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奥手の王太子とスパルタ姫の婚姻式の口付け
しおりを挟む「……王太子、貴方は隣に立つ隣国の姫を、生涯に渡って愛すことを誓うか?」
「ははははい! 誓います。」
「隣国の姫、貴女は生涯に渡って、この王太子の隣に立つこと、この王太子を愛し、後継を作ることを誓うか?」
「はい。誓います。」
「それでは、誓いの口付けを!」
僕は練習を思い出しながら、ゆっくりと行動に移した。
まずは……
──そうだ。しっかりと向かい合う。
昨日あの後、奥手の王様に育ってしまう現・王太子様は、前回の反省点をスパルタお姫様と一緒にできうる限り思い出して、1つ1つ手順を確認しながら、時に罵倒され、時に頬を張られながら、何度も何度も練習を繰り返したのだ。
そこで、《そもそも奥手の王太子が逃げ腰で、スパルタお姫様と向き合おうともしなかった》という結論が導き出された。
キスをするのに、胸然り、腹然り、つま先然り……《きちんと向き合う》ができていなければ、相手の体の正面中央にある唇へ向けての口付けなんてできない。
《きちんと向き合》わないからこそ、額や頬へのキスをしてしまうのだ。
だから、奥手の王太子様は深呼吸してからスパルタお姫様とつま先から向かい合う。
緊張で、ゴクリと喉が鳴った。
──それから、ヴェールを上げる。
《ヴェールはゆっくりと上げること》これもまた、昨日の反省で導き出された答えだ。
これは、奥手の王太子様の一言による。
「僕、大好きなお姫様の顔が見えると、ドキドキしすぎて何が何だかわからなくなっちゃうんだ。
それに、待たせちゃ悪いと思って、サッと終わらせなくちゃいけないような気がして……えと……」
その時、お姫様は言ったのだ。
「わかったわ。まずはゆっくり深呼吸しなさい。3回深呼吸したら、ヴェールを上げて構わないわ。」
す~……はぁ~……
奥手の王太子様は、3回目の深呼吸をすると、ゆっくりとヴェールを上げた。
前回は、愛されることに、世界一幸せな夫婦になることに、とても自信満々な表情をしていたスパルタお姫様だったけれど、今回はとても心配そうな表情で奥手の王太子様を見ていた。
この表情は、昨日の反省と練習の時にも度々見たものだった。
そして、奥手の王太子様が旨くできた時には薔薇の蕾が綻ぶように笑ってくれる。
奥手の王太子様は、スパルタお姫様のその笑顔が大好きだった。
──よし! 僕、落ち着け…
奥手の王太子様はスパルタお姫様の頬を両手で包み、角度を調整すると、そのままゆっくりとお姫様に顔を近付けた。
途中で瞼を下ろしたのは、新郎新婦、同時だった。
数秒後には2人の唇が重なり、その後、数秒間はそのままじっとして、
チュッ
固唾を呑んで見つめる招待客の中で、最後に大きなリップ音を大聖堂に響かせながら、2人の唇は離れて行った。
けれど、何故か2人の顔が拳1つ分離れたところで、王太子様が再び、今度は噛み付くようにお姫様にキスをした。
そのキスはどんどん深くなり、両頬にあった王太子様の手は、片手はお姫様の腰に、もう片方はお姫様の後頭部へと回る。
「……んっ……ふ!」
深くなったキスは、お姫様から漏れる抗議の声さえ招待客らを官能の扉の向こうへ誘うようなものだった。
そしてそれは、招待客らが見守る中、お姫様が酸欠で意識を失うまで続けられ……
お姫様はそのまま王太子様にお姫様抱っこされて退場するハメになってしまったのだった。
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