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しおりを挟む準備をして城の控室に入ると、間もなく宴は始まった。
僕の居る部屋にも楽しげな音楽やざわざわした声は響いてくるから確かに始まっている。
けれど、誰も呼びに来る者は居なかった。
それからも数刻をそのまま過ごす。
夜会としてはまだまだ続くような時間だが、宴としてはもう終盤に差し掛かるであろうという時間のことだった。
コ…コ、コン…
控え目なノックが静かな室内に響く。
「どうぞ。」
僕の返答に、扉が開く。
顔を覗かせたのは………………屈強な剣士の姿…………の、後ろから、豪華な真っ白なドレスを身に纏った華奢な女性がするりと現れた。
そうして僕の顔を見るなり泣き出した。
僕は仕方なく部屋にサリを呼ぶことにした。
ここはサリの顔を見知った者も多いし、使用人部屋の一室にサリを匿っていたのだ。
サリが女性の相手を始める。
ソファへ誘導すると、女性がドカリと座って足を組んだ。
僕は彼女の視界に入らないよう、剣士の影になる場所に待機した。
サリの出すお茶を女性が一気にあおる。彼女が義兄の言う《公爵令嬢》であろう…諸々の所作に美しさは感じられないが。
そこで、彼女がボソリと何か呟いた。
サリのみ聞き取れたようで驚いたように目を見開いている……が、徐ろに立ち上がると僕のところへやって来る。
「お嬢様は、《自分をボク呼びするイケメン》はお嫌いとのことです。」
「は?」
あまりの内容に、つい声を発してしまった。
「《イケメン》なんて嫌い!
また若い娘を侍らせてアタシを見下して、
『聖女の仕事は終わっただろ? ボクは《運命の恋》に出会ってしまったんだ! キミとは婚約破棄だ。』
とかって言うんでしょ?
アタシはもう帰れないって言うのに、どうしろって言うのよ!」
「それは僕とは関係な…」
「だから何なのよ! だいたいねぇ! アタシはマッチョが好きなのに、こんなもやしと…
せっかくジャンと出会えたのに、絶対にイヤ!!」
「姫…」
僕の隣に控えていた剣士が女性に近付き、跪いて慰める。
「ジャンンンン~!!!」
姫と呼ばれた女性は、ジャンと呼ぶ屈強な剣士抱えられたままその頭にしがみつく。
それを合図にジャンは立ち上がり、腕に女性を乗せると慣れた様子で女性の頭を撫でた。
「ジャン…」
「はい、我が姫。」
何だか様子がソッチ系なのだが…
僕と同じことを考えたサリが寝室の扉へ案内し、2人がその扉へ消えると、僕は一気に気が抜ける。
サリが僕に茶を入れてくれる。
少し温く薄めの茶を一気にあおり、それからソファに寝転んだ。
コンコンコンッ
ノックにサリが立ち上がるが、扉近くで立ち止まり、そのまま後ろに倒れてしまった。
咄嗟に抱き留め、扉からは死角になる椅子へ運ぶ頃には、ノックと共に怒鳴り声まで聞こえてきた。
仕方無しに僕が応対することにすれば、扉が開いた瞬間にでっぷりとお腹を突き出した中年男性が、許可もなく2歩入室してきた。
それから僕の胸ぐらを乱暴に掴むと、眼の前の僕に向かって城の隅々まで聞こえるような声で言い放った。
「いつまで待たせるんだ! もう時間ではないか!! いいか、何としてもあの2人の婚姻証明書を完成させるんだ!! もしできなければ、何のために隣国の元聖女を引き取ったのかわからんではないか!」
その時、キーンとなった僕の耳にも大聖堂の大鐘の音が聞こえてきた。
「この鐘が鳴り終わる時、証明書は魔法契約を果たす! それまでにだ!! できなければお前はクビだ!!!」
バダン!!
ドガッドガッドガッガッ…ガタガタゴト…
騒がしい男は去って行った。
イラッとしたけれど、男が途中で転んだようなので許してやることにした。
鐘はもう半分鳴り終わっていた。
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