上 下
1 / 9

 はじまり

しおりを挟む

むかしむかし、とても奥手の王様がいました。
大大大好きな隣国のお姫様と婚姻して、とても幸せな毎日を送っていた王様ですが、大事に大事にしすぎて手も出せず、そのうち王妃様は病気で儚くなってしまいました。
ショックのあまり呆然とする王様。
けれどそこへ、王妃様の実家(隣国)から挙兵され、王様は処刑されてしまいました。








…………が、次の瞬間、この世を去った王様は瞼をカッと開きました。
「キャーーーァァ!!」
響き渡るのは、婚姻式前日の隣国のお姫様(後の王妃様)の悲鳴。

「離しなさいよ!」

とりあえず隣国のお姫様は、膝から崩れたと思ったら自分の腹に顔を埋めるように抱き着いている将来の夫を剥がした。

「ハァ…わたくし、やり直しの世界では絶っっ対に貴方と婚姻したくなかったのに…」
「そんな! 僕は君のことを愛していたのに……」
「わたくしだって、貴方を好いていたわ。
でも貴方、私に手出ししなかったじゃない。
挙式のチュウでさえ額だし?ホント王様としてどうなのよ? やる気ない訳?」
「だって…君がかわいすぎるから……」
「え?」
「僕が抱き締めたら、壊れてしまいそうで……」
「は?」
「………………うぅっ…君にまた会えた。嬉しい! 泣く!」
「ハァ………そう言えば、貴方の死因は?」
「あぁ僕? 君の兄君に討たれたんだ。」
「はぁ?」
「だから挙兵されてさ。君の敵討ちだってさ。」
「…………貴方バカなの? どうしてそう、他人事なのよ。死因なのよ?
まぁとりあえず、貴方のやり直しは私の所為みたいね。ごめんなさい。」
「いや……僕こそ。」

「じゃあ、わかったわ。私も腹をくくるわよ。
運良く、明日は婚姻式だもの!」
「うん。」
「まずは、明日の婚姻式…《誓いの口付け》は、きちんと、唇と唇でするわよ。」
「えぇ~?」
「そうと決まれば……」

お姫様は、その場で目を閉じました。

「ん! 早くなさい! 恥ずかしいのよ!」

奥手の王様は、気合いと共にお姫様の頬に口付けました。

その途端、

パシーーーンッ
「痛いよぉ……」

お姫様に頬を張られました。

「ふん! 唇と唇で口付けする練習じゃないの。どうして頬に? ってか、微妙に歯が当たって痛いのよ!!
じゃあ、いいわ。私が見本をするわね。目を閉じなさい!!」

奥手な王様が目を閉じると、直後に柔らかいものが唇にふわっと触れた。

「ひゃんっ」

唇が離れると、王様は変な声をあげながら瞼を上げました。

するとそこには、真っ赤になった顔を両手で庇うお姫様が……

「仕方ないじゃない。わたくしだって初めてなのよ! 前回の初恋は貴方だし、今回の初恋はほんの数分前に始まったのだもの!」

こうして、奥手の王様(現・王太子)とスパルタ王妃様(現・スパルタお姫様)の、人生やり直しはスタートしたのだった。


しおりを挟む

処理中です...