椅子に横たわった。
「ジェームズ、お前はここにいろ。今日は帰らない。」
「はい。畏まりました。」
男性は、私を肩に担いだままで来た道を戻って前庭にやって来ると、籠だけを拾ってまた屋敷の中へ戻った。
私はずっと逆さでいたので、ちょっと頭がクラクラしてきました。
男性は厨房へ向かって壺の中から何かを取り出し花のない籠に入れると、厨房の作業台にそれを置きました。
よく見えないですが男性が籠に向かって何かしたようで、籠はスーッと音もなく消えました。
「さて。」
男性は言うと、厨房の作業台に軽く腰掛け、やっと私の頭を上にしてくれました。
と言っても離してくれた訳ではなく、横抱きの状態です。
血が慌てて通常の待機場所へ戻って行くのか、頭がクラクラしたので、男性の左肩に頭をつけるようになってしまいました。
「赤い顔で、瞳を蕩けさせて……誘っているの?」
男性が何か呟きましたが、まだ頭がぐわんぐわんしていて聞き取れません。
すると、未だ巧く焦点を合わせられない瞳が、近付く男性の顔を捕えました。
「あっ」
言った次の瞬間には、私の唇に柔らかいものが触れました。
私は驚いて目を閉じます。
唇に触れる柔らかいそれは、はむはむとゆっくり私の唇を味わうようにしながら、舌でチロチロと私の唇の上下が合うところを刺激してきました。
その時、体が少し揺れたように感じました。
不意に唇が離れたので瞼を上げると、質素な屋敷の厨房だったはずが、きらびやかな背景に代わっています。
しかも、また唇が重なりそうな近さの男性と、どういう訳かマッチしています。
その時、先程のお爺さんとは違った男性の声がしました。
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