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しおりを挟む「スカイ、仕事のことなんどけどね…」
「はい。」
山代さんと島津が出て行くと、私は部長から対面へ掛けるよう言われた。
就職活動時代を思い出す。
当時の部長は人事部の担当だったのだ。
部下や同期を引き連れ、私より後に入室してくる。
私は慌てて立ち上がってお辞儀をして待ち、部長の合図で顔を上げた。
その時、部長の目が少しだけ笑ったような、就活の面接なのに友好的な感じがして…
部長はあの時、もう私が娘だとわかっていたのだろうな。
私は眼鏡を外して目頭を揉む。
眼鏡は視力を上げるためにしている訳ではないので、眼鏡を外したまま部長を見た。
「もう、辞めてしまってもいいんだよ?」
部長の言葉に、私の表情が固まる。
まぁ、水を掛けられたり、髪を掴まれたり、これまでされてはいなかったけれど、やられる危険はあった。
それが、今日は実行された訳だ。
たぶん、私を守るため…なのだろう。
でも私は…
「辞めません。ここには私を必要としてくれる人も居ますし。あの、心配かけてしまってごめんなさい。母には内緒の方向で…
それから、ありがとう。」
《部長》ではなく、《父》として話してみた。
「うん。何かあれば、ちゃんと頼りなさい。僕にも《父親》をさせて欲しい。
とりあえず今日は、《父親》できて、ちょっと嬉しかったよ。」
「ふふ…」
部長が照れたように笑う。
切れ長の目の形は、普段の部長を少し気難しく映す。
私の目は部長に似たのだと思った。
人によっては涼やかだと言うこの目が、ずっとコンプレックスだった。
母が伊達眼鏡を買ってくれて気にならなくなったけれど、大人びたこの目を見て、人が私の感情を読もうと、他人より長く瞳を覗き込むように見る視線が、ずっと怖かった。
感情を読み取られにくいこの切れ長の目だけれど…
目の前の笑う部長を見て、仲間!とか、同志!とかって感じた。
「ねぇ。お父さんは、目のこと誰かに何か言われたこと、ある?」
「ふふっ…聞かれると思った。君が僕と似たこの目のこと、ずっと気にしているの、美弥から聞いて知っていたからね。」
前置きの後に部長は言った。
「子どもの頃は、よく《お高く止まって》とか言われたな。ただの無表情なのに《何怒ってんの?》とかさ。」
私にも覚えがありすぎて、ウンウン頷く。
「でもさ、あれは高校の時だな。美弥が…」
「え? お母さん?」
「うん。美弥が、《次の福田の小テスト、実はビビってるでしょ?》って。
あ《福田》は国語の先生でね。よく、漢検1級みたいな難読漢字の小テストをしてて…
僕は理系で漢字は苦手なのに、《お前はいつでも余裕で良いよな!》って、見た目で勝手に判断されてたんだ。」
「へぇ…」
「僕の中身を、ちゃんと言い当てた最初の人が、美弥だったんだ。それで少しずつ話すようになって、帰り道に家の前まで送るようになって、それである日告白して、そしたらさ!フフフ…」
「あ、フライングプロポーズ?」
「そう。美弥の右手をこう、掴んで告白してたらさ、その日は休みだったとかで、美弥の父親が帰宅した。
で、そのままの勢いで、美弥の父親に宣言したんだ。懐かしいなぁ。」
当時を思い出す父は、とても愉快そうに笑った。
その表情の中には、《冷たさ》なんてどこにも見えなかった。
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